銀行間の振り込みや資金決済を担う全国銀行データ通信システム(全銀システム)で10日朝に発生した障害が、丸2日たってようやく復旧した。
11金融機関はユーザーが被った損害の精査を本格化させる。
しかし金融システムの中核に対する信頼が失墜した影響は大きく、金融庁も実態の把握に乗り出す構えだ。
「振り込みの遅延で多大なご迷惑をおかけし、おわび申し上げる」。
全銀システムを運営する全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)の辻松雄理事長は11日夕、オンライン記者会見の冒頭でこう謝罪した。
接続する金融機関が1000を超え、1日あたり平均13兆円ほどの取引を処理する全銀システムで障害が発生するのは、1973年の稼働以来初めてだ。
会見は2時間近くに及んだが、影響が生じた規模を巡っての説明があやふやで空転する時間が長かった。
そもそもトラブル自体に不慣れな上、それが10日朝から丸2日たっても解消されない展開に焦りを隠せない様子だった。
障害が起きたのは三菱UFJ銀行やりそな銀行など11の金融機関だ。
他行宛ての送金や他行からの着金が遅れ、10~11日で延べ506万件分の処理に影響が出た。受け付けた送金のうち、10日の49万件と11日の38万件の計87万件は11日午後3時半までの日中に処理できず、全銀ネットは別のシステムを使う夜間取引などの対応に追われた。
各機関は取引制限などで対処した。
11日は、中小企業の利用が多い商工組合中央金庫が他行宛ての振り込みを終日停止。
三菱UFJ銀行は午前11時~正午に振り込みの受け付けを止め、山口銀行やもみじ銀行も取引を一時制限した。
〇全国銀行協会に求償の可能性も
東京都内に住む40代の男性会社員は、クレジットカードの支払日を10日に設定していたが、三菱UFJ銀行にある引き落とし口座の残高が5000円不足していたため、ネット銀行から1万円を振り込んだ。
しかし、振り込みの受け付けを知らせるメールがネット銀行から届いたのに、三菱UFJ銀行には着金しないまま。
「このままではカードが止まってしまう」と、コンビニエンスストアに駆け込んでATMから1万円を送金し、何とか事なきを得た。
システム障害がちょうど振り込み期日などが集中しやすい「5・10日」に起きたこともあり、各地の銀行支店では企業の経理担当者らが困惑している場面もあったという。
全国銀行協会は11日、今回の障害で不渡りになった手形や小切手について、不渡報告への掲載を猶予することを金融機関あてに通知した。
またクレジットカード各社は利用額の引き落としができない場合、いったん延滞として取り扱うが、個別の申し出によって今回の障害が原因と把握できれば延滞認定を解除する方向だ。
障害に見舞われた金融機関の一部は、公的な手当や保険金の振り込みでも遅れを確認している。
大手生命保険関係者は「もともと保険金の支払いに数日間の余裕を設けているが、それを過ぎた場合、発生した利息分を受取口座の銀行へ求償する可能性はある」と語る。
三菱UFJ銀行やりそな銀行は、今回のシステム障害期間中に利用客が本来より多く手数料を支払った場合、差額を負担する方針だ。2021~22年にシステム障害が相次いだみずほ銀行も「振込手数料の差額負担などを含め、顧客と会話して損害を補償しているケースがある」(広報担当者)といい、同様の対処を念頭に置いているとみられる。
全銀ネット関係者は、システムベンダーであるNTTデータについても「これから障害の原因を究明する中で、責任ある対応を求めるかもしれない」と含みを持たせる。
障害が起きたある銀行の幹部は「補償の規模が膨らむようなら、全銀ネットや母体の全銀協に対し、11金融機関が相応の分担を求めるだろう」と読む。
システムが復旧し、これから具体的な影響を精査する作業が始まる。
前代未聞のトラブルによる被害の全体像が見えてきた時にどう対処するのか注目される。
〇金融庁、報告徴求命令を検討
今回の障害は、全銀システムと各金融機関を結ぶ「中継コンピューター」(RC)にある、銀行間手数料の設定などをチェックするプログラムで起きたとみられる。
RCは保守期限を迎える6年ごとに更新する必要があり、全銀ネットは23~29年の間、24回に分けて全金融機関で実施する予定だ。
その作業の第1弾が三菱UFJ銀行やりそな銀行などが対象の10月7~9日だった。
全銀ネットは手数料を参照する機能を省いて障害を収めた。
ただ、あくまで応急措置である以上、RCの更新作業そのものが遅れるのは間違いない。25年7月には低コストで汎用性が高い方式をシステムに採用し、PayPayやLINE Payといったスマートフォン決済事業者もつなぎやすくする予定だ。
また次期全銀システムの稼働を27年と見込み、引き続きNTTデータがベンダーを務めるが、安定運用に向けた十分な検証は欠かせない。
今回の障害には、金融庁もいら立っている。
監督局幹部は「銀行取引の基幹システムで、顧客に大きな影響が生じる障害が長時間続いたのは、日本の金融業に対する信頼を著しく損ねた」と問題視。
全銀ネットや母体の全国銀行協会に対して、近く報告徴求命令を出す方向で検討しており、その先に立ち入り検査も視野に入れている。
(鳴海 崇、三田 敬大)