<エルバート山山頂はもうすぐ>
ロッキー山脈紀行(23):第5日目(1):エルバート山山頂を目指して
(アルパインツアー)
2010年8月19日(木)~28日(土)
第5日目:2010年8月23日(月)
<第5日目の行程>
<地形図>
<プロフィールマップ>
<深夜の出発>
■真っ暗
昨夜は殆ど眠れなかった.まだ,時差が残っているのだろうか.とにかく一晩中,眠ろう,眠ろうと焦るが,どうしても眠れない.時間は遅々として進まないような,進むような,妙な気分のまま,時間が過ぎていく.
その内に,午前3時になる.モーニングコールの電話が鳴る.
結局,殆ど眠れないまま,今回の旅のメインイベント,エルバート山(Mt.Elvert;標高4,398m)登頂の朝を迎える.
3時30分,ホテルのロビーに集合する.ここで朝食パックを受け取る.そして,3時39分,私達は2台の専用車に分乗して,ホテルを出発する.勿論,まだ辺りは真っ暗である.
私は,たまたま,ネイトさんが運転する専用車に乗車する.
「登山口まで,1時間半ぐらい掛かりますので,その間,なるべく,寝ていて下さい・・」
とネイトさんが言う.
寝不足のまま高い山へ登るのは避けたいので,なるべく眠ろうと思う.ところが,目を瞑ってジッとしていても,結局は眠れない.
何処をどう走っているのか全く分からないが,九十九折りのカーブが続いているらしくて,カーブを曲がる度に,身体が大きく左右に振られる.
小一時間も走った頃,自動車の速度が急に遅くなる.それと同時に,車体が上下左右にユサユサと大きく揺れるようになる.どうやら舗装もしていない悪路に入ったようである.
■エルバート山登山口入口
5時丁度に専用車が停まる.
「登山口に到着しましたよ・・・皆さん,降りて下さい」
とネイトがいう.
辺りは,まだ,真っ暗なので,ハッキリしたことは分からないが,どうやら,鬱蒼とした林の中のようである.ここがエルバート山南登山口入口(標高3,119m)のようである.
気温がどの程度あるか分からないが,とにかく寒い.
広場の片隅を少し登ったところに簡易トイレがある.そこで用足しをした後,5時17分,ヘッドランプの光を頼りに歩き出す.
<ヘッドライトを頼りに>
■真っ暗な中を歩き出す
私は,一番後ろの集団に入って歩き出す.暫くの間,4WDの車ならば通れる程度の悪路が続く.なだらかな登り勾配である.
5時53分,突然,川に突き当たる.丸太を3本束ねただけの橋が架かっている.暗闇の中,ヘッドランプだけを頼りに,この丸太橋を渡るのは少々怖い.
■暗闇の朝食
6時07分,暗闇の中で休憩を取る.
ガイドの指示で,朝食パックを取り出して,ソソクサと朝食を済ませる.朝食パックの中にはドーナッツ状のパン,ミカン,ジャム,ジュースなどが雑然と放り込まれている.
寝不足のためか,それとも標高が高いためか,全く食欲が沸いてこない.このままでは,途中でシャリバテになるなと分かっていても食事が喉に入らない.
結局,ドーナッツ状のパンを一口だけ食べるが,バサバサしていて,それ以上,喉を通らない.仕方なく,袋の中に入っていた小さなチョコレートや飴類を,何時でも取り出せるようにポケットに入れて朝食を終える.
<登山道に入る>
■エルバート山登山口
6時18分,4WD車の終点,エルバート山登山口(South Mount Elbert Trailhead;標高3183m)に到着する.まだ,真っ暗.狭い空き地の脇に,登山口の標識が立っているが,薄汚れていて良く読めない.辺りは,まだ,鬱蒼と茂る森林の中である.
登山口を過ぎると,道幅は人1人が通れるほどの狭さになり,やっと登山道らしくなる.暫くの間は,なだらかな勾配の登山道が続く.
■林の中で最初の休憩
6時21分頃,漸く東の空が明るくなり始める.昇ったばかりの朝日が,林の間を真横に通り抜けて,輝き出す.やがて,登山道は左に大きく曲がる.そして,急な斜面を直登するようになる.斜度は15度程度だろうか.坂道になると,瞬く間に汗ばんでくる.私には,少々,登攀速度が速いように感じるが,付いていけないほどでもないので,少し速いなと感じながらも,そのまま登り続ける.
