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・ホトトギス氏にそそのかされて、
ボルゲーゼ公園を散歩したあと、
べネト通りを馬車に乗る。
あんがい、ガタビシと震動して乗り心地はよくないが、
高いところから町が見られて、
風は快く肌にあたり、
タクシーよりは気分がいい。
バルベリー二通りからコンドッティ通りへ出て、
有名店をのぞいたけれど、
イタリアはインフレだからゼロがいくつもついていて、
手が出にくい。
その上、有名店はみな店員が威張っていた。
私は大阪育ちなので、
態度に威厳のありすぎる商売人なんていやなのだ。
愛想のいいおじさんの店でハンドバッグを一つ買ったら、
おじさんはただひと言、
「トカゲ」という日本語を知っていた。
暑くなってきた。
おっちゃんはあちこち引き回されてうんざりした顔、
テルミ二駅へ行ってみると、
午前11時発のはずの列車が、
午後1時までまだ出ていない。
乗客は怒るでもなく、おとなしく待ち、
退屈なので窓に鈴なりになっている。
弁当を食べてる人もあった。
それで興味を持って駅弁を買ってみたら、
日本円で二百円くらいで、
パンに小さな赤ワインの瓶、
ハムと野菜サラダ、
骨付きの鶏のフライ、
ケーキのごときものが紙袋に入っている。
列車には乗らなかったが、
ここの駅からバチカン行きの二階バスが出ている。
乗り込んで二階の一ばん前の席へ坐ると、
つんのめりそうな高さ、
バスがカーブするときなど、
倒壊しそうな気持になるが、
町の建物の高さはよくわかる。
小さい私が町の谷底をうろうろしていたって、
建物の巨大さはわからないはずである。
夜はローマではじめて魚料理の店。
タベルナというのは、
魚介類を食べさせるところらしいけれど、
ガリバルジー橋の近く、「トリルッサ」と読むのかなあ。
ここも子供連れの客でいっぱい。
うしろは中年のカップル、
隣は友人同士らしい夫婦者二組四人、
その中へ、宝くじ売り、花売り、歌うたいが入ってくる。
ここの歌うたいは中年のおっさん、
しかも声はかすれて出ない。
「中々、哀切でええ味やないですか」
とおっちゃんは、ひとごとのようでなく見ていた。
おっさん歌手は「オーソレミオ」と「サンタルチア」を、
例のごとく歌い、自分でギターを弾く。
「定年退職して、やってるのかもしれまへんな。
日本のサラリーマンも、こんな流しくらいできるやろ」
とおっちゃんは考えぶかくいい、
ホトトギス氏は気の毒そうに、
「しかし、日本の中年はギターが弾けないでしょう」
おっちゃん聞こえないふりして黙っている。
ご指摘通り。おっちゃんは、戦中派大正二ケタ、
鳴り物はすべてダメな人間である。
さて、今夜食べたのはムール貝とイカ、
それに魚のスープ、
舌ビラメ、
ムール貝の生にレモンを絞って食べたのが印象に残った程度で、
イタリア料理はレモンをふんだんに使うんだなあ、
と思ったくらい。
隣の席の婆さんが「サンタルチア」の歌に合わせて、
体をゆすっているのが面白かった。
魚はやっぱりヴェニスが美味しい。
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(了)