わたしがSFを最も読み漁ったのは80年代で、
星氏の最盛期はもはや過ぎ、すっかり新潮文庫の定番となって、目新しさはあまりなくなってしまった頃だ。
星氏は偉大だと思いつつも、すっごく魅かれて出ているものは全部読みたい、という気持ちにはならなかった。
だからこの本は買ったのではなく図書館で借りた。
読んで驚いた。
時代に、戦争に翻弄される人生。
そのなかでショートショートを作ることを選んだ。
心の傷はしっかり刻み込まれ、表面は癒えたように見えてもそうそう治るものではない、と思い知った。
SFというジャンルを日本の読者に定着させるための先人たちの四苦八苦を知った。
江戸川乱歩、小松左京、筒井康隆、というビッグネーム、
その他にも名前をきくと懐かしくなる面々が続々と出てきて、
80年代SFを読んでいた頃にはちっとも分らなかった意味が、今になって解かれる。
訳が分からずともとにかく読みまくったことが、今になって少しは何かになったような気がした。
『すべてを手に入れることはできない』
というのがわたしの座右の銘で、つまりやたらと気が散るからどれかを選ばなければならない、
と己を戒めているつもりなのだけれど、
星氏がショートショートを貫き通し、それ以外の手に入れたかったが果たせなかったあがきを見ると、
選んで貫くこと、というものの尊さを再認識した。
星氏の人生を見ることは日本の歴史や文壇の歴史を見ることなのだ。
このぶ厚い本に見合った内容だ。
再相氏は、星氏という大きい世界をよくぞここまで描き切った。
予備知識 (古い日本人作家、特にSF) が全くないと読んで辛いところはあるかもしれないが、
これは一読に値する。
↑写真:11月13日朝の山。 本文とは関係ないなぁ。
次に星氏の本を読むときは、なんか違って読めそうです。