■林の中で再び休憩
7時10分,標高3,505メートル地点,林に囲まれた登山道の脇で2度目の休憩を取る.そして,7時13分,再び歩き出す.相変わらず林の中の登山道が続く.同じような勾配の登り坂である.
■自作のプロフィールマップ
7時38分,林を抜けて見晴らしの良い空き地に到着する.ここで2度目の休憩を取る.林の向こうに大きな湖が見えている.素晴らしい見晴らしである.
私は,事前にアルパインツアー社から送られてきた地図や資料を参考にしながら,地図に磁北線を書き入れたり,あるいはプロフィールマップを作ったりで,エルバート山について,一応の予習をしている.
余談になるが,源資料の標高はメートルではなくフィートで記載されている.勿論,等高線も20フィートに1本引いてある.これらをメートル単位に換算して,プロフィールマップを作るのは大変な作業になるが,作り出すと面白い.
その地図やプロフィールマップを見ながら,自分がどの辺りを歩いているか,絶え間なくチェックしている.これがまた,とても楽しい.
先日来,“自分は山のベテランだ”と振る舞っていた男性は,登山が始まっても,地図すら見ない.ただ,自分の前の人について歩いているだけ.私は早々に,この男性(以下X氏と呼ぶ)の登山経験は知れているなと見破る.勿論,こんなことは口に出していわないが・・・
<7:33頃,前方に山が見え出す>
<7:38 湖が見えるところで休憩>
<見晴らしが素晴らしい登山道>
■眼下に湖が見える
7時40分,休憩を終えて歩き出す.
すぐに進行方向右手から大きな尾根が合流する.地形図を見ながら,“ははぁ・・今,この辺りを歩いているな”と確信する.そんな私の地図を覗き込んだ女性が,
「この資料,どこで手に入れたんですか・・?」
と私に聞く.
「いえ,旅行社から送られた資料から,自分で作ったんです・・」
登山スクールに通っていた私には,プロフィールマップを作るのは至極当然のことである.こんな指摘をされると,何となく違和感がある.逆に
「ただ,闇雲に,前の人の後を付いて登るんでは,一体,何が楽しいのだろう」
と質問したくなる.
事前に調べておけは,今,自分が登っている位置が分かるだけでなく,
“今は,こんなに苦しくても,あと○○メートル我慢すれば稜線に出られるぞ.そしたら素晴らしい視界が開けるかも知れない”
などと,先々を想像しながら登った方が10倍も楽しいのに・・・
8時07分,登山道の前方に素晴らしい山がクッキリと見えている.
<8:59 眼下に二つの湖が見える>
■不安定な登山速度
8時54分,標高3,900メートル地点に達する.すでに富士山の標高を超えている.さすがに,この高度になると息苦しくなる.ここで休憩.
眼下には,二つの池が見えている.水面で光が反射して白く輝いている.
何人かの方々は,随分と疲労しているように見受けられる.
9時13分,再び歩き出す.登り坂が次第に急になり始める.先頭を行くケイトさんが,花を見つけると立ち止まって,近くの女性に花の説明をする.そのために歩行のテンポが,ストップゴー,ストップゴーの繰り返しになる.
私は後ろの方を歩いていたつもりだったが,何時の間にか,先頭の4~5人のグループの中に居る.私より前にいた方々が次々に後ろに下がってしまったようである.
私のすぐ後を歩いていたX氏が,ハアハア言いながら,
「変に立ち止まらずに,定速で歩き続けて下さいよ・・小刻みに停まったり歩いたりされたら疲れるよ・・」
と大声でケイトさんに注文を付ける.
この点は,私もX氏と同意見である.
■富士山を越える高所で休憩
10時06分,標高4,100メートル地点で休憩.
すでに樹林帯をとっくに越えている.眼下には,相変わらず二つの池が良く見えている.先頭と末尾で,大きく間隔が空いていて,集団がバラけている.
先程来,ケイトさんはとても良い方だが,登山のリーダーとしては経験不足だなと感じ始める.
後から来た方々に伺うと,既に4人の方々が落伍しているという.私は心の中で,
「もう少し歩行速度に注意してあげれば,落伍しなかったかも知れない・・」
と悔しさが湧き出てくる・・・が,ジッと心の奥底に飲み込む.
