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三塚 聖平
東京中国総局記者
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中国の習近平国家主席
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が巨大経済圏構想「一帯一路」
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を提唱してから今秋で10年となる。
途上国のインフラ建設を巨額資金で援助し、自国経済圏に引き込んで影響力拡大につなげた一方で、中国の過剰な融資により途上国が苦しむ「債務の罠(わな)」が国際社会で警戒される。
中国と結ぶ鉄道が開通して1年半超が過ぎた東南アジアのラオスでも、過大な債務負担が懸念されている。
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■田園に巨大駅舎
中国雲南省昆明とラオスの首都ビエンチャン間の1035キロを約9時間半で結ぶ中国ラオス鉄道は2021年12月に開通した。
中国の「ゼロコロナ」政策が撤廃され今年4月からは旅客の直通運行が始まった。
アジア最貧国の一つであるラオスで鉄道建設は長年の夢だった。
ラオス側の起点・ビエンチャン駅は、中心部から車で30分超という郊外にある。
家畜の牛の姿が目立つ田園風景の中に、不釣り合いな巨大駅舎がそびえており、周辺には「中国・ラオス友好の象徴的プロジェクト」との垂れ幕がある。
ラオス側の起点・ビエンチャン駅は、中心部から車で30分超という郊外にある。
鉄道は「中国式」そのものだ。駅舎に入るには手荷物・身体検査が必要で、出発間際までホームに入れないため待合スペースで待つという中国の高速鉄道と同様の仕組みを採用。
乗務員は中国人、ラオス人の双方がいたが、ラオス人乗務員も中国語で接客していた。
中国メディアによると、9月3日までの累計乗客数は延べ2090万人を突破。中国企業のラオス進出も増えており、街中を走る車は中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)など中国製が目立つ。
現地の経済関係者は「中国企業で働こうと中国語を勉強する若者が増えた。
給与が桁違いに高いからだ」と指摘する。
ビエンチャンで小売業を営んで20年になる中国・重慶出身の50代男性は「昔はラオスで中国人への扱いは悪かったが、鉄道ができるなど中国の存在感が増して尊重されるようになった。中国が発展したおかげだ」と笑顔を見せた。
■「民間に恩恵ない」
一方、ラオス側には国内で中国が影響力を増すことへの警戒もある。
30代のラオス人男性経営者は「政府は中国に助けられているが、民間人は恩恵を感じることができない」と声を潜めた。
ラオスの首都ビエンチャンのワットタイ国際空港近くには巨大な中華街がある。
3年前に営業を始めたというホテルの館内は中国語表記が目立ち、警備員の制服も漢字で「保安」と書かれていた。
中華街の一角にある建設現場に掲げられた作業責任者の一覧表を見ると、6人中全員が中国人とみられる名前だった。
一帯一路を巡っては、企業だけでなく資材や労働者まで中国から持ち込む〝ひも付き〟の形がとられ、地元経済への影響が限定的だと指摘される。
両国国境近くのラオス・ボーテン駅の周辺では、中国資本のビルやホテルの建設ラッシュで、中国語や人民元の使用が日常化しているという。
■深まる中国依存
王毅(おう・き)共産党政治局員兼外相
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は8月中旬、昆明でラオスの国家副主席と会談し、鉄道開通が「ラオス人民に確かな利益をもたらしている」と強調した。
将来はタイ・バンコクやシンガポールまで鉄道網を延伸する構想も取り沙汰されている。
ただ、一連のプロジェクトの持続可能性は不透明だ。
中国ラオス鉄道は中国側が7割、ラオス側が3割出資した合弁会社が建設と運営を担う。
総工費はラオスの国家予算の2倍弱にあたる約60億ドル(約8900億円)。うち6割に当たる約35億ドルは中国輸出入銀行からの借り入れだ。
ラオス側は債務の政府保証を行っていないが、同国の「隠れ債務」になる可能性が指摘される。
ラオスの対外公的債務は22年末時点で105億ドルで、国内総生産(GDP)比84%と既に高レベル。
対外債務の半分を占める中国への依存は強まっている。
多額の対外債務は通貨安を招いており、外貨建て債務返済負担の増加も懸念される。(ラオス・ビエンチャン 三塚聖平)
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