残月録

残月がやがて消えていく間にも、私の日常生活の中に何か一瞬の輝きを求めて写真を撮っています.

暗雲

2021-08-19 11:41:16 | 日記



      <暗雲>

夜の風を切り馬で駆けて行くのは誰だ?
それは父親と子供
父親は子供を胸にかかえ
しっかりと抱いて温めている

「息子よ、何を恐れて顔を隠す?」
「お父さんには魔王が見えないの?
 王冠とシッポをもった魔王が」
「息子よ、あれはただの霧だよ」

魔王:「可愛い坊や、私と一緒においで
  楽しく遊ぼう、キレイな花も咲いて、
  黄金の衣装もたくさんある」

「お父さん、お父さん!魔王のささやきが
 聞こえないの?」
「落ち着くんだ坊や、枯葉が風で揺れているだけだよ」

魔王:「素敵な少年よ、私と一緒においで
  私の娘が君の面倒を見よう、
  歌や踊りも披露させよう」

「お父さん、お父さん!
 あれが見えないの?
 暗がりにいる魔王の娘たちが!」
「息子よ、確かに見えるよ
 あれは灰色の古い柳だ」

魔王:「お前が大好きだ。可愛いその姿が。
  いやがるのなら、力ずくで連れて行くぞ」
「お父さん、お父さん!
 魔王が僕をつかんでくるくるよ!
 魔王が僕を苦しめる!」

父親は恐ろしくなり、馬を急がせた
苦しむ息子を腕に抱いて
疲労困憊で辿り着いた時には
胸の中の息子は息絶えていた

      「魔王」
    詩:ゲーテ
    曲:シューベルト

コロナ新規感染者の第5波が来て
大阪は緊急事態宣言のため外出も
ままならず、さらに連日続く豪雨と土砂災害。
この鬱陶しい時期にフト若い時に読んだ
ゲーテの詩を思い出した。