10時18分,ふたたび歩き出す.
<エルバート山山頂に到着>
■グループがばらける
やや急な坂道が続く.相変わらず眺望の良い道が続く.歩いていても気分が良い.私は,終始,女性3人の後について登る.私のすぐ後には東北地方から参加した背の高い男性(以下Y氏)が続く.その後は,かなり間隔が空いているので気になるが,ケイトさんは一向に構わずに先頭を歩き続ける.X氏は声が届かないほど後ろを喘ぎながら登っている.
私は後ろが気になるが,“待てよ・・私がリーダーではない.あれこれいうのは止めよう”と自己逃避.だまって,先頭集団の中で登り続ける.
10時53分,標高4,250メートル地点で休憩を取る.眼下には大きな湖が三つ見えている.
■突如の腹痛
11時10分,歩き始める.前方にエルバート山の山頂が見えている.すぐそこに山頂があるように見えるが,結構長い急坂が連続する.相変わらず先頭の3人の後に付いて歩いている.私が頂上付近の写真を撮っている間に,Y氏が私をするりと追い越していく.私はY氏に追いつく気力はないので,そのままY氏の後に続く.
ガレた山肌にジグザグの登山道が続く.手許の高度計を見ると,山頂との高度差は後130メートル.僅かである.このとき先頭のネイトさんが,
「山頂まで後,1.7キロメートルほどです・・」
という.
山頂が間近だと聞くと,安堵感が生じる.それと同時に,突然,猛烈な便意を模様し始める.腹部の形が変わるのではないかと思われるほどのガスの充満を感じる.辺りは素晴らしく見晴らしの良いところである.こんな所で雉撃ちをするわけにもいかず,強張って痛い腹を抱えながら登り続ける.
腹痛を感じてから私の登攀速度は幾分遅くなる.先頭の4人とは10メートルほどの間が空いてしまう.
そんなことよりも,一刻も早く雉撃ちをしたい.
<エルバート山山頂;左側が好青年ネイトさん>
<エルバート山山頂>
■山頂で用足し
11時45分,先頭グループより10メートルほど遅れてエルバート山山頂に到着する.山頂はそれほど広くはないが,なだらかな尾根の上にあるので開放感がある.山頂を囲むように腰の高さほどの石垣が作られている.これは強風を避けるためのものである.
山頂には冷たい風が吹いている,先頭グループは風を避けるように石垣の内側に座り込む.
石垣の裏側は直径数十センチほどの巨石が累々と重なる急斜面になっている.私は注意しながら,陰になるような場所を探して,石垣の裏側に回る.それを見ていた先頭グループの女性が,
「どうしてそんなところへ行くんですか.こちらへ来たらどうですか」
と余計なお節介を焼く.
「いや,ちょっと,用事があるんですよ・・見ないで下さいよ・・」
と婉曲に言う.一瞬,何のことかと妙な顔をしていた女性も事態を察してか,首を上下に激しく動かして,分かったとボデーランゲージで返事をする.
私は岩陰にしゃがみ込む.そして,大きな石をどけて,深い穴を作る.尾籠な話で恐縮だが,大量のドロドロをこの穴の中に放出する.腹の中の異物がなくなると,途端に気分がスッキリする.使用した紙を別の紙で丁寧にくるんでズボンの後ろポケットに入れる.そして,小さな石を幾つか穴に放り込んで蓋をする.
「どうせ野生の動物が,ここにきて,この穴を掘り起こして,ドロドロを嘗めるだろうな・・」
と想像する.これが生物界の輪廻である.
そうこうしている内に,後から登ってきた方々も次々に山頂に到着する.
■年長者の新記録
一同揃ったところで,ネイトさんが私に,万歳の音頭を取れという.そういえば,アルパインツアー主催のロッキー山脈のツアーで,山頂まで登った最高年齢者の記録を,私が塗り替えたのだそうである.そこまで言われれば仕方がない.私は,
「ご苦労様でした・・」
と簡単に挨拶して,万歳の音頭を取る.
そして,一同,風よけの石垣の前に並んで,記念写真を撮る.
