世界標準技術開発フォローアップ市場展開

ガラパゴス化から飛躍:小電力無線IEEE802規格開発会議・・・への寄与活動拡充

静止衛星「きく2号」「ひまわり1号」「さくら1号」「ゆり1号」誕生の追跡管制ヒストリー/1984年5月/船 川 謙司

2023-02-20 14:46:38 | 連絡
〇宇 宙 開発 事業 団 の追 跡 管 制 シス テ ム* 船 川 謙 司**
日本航空宇宙学会誌 第32巻 第364号 (1984年5月)
  1. は し が き
宇宙開発事業団(NASDA)は,58年2月 の 「さ く ら2号a」 に至 るまで,計13個 の衛星 を 打ち 上げた が,こ れ らの衛星がロケッ トか ら切 り離 された後の運 用はすべて追跡管制シス テムによって行われ る, 
一方,衛 星が切 り離 され る前の ロケ ッ トは,射 場 お よびダウンレンジ等の打上げ管制シス テムに よって, その誘導,飛 行 安全等の運用が行われ ており,ロ ケ ッ トと衛星の分離時が両システムの分 担の境界 とな って いる. 
また,宇 宙科学研究所(ISAS)の 打ち上 げた科学 衛 星についても,そ の軌道決定はす べてNASDAに よ って行われてお り,し たが っ て 日本が打 ち上げた24 個の衛星のす べてが,NASDAの 追跡管制 シ ス テ ム に依存 してい るわけで,こ の システムは,米 ソに次い で最も繁忙な追跡管制 システムといえよ う. 
米 ソでは,有 人の人工衛星(宇 宙船)が すでに珍し くないが,日 本を含 め他の 国 の 場合は,こ こ当分 の 間,無 人の衛星が追跡管制の対 象であ る.
し たが って いったん打ち上げられた後に,衛 星に な ん らか の 不 具合が生 じて も地上か らの遠 隔制御(コ マン ド)で 回 復を図る以外に方法がない.
し たが って高額 な経費で打 ち上 げられた衛星が,そ の予定 した運用期間中使命 を達成で き る よ う,ま た もし万一不具合を起こして も,致 命的にな らない前に対策 がとれ るよう,一 刻の 油断もなく衛星の状態の監視と制御が,各 衛星の運用 期間中行われるのが普通である.
こ の意味で追跡管制 作業は,宇 宙開発の最終的な目的を達成 するために不 可欠な作業であ り,し たが ってそのシステムにも高い 信頼度が要求 され る. 
NASDAの 追跡管制システムは,昭 和42年 に実験 が行われ た 「角度併用 ドップ ラ周波数測定方式 」か ら 始 まって,わ が国の宇宙開発計 画の進展に伴い,数 次 の発展段 階を経て,今 日の姿になったが,当 初 より一 貫 して 自主技術による開発を 目指して,し かも各衛星 の追跡管制 において所期の 目的をほぼ完全に達成 して きた. 
以下NASDAの 追跡 管制 シ ス テ ム の 概要につい て,若 干 の歴史的な発展の経過 も含めて述べることと したい.
2. 追跡管制の概念
人工衛星がその 目的と す る使命を達成す るた めに は,ま ずその位置や姿勢を把握 して,必 要に応 じてこ れ らを制御し,あ るいは,衛 星の動作状 況を調べてそ の機能が所定 のとおり発 揮され るよう制御す ることが 不可欠である. 
衛星か らの電波を受信して,そ の到来方向や衛星ま での距離等 を観測 して,そ の位置を知 る,す なわち軌 道を決定す る 作業を追跡(tracking)と 称し,衛 星の 動作状況を示す テレメ トリ(telemetry)を 受信 して監 視や解析を行 い,こ れに基づいて衛星を適当な状態に 保つ よう制御信号すなわちコマン ド(command)を 送 る等の作業を管制と称 し,両 者を合わせて追跡 管制あ るいはTTCと 略称す る.
少 し観点を変えて見れば,衛 星の剛体 としての運動 (軌道 力学,orbital dynamics)を 知るための軌道.姿 勢の測定 およびその制御 と,内 部状 態(電 圧,電 流,温度等)の 管理の た め の 作業(house keeping)に 大別 され る. 
