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田中美蘭
韓国在住ライター
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たなか・みらん/1977年生まれ。
学生時代よりアジアに興味を持ち、オーストラリア留学後、韓国系企業に勤務。在職時は通訳や研修コーディネートなどを担当。
2003年から韓国に在住。ラ
イター業は16年になり、長年の韓国在住歴を生かし、「現地の声を伝える」をモットーに韓国の時事問題、政治、経済、教育や芸能、美容、グルメ、旅行に至るまで幅広い分野で多くの執筆を手がけている。
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緊張感が増している韓国と北朝鮮の南北関係。
ここに来て、さらに不穏な事態が起こっている。
5月末から6月にかけて、「汚物風船」なるものが北朝鮮から韓国に放たれたのだ。
文字通り、ゴミや糞尿が中に入った大きなバルーンである。
北朝鮮側はこれを「(韓国への)誠意ある贈り物」と声明を発表、韓国側も挑発的な態度を強めている。
一見すると幼稚な行為に思えるが、背後に潜む真の意図とは? この奇妙な挑発は、日本にも無関係ではない。(韓国在住ライター 田中美蘭)
|||ソウルを含む、韓国の各地に「汚物風船」が飛んできた
日韓関係が政権交代のたびに変動するように、南北関係もまた政権交代のたびに変動する。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は北朝鮮寄りの親北政権だったが、尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が大統領に就任してからは、北朝鮮への強硬姿勢に転じた。
これに反発した北朝鮮は、韓国に揺さぶりをかけるような挑発行為を繰り返している。その一つが「汚物風船」だ。
汚物風船の中身は、日常生活で排出される一般ゴミが大部分で、その他廃電線や、廃電池、肥料、家畜のふんなど。
北朝鮮側は風船を2回飛ばしたと声明を出しているが、韓国軍は「今年に入って5回目」と6月24日に発表している。
風船は1回目に3000個、2回目は1400個、分かっているだけで計4400個は飛ばされているようだ。
SNSの投稿やマスコミの報道で公開された写真を見ると、“風船”といってもかなり大きく、気象観測用バルーンくらいの大きさがある。
風船の一部は、ソウルとその周辺の京畿道(キョンギド)をはじめ、東部の江原道(カンウォンド)や中部の慶尚北道(キョンサンブクド)にまで到達したという。
飛来したものの中には、日本大使館が入居する建物の屋上や、大統領府の近くなどソウル中心部に落下したものもあった。
さらに、6月9日に2度目の「汚物風船」が飛ばされた際には、風向きなどの関係で釜山方面までに達する可能性もあると、注意喚起を促す災害メールが発信されるなど、韓国全土で緊張が高まった。
この騒ぎにより、韓国軍は、北朝鮮との軍事境界線でこれまで停止していた拡声器による北朝鮮への挑発放送を再開させる対抗措置に踏み切った。
汚物風船が飛来した各地では、回収のために軍が出動、安全を確認しながら撤去作業を行った。
また、これにより軍の兵務が週末でも平日と同様の体制となり、警戒レベルが引き上げられるという影響も出ている。
|||汚物風船に対し、韓国国内の反応は……
韓国内でも「汚物風船」を巡ってさまざまな意見が出ている。
「汚物風船などとはふざけている」「子どものケンカ並みの幼稚さだ」「韓国もバカにされたものだ」といった声がある一方で、「一見、バカげた行為と見せかけ、韓国世論を油断させ、さらなる挑発行為や攻撃を仕掛けてくる可能性もある。
軽く見るのは危険だ」と指摘する声も出ている。
前述のように、風船の大きさ、飛来距離や、落下した場所を見れば、今回は大事に至らなかったとはいえ、不穏な事態であることは明らかだ。
さらに、北朝鮮からの脱北者たちが集まった団体が、北朝鮮に向けて30万枚のビラを飛ばすと発表したことを受け、北朝鮮は再び韓国に向けて汚物風船を飛ばすと予告し、警戒が強まっている。
一見、北朝鮮の一連の行為は幼稚でバカげた行為に思えるが、軽視はできない。
仮に風船の中に有毒物質が含まれていて、不特定多数の人が集まる場所で流出すれば多大な被害が出ると予想される。実際に、複数の風船がソウルの都心部にも飛来したことを見れば、決して笑って済ませられる問題ではないことがわかる。
また、この問題は日本にとっても無関係ではない。
今回の件で思い出されるのは、
過去に ―西大陸・戦狼外交・人質外交・脅威・共産党独裁・権力闘争・漢民族支配・ウイグル族・・・従属・孫子の兵法―中国のものとみられる偵察気球が日本上空に飛来した件である。2019~21年にかけて3回にわたり、気球型の飛行物体が日本の上空に出現し、鹿児島県、宮城県、青森県などで確認されたというものだ。「謎の飛行物体」としてさまざまな憶測を呼び、世論を騒がせていたことを覚えている人も多いだろう。
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防衛大臣
岩屋 毅(いわや たけし)
【在任期間】 2018(平成30)年10月2日~2019(令和元)年9月11日
防衛大臣
河野 太郎(こうの たろう)
【在任期間】2019(令和元)年9月11日~2020(令和2)年9月17日
プロフィール(首相官邸ページへ)
防衛大臣
岸 信夫(きし のぶお)
【在任期間】 2020(令和2)年9月17日~2022(令和4)年8月10日
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当時、同様の飛行物体は米国にも飛来したが、米軍は気球を撃墜、残骸を回収して分析していた。
日本と米国の対応が対照的で、日本が何の対応もしないことに疑問を呈する声も上がっていた。その後防衛省は、2023年2月、
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防衛大臣
浜田 靖一(はまだ やすかず)
【在任期間】2022(令和4)年8月10日~2023(令和5)年9月13日
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この飛行物体について「中国の偵察気球と強く推定される」と断定を避けた表現で見解を述べるにとどめている。
「汚物風船」の中身が北朝鮮の現在の困窮ぶりを表していると指摘する意見もある一方で、思いのほか広い範囲に飛来している、という声もある。
また、今回は韓国の出方や反応を見るための試験的なものであり、今後、さらに技術を向上させたものを韓国や日本に向けて放つ可能性も否定できない。
6月19日にはロシアのプーチン大統領が北朝鮮を訪問、金正恩(キム・ジョンウン)総書記との蜜月関係をアピールした。
一方、韓国も6月22日、米海軍の原子力空母を南部の釜山に迎え入れ、6月末には日米韓の3カ国による合同演習を予定している。
今後も南北関係の動向から、目が離せない状況が続きそうだ。