(つづく)
「ロッキー山脈紀行」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/d0112bf2ff9880e9d3c065147541d7f1
「ロッキー山脈紀行」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/b47d94d331af861b9220d67faa546a1a
[加除修正]
2010/11/02 転換ミス数カ所訂正
ロッキー山脈紀行(23):第5日目(1):エルバート山山頂を目指して
(アルパインツアー)
2010年8月19日(木)~28日(土)
第5日目:2010年8月23日(月)
<第5日目の行程>
<地形図>
<プロフィールマップ>
<深夜の出発>
■真っ暗
昨夜は殆ど眠れなかった.まだ,時差が残っているのだろうか.とにかく一晩中,眠ろう,眠ろうと焦るが,どうしても眠れない.時間は遅々として進まないような,進むような,妙な気分のまま,時間が過ぎていく.
その内に,午前3時になる.モーニングコールの電話が鳴る.
結局,殆ど眠れないまま,今回の旅のメインイベント,エルバート山(Mt.Elvert;標高4,398m)登頂の朝を迎える.
3時30分,ホテルのロビーに集合する.ここで朝食パックを受け取る.そして,3時39分,私達は2台の専用車に分乗して,ホテルを出発する.勿論,まだ辺りは真っ暗である.
私は,たまたま,ネイトさんが運転する専用車に乗車する.
「登山口まで,1時間半ぐらい掛かりますので,その間,なるべく,寝ていて下さい・・」
とネイトさんが言う.
寝不足のまま高い山へ登るのは避けたいので,なるべく眠ろうと思う.ところが,目を瞑ってジッとしていても,結局は眠れない.
何処をどう走っているのか全く分からないが,九十九折りのカーブが続いているらしくて,カーブを曲がる度に,身体が大きく左右に振られる.
小一時間も走った頃,自動車の速度が急に遅くなる.それと同時に,車体が上下左右にユサユサと大きく揺れるようになる.どうやら舗装もしていない悪路に入ったようである.
■エルバート山登山口入口
5時丁度に専用車が停まる.
「登山口に到着しましたよ・・・皆さん,降りて下さい」
とネイトがいう.
辺りは,まだ,真っ暗なので,ハッキリしたことは分からないが,どうやら,鬱蒼とした林の中のようである.ここがエルバート山南登山口入口(標高3,119m)のようである.
気温がどの程度あるか分からないが,とにかく寒い.
広場の片隅を少し登ったところに簡易トイレがある.そこで用足しをした後,5時17分,ヘッドランプの光を頼りに歩き出す.
<ヘッドライトを頼りに>
■真っ暗な中を歩き出す
私は,一番後ろの集団に入って歩き出す.暫くの間,4WDの車ならば通れる程度の悪路が続く.なだらかな登り勾配である.
5時53分,突然,川に突き当たる.丸太を3本束ねただけの橋が架かっている.暗闇の中,ヘッドランプだけを頼りに,この丸太橋を渡るのは少々怖い.
■暗闇の朝食
6時07分,暗闇の中で休憩を取る.
ガイドの指示で,朝食パックを取り出して,ソソクサと朝食を済ませる.朝食パックの中にはドーナッツ状のパン,ミカン,ジャム,ジュースなどが雑然と放り込まれている.
寝不足のためか,それとも標高が高いためか,全く食欲が沸いてこない.このままでは,途中でシャリバテになるなと分かっていても食事が喉に入らない.
結局,ドーナッツ状のパンを一口だけ食べるが,バサバサしていて,それ以上,喉を通らない.仕方なく,袋の中に入っていた小さなチョコレートや飴類を,何時でも取り出せるようにポケットに入れて朝食を終える.
<登山道に入る>
■エルバート山登山口
6時18分,4WD車の終点,エルバート山登山口(South Mount Elbert Trailhead;標高3183m)に到着する.まだ,真っ暗.狭い空き地の脇に,登山口の標識が立っているが,薄汚れていて良く読めない.辺りは,まだ,鬱蒼と茂る森林の中である.
登山口を過ぎると,道幅は人1人が通れるほどの狭さになり,やっと登山道らしくなる.暫くの間は,なだらかな勾配の登山道が続く.
■林の中で最初の休憩
6時21分頃,漸く東の空が明るくなり始める.昇ったばかりの朝日が,林の間を真横に通り抜けて,輝き出す.やがて,登山道は左に大きく曲がる.そして,急な斜面を直登するようになる.斜度は15度程度だろうか.坂道になると,瞬く間に汗ばんでくる.私には,少々,登攀速度が速いように感じるが,付いていけないほどでもないので,少し速いなと感じながらも,そのまま登り続ける.
