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松永 エリック・匡史Official Columnist
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青山学院大学 国際政治経済学研究科 修士課程修了。
バークリー音楽院出身のプロミュージシャンという異色の経歴を持つビジネスコンサルタントとして活躍。
アーティストとして第一線で活躍した経験を活かし、人間の欲求と官能を引き出すデザイン思考に基づき未来をリードする独自の超右脳系理論はデジタル関係者をも唸らせ、異彩を放ち続けている。
アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBM、デロイト トーマツ コンサルティング メディアセクターアジア統括パートナー、PwCデジタルサービス日本統括パートナーを歴任し、ONE NATION Digital&Media Inc.にて音楽を中心としたデジタルメディア事業を展開。
2018年10月よりアバナード(株)デジタル最高顧問、2019年4月より青山学院大学 地球社会共生学部 教授。
未来は、どのようになっていくのだろうか。 イノベーションを起こし、その先を創っていくのは、私たち人間だ。
未来は誰も知らない。
想像の中にこそ未来がある。
音楽家でありビジネスコンサルタントであり大学教授の松永エリック・匡史が、 独自の視点から世の中を斬り、未来へのヒントを導き出す。
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男子プロバスケットボールのBリーグは、2016年9月に初年度が開幕しました。
当初は自分とは別世界のことだと感じていたのですが、ご縁があってBリーグのアースフレンズ東京Zの山野勝行オーナーとお目にかかり、常識を変えたいというイノベーションへのもの凄いパワーを感じました。
山野氏は大企業のサラリーマンから、スポーツビジネスに身を投じたチャレンジャーです。
自らのチームを「ベンチャー」と称し、新たなイノベーションを起こそうとしている人です。
実際にアースフレンズ東京Zの試合も観戦しましたが、そこには、バスケットボールとビートに溢れた音楽が一体となった、これまで観たこともないエンターテインメントがありました。
Bリーグに止まらず、スポーツビジネス全体にもイノベーションを起こそうとしている山野氏に、自身が考えているスポーツの未来像について聞きました。
〇ベンチャーストーリーをエンタメに
山野氏は、サラリーマン時代から、人として何にチャレンジし成し遂げ人生を全うしていくのかの転機を35歳に設定していました。
高校まではハンドボール部に所属して、選手として活躍していましたが、野球やサッカーも大好きだったそうです。
バスケットボールに出会ったのは30歳になる少し前。
ゲームの持つスピード感や、小刻みに得点が入るドキドキ感に魅せられたそうですが、最も興味を引いたのは、身長の高低に関係なく体の小さい選手でもスターになる可能性を秘めているということ。
日本人は欧米人に比べ身長差がありますが、他のスポーツと違い日本の選手が世界一になることも夢ではない、そこに転機後の光を見出したようです。
「僕は転機の年齢である35歳になったら何かにチャレンジしようと、サラリーマンになった時から決めていました。
その期限が近づくにつれて、どうしようかなと思っていたところにバスケットボールに関心を持ちました。
当時は、観客も少なかったし、今のようにBリーグがあるわけでもない。
こんなに面白いのに、なんでメジャーにならないのだろうという思いが湧き上がりました。
もう少しいろいろやりようがあるのにと考えたし、あと日本代表が弱かったので、やっぱりそれを強くしていかないとなかなかメディアでも取り上げられないと思いました」
バスケットボールにハマりはじめた時期と、自分で決めた人生の転機の期限がリンクして、山野氏はサラリーマンを辞めて、Bリーグに身を投じます。
そして、そこから、日本のバスケットボールを世界規模でメジャーにするという大きな目標を設定したというのです。
山野氏がまず着目したのが、バスケットボールのエンターテインメント性でした。
前述しましたが、実際にアースフレンズの試合を観戦して感じたのは、音響、照明、音楽、DJなどが駆使され、試合の合間にもショーが演じられ、エンターテインメントとして成り立っているということでした。
「スポーツって、勝てば幸せというところがあるのですが、勝てなくても『惜しかったな、また来たいな、この空気が良かった』というストーリーをつくれれば、感動を持ち帰ってもらうことができるわけで、負けてもエンターテインメントになるのです。
それが大事だと思いました」と山野氏は言います。
「うちのチームには、Zgirlsというパフォーマンス集団がいて、試合中に何度か衣装を変えるのですが、その着替えによって会場の雰囲気が変わったりする。負けていて点差が開いているときに、彼女たちに笑顔で一生懸命パフォーマンスをしてもらうと、観ている側も、よし、もうちょっと盛り上がっていこうかということになるのです」
つまり、勝ち負けを超えたエンターテインメントが存在することが重要だと、山野氏は語ります。
さらに、スポーツという総合的なエンタメを楽しむ場としての施設を整備するために投資していくことも、ビジネス上で欠かせないポイントになっていくるようです。
それには資金力も必要になってくるので、なかなか難しい現実もあります。
山野氏のチーム、アースフレンズ東京Zは、昨季が22勝38敗、その前のシーズンは20勝40敗で地区最下位だった。
しかし、観客は年々増え続けています。
「成績でいったら、1年目がいちばんよくて、この5年間下がりっぱなしです。でも、観客は増えていて、ファンクラブも大きくなり、売上も右肩上がりです。スポンサーの企業数も増えているし、負け試合が多くなっているにもかかわらず、ありがたいことです。
チームはまだ2部ですが、Bリーグを観ようとなると、1部のチームの試合を観に行くわけですよ。
じゃあ、2部のチームの売り物ってなんなのかというと、僕はまさにベンチャーストーリーだと思うんですよ。
