::::::
■峯村健司(みねむら・けんじ) キヤノングローバル戦略研究所主任研究員、北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。1974年、長野県生まれ。朝日新聞社の北京・ワシントン特派員を計9年間。ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員などを歴任。「LINE個人情報管理問題のスクープ」で2021年度新聞協会賞受賞。中国軍の空母建造計画のスクープで「ボーン・上田国際記者記念賞」受賞。22年4月退社。著書・共著に『習近平・独裁者の決断』(ビジネス社)、
『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』(幻冬舎新書)、『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)など。
::::::
中国の習近平国家主席が「沖縄」について言及し、それを共産党機関紙「人民日報」が1面で報じたことが波紋を広げている。
キヤノングローバル戦略研究所主任研究員、峯村健司氏が先週の「ニュース裏表」(9日発行)で指摘すると、松野博一官房長官の記者会見でも取り上げられ、複数の新聞やテレビが後追いした。
習氏の発言を受け、中国メディアは早速、「沖縄帰属問題」について世論工作を開始した。
LGBT法案成立を進め、今国会中の衆院解散を見送った岸田文雄首相と、7月に訪中予定という沖縄県の玉城デニー知事は、この深刻さを理解しているのか。峯村氏が最新情報に迫った。
先週発表した拙稿「中国の習近平国家主席による『琉球(沖縄)』発言」ついて、各方面から反響をいただいた。
読売新聞は翌10日に拙稿を追いかけたほか、いくつかのメディアや専門家から取材や問い合わせが相次いでいる。
記事の中で、「一強体制」の頂点に立った習氏
の口から
「沖縄帰属問題」が提起された重要性を指摘したうえで、共産党や政府が沖縄に関する世論工作や「親中派」の支援などの「統一戦線工作」を仕掛けてくる可能性がある、と記した。
これについて、一部の専門家の方々からは「中国政府は帰属問題を本気で考えているはずがない」「報道は大げさではないか」とのご指摘をいただいた。
また、自分の過去の記事を調べようと、ネット検索に筆者の名前を入力したら、「ネトウヨ」という予測変換すら出てきたのには驚いた。
だが、筆者が危惧した通り、習氏の「狼煙(のろし)」を受け、共産党の「喉と舌」である中国メディアによる世論工作が早速始まった。
習氏の発言を紹介する形で、中国と沖縄の長年の歴史を紹介し、それを日本政府が「奪い取った」とする内容がほとんどだった。
〇テレビ特集、「中華文化の生命力」と学者解説
中でも目を引いたのは、中国南部、広東省の深圳テレビが12日に放送した特集番組だ。
約50分間にわたり、中国の学者や研究者の証言を紹介しながら、中国と沖縄の関係を振り返っている。
特に時間を割いたのが、習氏も言及した「閩人(びんじん)三十六姓」だった。
1300年代に閩(びん)と呼ばれた今の福建省から琉球に渡った人々のことで、「久米三十六姓」とも呼ばれる。
その子孫である仲井眞弘多(なかいま・ひろかず)
<
仲井眞 弘多(なかいま ひろかず、1939年〈昭和14年〉8月19日 - 84歳)は、日本の通産官僚、実業家、政治家。
1300年代からの歴史を持つ久米三十六姓の家系に生まれる[7][8]
<<
久米三十六姓(くめさんじゅうろくせい)は、1392年に明の洪武帝より琉球王国に下賜されたとされる閩人(現・福建省の中国人)の職能集団、及びその後三百年間にわたり閩から渡来した者や首里・那覇士族から迎え入れた人々の総称。
>>
自由民主党沖縄県連最高顧問。
沖縄県知事(本土復帰後第6代)、沖縄電力代表取締役社長、沖縄県商工会議所連合会会長などを歴任。報道などでは新字体を用い仲井真 弘多とも表記される。
2006年、普天間飛行場の辺野古移設に関する日米合意の見直しおよび普天間の県外移設を公約としてして知事選挙に当選したが[1]、2013年12月25日、安倍晋三首相(当時)と会談後、27日に辺野古埋め立て承認を発表した[2]。
―略ー
2012年7月、尖閣諸島問題が燻り続ける中で中華人民共和国の北京に沖縄県北京事務所を開所し、中国外交部部長の楊潔篪から高く評価された[20]。
ー略ー
>
元沖縄県知事らの名前を挙げ、今でも沖縄政界で活躍していることを強調している。
このことについて、中国シンクタンク系の研究者は「中華文化の生命力を示しており、異国の地に根を張って力強く生きている」と解説した。
日本の大学教授にもインタビューし、1879年に琉球王国を清国の冊封体制から切り離して沖縄県に編入した「琉球処分」について、「日本が軍隊を派遣して強制的に編入したもので、琉球人が自らの意思によって決めたわけではない」というコメントを紹介した。
そのうえで、「台湾有事」
との関連についても取り上げており、「第二次大戦で苦しんだ沖縄では再び、米国とともに軍事配備を強化しており、軍事要塞化しようとしている」と解説している。
また、9日に玉城デニー知事が防衛省を訪れ、沖縄県内にミサイル配備をしないよう求めたことも紹介している。
そのうえで、7月に玉城氏が訪中することついて、日中国交正常化45周年を迎えた今年にとって「一筋の光明となる」と期待感を示している。
筆者の指摘が、「杞憂(きゆう)」でも「大げさ」でもなかったことが裏付けられただろう。
その際、筆者が強調したように、中国は「言葉の国」でありトップの発言には何らかの意図や狙いが込められているのだ。
このような危機が顕在化しているにもかかわらず、日本政府の反応は極めて鈍い。
国会も、緊急性が高いとは思えないLGBT理解増進法案の議論に時間を浪費している。
中国が本格的に提起してきた「沖縄帰属問題」を打ち消す「世論戦」
を早急にしていく必要がある。