■林の中で再び休憩
7時10分,標高3,505メートル地点,林に囲まれた登山道の脇で2度目の休憩を取る.そして,7時13分,再び歩き出す.相変わらず林の中の登山道が続く.同じような勾配の登り坂である.
■自作のプロフィールマップ
7時38分,林を抜けて見晴らしの良い空き地に到着する.ここで2度目の休憩を取る.林の向こうに大きな湖が見えている.素晴らしい見晴らしである.
私は,事前にアルパインツアー社から送られてきた地図や資料を参考にしながら,地図に磁北線を書き入れたり,あるいはプロフィールマップを作ったりで,エルバート山について,一応の予習をしている.
余談になるが,源資料の標高はメートルではなくフィートで記載されている.勿論,等高線も20フィートに1本引いてある.これらをメートル単位に換算して,プロフィールマップを作るのは大変な作業になるが,作り出すと面白い.
その地図やプロフィールマップを見ながら,自分がどの辺りを歩いているか,絶え間なくチェックしている.これがまた,とても楽しい.
先日来,“自分は山のベテランだ”と振る舞っていた男性は,登山が始まっても,地図すら見ない.ただ,自分の前の人について歩いているだけ.私は早々に,この男性(以下X氏と呼ぶ)の登山経験は知れているなと見破る.勿論,こんなことは口に出していわないが・・・
<7:33頃,前方に山が見え出す>
<7:38 湖が見えるところで休憩>
<見晴らしが素晴らしい登山道>
■眼下に湖が見える
7時40分,休憩を終えて歩き出す.
すぐに進行方向右手から大きな尾根が合流する.地形図を見ながら,“ははぁ・・今,この辺りを歩いているな”と確信する.そんな私の地図を覗き込んだ女性が,
「この資料,どこで手に入れたんですか・・?」
と私に聞く.
「いえ,旅行社から送られた資料から,自分で作ったんです・・」
登山スクールに通っていた私には,プロフィールマップを作るのは至極当然のことである.こんな指摘をされると,何となく違和感がある.逆に
「ただ,闇雲に,前の人の後を付いて登るんでは,一体,何が楽しいのだろう」
と質問したくなる.
事前に調べておけは,今,自分が登っている位置が分かるだけでなく,
“今は,こんなに苦しくても,あと○○メートル我慢すれば稜線に出られるぞ.そしたら素晴らしい視界が開けるかも知れない”
などと,先々を想像しながら登った方が10倍も楽しいのに・・・
8時07分,登山道の前方に素晴らしい山がクッキリと見えている.
<8:59 眼下に二つの湖が見える>
■不安定な登山速度
8時54分,標高3,900メートル地点に達する.すでに富士山の標高を超えている.さすがに,この高度になると息苦しくなる.ここで休憩.
眼下には,二つの池が見えている.水面で光が反射して白く輝いている.
何人かの方々は,随分と疲労しているように見受けられる.
9時13分,再び歩き出す.登り坂が次第に急になり始める.先頭を行くケイトさんが,花を見つけると立ち止まって,近くの女性に花の説明をする.そのために歩行のテンポが,ストップゴー,ストップゴーの繰り返しになる.
私は後ろの方を歩いていたつもりだったが,何時の間にか,先頭の4~5人のグループの中に居る.私より前にいた方々が次々に後ろに下がってしまったようである.
私のすぐ後を歩いていたX氏が,ハアハア言いながら,
「変に立ち止まらずに,定速で歩き続けて下さいよ・・小刻みに停まったり歩いたりされたら疲れるよ・・」
と大声でケイトさんに注文を付ける.
この点は,私もX氏と同意見である.
■富士山を越える高所で休憩
10時06分,標高4,100メートル地点で休憩.
すでに樹林帯をとっくに越えている.眼下には,相変わらず二つの池が良く見えている.先頭と末尾で,大きく間隔が空いていて,集団がバラけている.
先程来,ケイトさんはとても良い方だが,登山のリーダーとしては経験不足だなと感じ始める.
後から来た方々に伺うと,既に4人の方々が落伍しているという.私は心の中で,
「もう少し歩行速度に注意してあげれば,落伍しなかったかも知れない・・」
と悔しさが湧き出てくる・・・が,ジッと心の奥底に飲み込む.