広義にはHKの データ取得の み な らず,ミ ッシ ョ ンデータの取得 も含める場合が あり.NASDAの 各 種試験衛星の ミッショ ンデー タの 取得は追 跡管制 シス テムに よって行われている,
し かし実用の観測衛星 た とえば気象衛星「ひまわり」につ い ては,気 象庁の 地上 シス テム が雲画像の取得に 当たって おり,NASDAは 打上げ. 静止 軌道への投入,衛 星のチェ ック等の初期 段階の作 業が終了 した後 は 狭義のTTCの み を 分担す る.
一 方,通信 衛星「さくら」,放 送衛星「ゆり」につ いては,初 期段階までを 担当し,そ の後はTTCも含 めて ユーザに全面的 に引 き渡す こととなってい る. 
このよ うに衛星の種 類に応じ て,NASDAの 追跡 管制 システムの果たす べき役割も,種 々変化す るが, いずれにせ よ多種多様 な衛星からの要求 に対し,効 率 よ く,し か も高い信頼度で対処す るために,シ ステム 設計に多大 の苦心が払われている. 
3.NASDA追 跡管制 システムの発展
3.1 科学衛星の追跡
昭和42年2月 角度測定併用 ドップ ラ周波数測定方 式の実験が,大 学,国 公立研究 所,企 業等 の研究者よりな る科学衛星の電波追跡 のた めの研究班(SAlO)の 検 討 結果 に従 って,関 係機関 の協 力によ り実施 された.
こ れ に基づ いてNASDA の前身である宇宙開発推進本部において,追 跡局 の位 置の選定,軌道 決定の ソフ トウ ェァ の開発等が行わ れ,昭 和43年11月 には実衛星(米国 の衛星)デー タ に よる軌道 決定が可能となるまで に到達した. 
このシステムは,沖 縄,勝 浦,東 大内之浦の3追 跡 所 と計算セ ン タ ー(航空 宇宙 技術研究所 内),お よび 紙テープによるデータ伝送方式よ り成 る簡単な もので あったが,昭 和45年2月,初 の国産科学衛星 「おおすみ」 の追跡でその性能が実証 された.ド ップ ラ方式はまっ た くわが国独自で開発された ものであ り,以 来今 日に 至るまで主 としてISAS=宇宙科学研究所=の 衛星 の 追跡に使用 され て いる.
3.2 中高度衛星の追跡管制
事業 団の 初 の 技術試験衛星 「き く1号」および これに続 く、実用の電離層観測衛星「うめ」の追跡管制を行 うた めの施設 ・設備の整備が,昭 麹48年 か ら開始 された. 
この システムの特徴 は以下の とお りである.
3.2.1 高精度軌 道決定方式の採用
従 来の ドップ ラ方式に 加 え て,レ ン ジ ・ア ン ド・レ ン ジ レー ト (RARR)方式 が開発 され た.
こ の方式 は地上 か ら送 信 した電 波を衛星の トランスポンダ(中 継器)で 折 り 返 し,地 上で受信す ることに より,衛 星までの距 離と 距離の変化率を測定す るもので,新た に開発 された ソフ トウ ェアと相 まって,軌 道決 定の 精度が ドップラ方 式 より1桁 よ いこ とが,昭 和50年9月 に打 ち上げら れ た 技術試験衛星「きく1号」 によって案証 された.そ の次の 実用の電離層観測衛星「うめ」 には従来の ドップ ラ方式が使用 され たが,こ れを除い ては,NASDAの 衛 星はす べ てRARR方 式に より 行われている.
3,2.2 テ レメ トリ ・コマ ン ド関係 の設備整備およ びソフ トウェアの開発
テレメ トリ,コ マン ドの設備 が 昭和50年 に新設 され た 増田追跡管制所に設置され た,ま た筑波宇宙セ ン ター(昭 和47年4月 より追跡 業務を開始)に も,関 連 設備 および通信回線が整備さ れた. 
ソフ トウェアとして,衛 星状態の モニタおよびコマ ン ド送信のた めのオンライン運用 プロ グラム,解 析の ためのオ フラインプ ログラムお よび姿勢決定プ ログラ ム等が開 発された.
3.3 静止衛星の追跡管制
わが国の静止衛星打上 げ技衛の確立を目 指して,技術試験衛星「 きく2号 」