少しずつ成長していく姿にファンも自分を重ねてくれるのです。
勝ち負けを超えて選手の諦めない姿勢、チームとファンが一丸となって世界を目指してチャレンジするストーリーが人を惹きつける。
僕らはまさにベンチャーストーリーをエンタメにしているんです」
マーケティング的には、サッカーのJリーグとよく比較されるBリーグですが、山野氏は、「アースフレンズ東京Zのライバルはディズニーランドだ」と公言しています。
「僕らは東京23区のど真ん中でやっているので、どう考えても最大のライバルはディズニーランドなんですよ。
あちらは無敵の帝王みたいな感じで、お客さんは何度でも出かけるわけじゃないですか、料金も安くないのに。そんな異業種にライバル心を抱いていかないと駄目なのですよ。
同じスポーツ業界に限っていては、ビジネスとしては伸びていかない。
ディズニーランドはいわば広い視野を持つということの象徴です。
今これが流行っているなとか、こういうサービスが受けているんだとか、とにかく先入観に囚われずマーケットを考えることがいちばん大事じゃないかと思うんです」
従来のスポーツという枠を超えて、まさにイノベーションを起こそうとしている山野氏、やはり自らのキャリアを生かして、ビジネスという視点でスポーツの未来を考えています。
「日本においては、スポーツは支援するものというイメージがこれまでは強かったように思います。スポーツとはお金を儲けるものではなく、企業や行政が投資や税金で支援してあげないと成り立たないというのが、これまでの考え方でした。
それはそれで素晴らしいことだとは思いますが、今後の流れとして、自己採算で負債にならず、独立してやっていけるというモデルを増やしていくことが、これから未来のスポーツに求められていると考えています。
いま、2020年のオリンピックですごくスポーツ界は盛り上がっていますが、終わるとまたシュンとなってしまう。
そこで、いちばん重要になってくるのが、どうこれをきちんとしたビジネスに結びつけていくかだと思っています」
〇世界で活躍する選手を育てたい
そんなビジネス的視点でスポーツを捉える山野氏ですが、話を聞いていて、興味を引かれたのは、選手教育についての話でした。
さまざまな場でスポーツ選手のセカンドキャリア、つまり引退後の就職が難しいという問題についての議論がされますが、山野氏は「セカンドキャリア」という言葉自体がスポーツ選手にとってはよくないことだと言い切ります。
「2部の選手なんかは、引退して普通に一般企業とかに就職すると、ただの一社員になるわけじゃないですか。
そこで偉そうにふてくされていたらどうしようもない。
バスケットボールを通して何を学んできたのかと言われてしまう。
まさにその人の社会性が問われるわけで、そういったときに恥ずかしくないように、それを教えてあげるのもチームの役目だと思っています。
とにかくスポーツ選手を特別視しないというのが重要だと思っています。
選手というのは一つの職業なのです。
個人差はありますが、一般的な人と同じようにキャリアや生き方に対する不安を持っています。
選手の時代に変に甘やかすことによって、逆に選手を弱くさせるし、同時に社会に出たときに苦労する」
山野氏は、1、2カ月に1回、選手を集めてミーティングをしているといいます。
そこでは社会人としての心構えやお金の話もすると言います。
「お金の使い方の話もします。
ちょっと有名だからって周りからおごってもらったりして、盛り上がっちゃっていると、すぐ終わるよって。
選手というブランドが剥がれた瞬間、選手のお前はなくなる。
それを理解しておかないとダメだよって。
もう、これは人生のコーチですよ。
でもある時期を一緒に過ごすのですから、教育することも必要だと思うのです。
いまはアスリートのセカンドキャリアを支援する事業がある。
セカンドキャリアという口当たりのいい言葉で、特別扱いのような雰囲気があります。
でも、基本は自分で考える、それがベースだと思うんですよ。
考えるきっかけとして、支援事業とかをチームが紹介していくというのはもちろんいいと思います。
でも、最終的には自分で考えるというのが当たり前だということを、僕は選手にわかってもらうことが大事かなと思っています」
山野氏は、自らのチーム、そしてBリーグも、経済界の1プレーヤーとして認められ、共生していけるようにしていきたいとも言います。
さまざまなジャンルの企業に認められ、あくまでも支援の対象ではなく、対等な仲間として認められ、同じ土俵でビジネスをしていきたいと考えているのです。
さらに、ディスニーランドのような場を目指すため、バスケというスポーツだけでなく音楽やパフォーマンスと融合しエンターテインメントと共生していくことも重要になります。
そして、もうひとつ、地域の中での共生も挙げています。
地域の中では世代間のギャップもあれば、同じ土地のなかでも異なるカルチャーがあったりする。
その中での共生を、アースフレンズ東京Zが取り持つような役割になりたいと考えています。
「①ビジネス、➁エンターテインメント、➂地域の3つのくくりで、スポーツチームのアースフレンズ東京Zとして、多様性という部分をうまく発揮できていければいいなと思っています。
垣根をつくらない、いや垣根を壊すような存在でありたいと願っています。それがプロスポーツチームとしての役割だと思っています」
山野氏の話を通じて感じたのは、常にチーム、そして選手の自立を目指して、さまざまな戦略を立て、実行に移しているということです。
まさにベンチャー企業のような経営。自由な発想と、実現すれば大きなインパクトをもたらすムーンショット的な目標が、アースフレンズの魅力だと思います。
だからこそ、関わる人たちをワクワクさせてくれる熱量と大きな愛を感じました。スポーツ界に変革を起こす可能性もあるのです。
そして、その先には、世界をも射程に入れています。
「僕は、今は世界で活躍できる選手を育てていきたいと思っています。うちから出た選手がNBAの試合とかワールドカップの決勝とか出場して、そういう世界の舞台で活躍する姿を観ながら、みんなで美味しいビールを飲む。
たった1分でもいいです。そんな瞬間をみんなで味わいたいというのが、僕のなかでのいちばん大きな夢です」