10時18分,ふたたび歩き出す.
<エルバート山山頂に到着>
■グループがばらける
やや急な坂道が続く.相変わらず眺望の良い道が続く.歩いていても気分が良い.私は,終始,女性3人の後について登る.私のすぐ後には東北地方から参加した背の高い男性(以下Y氏)が続く.その後は,かなり間隔が空いているので気になるが,ケイトさんは一向に構わずに先頭を歩き続ける.X氏は声が届かないほど後ろを喘ぎながら登っている.
私は後ろが気になるが,“待てよ・・私がリーダーではない.あれこれいうのは止めよう”と自己逃避.だまって,先頭集団の中で登り続ける.
10時53分,標高4,250メートル地点で休憩を取る.眼下には大きな湖が三つ見えている.
■突如の腹痛
11時10分,歩き始める.前方にエルバート山の山頂が見えている.すぐそこに山頂があるように見えるが,結構長い急坂が連続する.相変わらず先頭の3人の後に付いて歩いている.私が頂上付近の写真を撮っている間に,Y氏が私をするりと追い越していく.私はY氏に追いつく気力はないので,そのままY氏の後に続く.
ガレた山肌にジグザグの登山道が続く.手許の高度計を見ると,山頂との高度差は後130メートル.僅かである.このとき先頭のネイトさんが,
「山頂まで後,1.7キロメートルほどです・・」
という.
山頂が間近だと聞くと,安堵感が生じる.それと同時に,突然,猛烈な便意を模様し始める.腹部の形が変わるのではないかと思われるほどのガスの充満を感じる.辺りは素晴らしく見晴らしの良いところである.こんな所で雉撃ちをするわけにもいかず,強張って痛い腹を抱えながら登り続ける.
腹痛を感じてから私の登攀速度は幾分遅くなる.先頭の4人とは10メートルほどの間が空いてしまう.
そんなことよりも,一刻も早く雉撃ちをしたい.
<エルバート山山頂;左側が好青年ネイトさん>
<エルバート山山頂>
■山頂で用足し
11時45分,先頭グループより10メートルほど遅れてエルバート山山頂に到着する.山頂はそれほど広くはないが,なだらかな尾根の上にあるので開放感がある.山頂を囲むように腰の高さほどの石垣が作られている.これは強風を避けるためのものである.
山頂には冷たい風が吹いている,先頭グループは風を避けるように石垣の内側に座り込む.
石垣の裏側は直径数十センチほどの巨石が累々と重なる急斜面になっている.私は注意しながら,陰になるような場所を探して,石垣の裏側に回る.それを見ていた先頭グループの女性が,
「どうしてそんなところへ行くんですか.こちらへ来たらどうですか」
と余計なお節介を焼く.
「いや,ちょっと,用事があるんですよ・・見ないで下さいよ・・」
と婉曲に言う.一瞬,何のことかと妙な顔をしていた女性も事態を察してか,首を上下に激しく動かして,分かったとボデーランゲージで返事をする.
私は岩陰にしゃがみ込む.そして,大きな石をどけて,深い穴を作る.尾籠な話で恐縮だが,大量のドロドロをこの穴の中に放出する.腹の中の異物がなくなると,途端に気分がスッキリする.使用した紙を別の紙で丁寧にくるんでズボンの後ろポケットに入れる.そして,小さな石を幾つか穴に放り込んで蓋をする.
「どうせ野生の動物が,ここにきて,この穴を掘り起こして,ドロドロを嘗めるだろうな・・」
と想像する.これが生物界の輪廻である.
そうこうしている内に,後から登ってきた方々も次々に山頂に到着する.
■年長者の新記録
一同揃ったところで,ネイトさんが私に,万歳の音頭を取れという.そういえば,アルパインツアー主催のロッキー山脈のツアーで,山頂まで登った最高年齢者の記録を,私が塗り替えたのだそうである.そこまで言われれば仕方がない.私は,
「ご苦労様でした・・」
と簡単に挨拶して,万歳の音頭を取る.
そして,一同,風よけの石垣の前に並んで,記念写真を撮る.
(つづく)
「ロッキー山脈紀行」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/d0112bf2ff9880e9d3c065147541d7f1
「ロッキー山脈紀行」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/b47d94d331af861b9220d67faa546a1a
[加除修正]
2010/11/02 転換ミス数カ所訂正