が当初 昭和51 年に打上げ予定であっで,そ のための ソフ トウェアの 準備は昭和47年 ごろより開始され て いた.
し かし昭 和48年 になって 気象衛星「ひまわ り」

,通信 衛星「さ くら」

,放 送衛星「ゆ り」

の 3静 止衛星がユー ザからの強い要請に基づ いて,昭 和 51年 にNASAの 手で打 ち上 げられ る こ とが決定さ れた.
こ の結果,計4個 の静止 衛星に対す る追跡管制 システムを非常な短期間に開発 しな ければな らなくな った.こ のシステムに対 して要求されたことは次のと おりであ る.
3.3.1 USB (Unified S Band)方 式の採用
NASAで 打 ち上げられ る 気象衛星「ひまわ り」,通信 衛星「さ くら」,放 送衛星「ゆ り」の3衛 星について は,国 内局 の不可視域についてNASAの 追跡管制支援を受ける こととなったので,NASAの シス テ ムと適合 させる 必 要か ら,こ のテレメ トリ,コ マン ドおよびRARR を上下各一つの周 波数帯に統一 した方式 を採用するこ ととな り,追 跡管制所の その後 の整備計画に大 きな影 響を及ぼ した.
3.3.2 静止衛星用 ソフ トウェア
技術試験衛星「きく」2号 につ いては,静 止軌道投入のためのプログ ラムの開発が自 主 技術に より引きつづ き行われた、
一方,NASA打 上げの気象衛星「ひまわ り」,通信 衛星「さ くら」,放 送衛星「ゆ り」の3衛 星については,時 間的制約か ら,米 国から の既存 ソフ トウェアの導入に一部頼 らざるをえなくな ったが,そ のため衛星 こごとに異なるソフ トウェアを使 用す る結果となった. 結局52年2月 の 技術試験衛星「き く2号 」の打上げから53年4 月の 放 送衛星「ゆり」の打上げまで,4静止 衛星の追跡管制は すべて成功したが,短 期間に開発を強行したため,そ の後の運用性 と効率性の面 で い ろ い ろ な問題 が残っ た.
・・・略・・・
6. む す び
追跡管制システムと運用す べき衛星との間には適合 性があ ることが要求 され るの は当然であるが,衛 星の TTCの 仕様は衛星 ごとに異な るのが,こ れ までの実 情であ り,衛 星に地上 を合わせ ることを余儀な くされ ている.
コス トの面か ら見れば,い ったん整備したシステム がなるべ く長期にわた って使用で きるよう,す なわち 将来打ち上げ られるで あろう種 々の衛星に適合しうる ようにシステムを設計 して お くことが望ましい. 
シス テムの計画に際 しての入 力としては
 (1) 宇宙開発計画に基づ く衛星の打上 げ計画
 (2) TTC運 用 についてNASDAと ユー ザとの 分担の方 針
 (3) 国際無線通信条約による電 波の割 り当て 等があ り,
こ れ らの条件を考慮 し,ま た予算を勘案し て計画をたてるが,実 際にすす めようとす ると種々の 問題が生ずる.
た とえば,計 画段階では必ず しも衛星の運用につい ての情報 の詳細が明 らかで な く,し か も打上げ期 日を 守 るため,先 行 して準備 をすすめてお く必要がある場 合が多い.
ま た衛星の打上 げ計画そのものが毎年見直 され,ユ ーザの要求,開 発の進み具合,こ れまでの打上げ実績の評価などにより変更 される可能性があ る. 
したが って長期にわたる開発の計画に当たっては,種 種の条件の見透 しをつ けるこ とが重要であるが,
あ る ものは切 りすてて,
と にか くスケ ジュールを確保で き ることを最優先をせざるをえない. 
現在までの打上 げに お いて,NASDAの 追跡管制 システムは一応所期の目的は十分 果たしており,そ の 点では高 く評価で きるが,将 来においては開発 および 運用コス トの低減が強 く要求 されてお り,高 い信頼性 を損なうことな く,さ らに汎用化,省 力化の努力をす すめる必要があ る. 
なお少し先の目標 とし て は,わ が 国独 自のTDRS
こだま(DRTS)
もようや く長期 ビジ ョンに取 り上 げられつつ あ り,各 方 面の協力を得て実現 させ たい. 
NASDAの 追跡管制シス テ ムが 自主開発によって 今 日まで発展 し,そ の運用において ほとんど完全な成 功をおさめえたのは,SA 10の 時代か らわが 国独 自の 開発 の方 針を採用して努力を重ねて きた関係各位の見 透しのよさによると こ ろが 多い,
そ の意味でSA 10 の指導に当た られ た齋藤現宇宙開発委員,初 期 のシス テム開発の任に当たられた村松元追跡 管制部長をは じ め,
協 力いただいた各研究機関,メ ー カ,NASDA関 係者等多 くの方々に深甚な謝意を表す る次第である.



最新の画像もっと見る

コメントを投稿