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・エビ焼き屋は立ち食いもできるが、
奥には殺風景な大食堂がある。
牢屋のようながらんとした石の部屋に、
天井からはだか電球が下がっていて、
そこに無数の丸テーブルと木の椅子があった。
ガタガタのテーブルと椅子に坐ると、
まわりは若い男女ばかり。
「学生ですね」ということである。
木のテーブルにはソ連国旗や闘牛の絵が、
ナイフで刻みつけてあったりして、
日本のタタミに必ず煙草の焼けこげあとがあるのと同じ。
椅子やテーブルに油が染み、
コンクリートの床に、紙ナフキンが散乱しているさま、
喧々ごうごうのやかましさなどは、
ちょっと尼崎あたりのギョーザ屋「珉珉」という感じ、
ここへ坐ると人数分の指を立てただけで、
小エビの鉄板焼きの皿がくる。
小エビの他は売っていない、
小エビの専門店なのである。
十センチから十五センチくらいの小エビが七、八匹、
塩焼きされて皿にのってくる。
それにフラスコに入った赤ぶどう酒が乱暴に置かれる。
小エビ一皿、四十五ペセタ、
赤ぶどう酒一ぱい、十ペセタ。
一ペセタは三、四円見当だから、いかにも安い。
学生がわんさか詰めかけるはずである。
ほかの料理は一切なし。
ただもう、ひたすら小エビの皿一辺倒、
それが次々運ばれ、客は次々食べてワインを飲む、
それが、牢屋のような石の部屋とはだか電球であるから、
ローマより更に荒々しい。
ここからくらべると、
ヴェニスなんか、退廃的なまでに文化が高かったなあ。
やっと来た来た、
給仕人はものをいうひまもない忙しさに、
仏頂面をしている青年。
湯気を立てている小エビの皿が、
ガチャン、ガチャンと置かれる。
スペイン男は、うまくいくと戦慄的美男になるので、
少女漫画にある目に星の入った美少年など、
ざらにいる。
そういう男の子が、
忙しさのあまりむ~っとむくれて、
小エビの皿を置いていくのである。
前掛けをしてゴム長をはいて。
小エビはすこし、塩が利きすぎであるが、
大衆的な味のワインを飲むのに、ちょうど手ごろ、
男の荒っぽい料理だから、めっぽう美味しいのであった。
新鮮なエビにぱらっと塩を振って、
鉄板でジュウジュウ焼くだけ、
新鮮なものは、荒っぽく、なるべく手をかけないで、
食べるのが美味しい。
何皿でも食べられそうであるが、
なるったけ、
次の赤提灯の料理も経験しようというので、
一皿だけで出ることにした。
向こうの学生がひときわわいわいいっているのは、
K夫人によると、
「ドミノで、勘定を払う人を決めているんですね」
ということであった。
一皿、百二、三十円で新鮮なエビが食べられる、
というのが、本当の安い食べ物ではなかろうか。
日本で安い食べ物をさがすとなると、
それは、古い、いたみかけの食べ物だったり、
人工食品だったりする。
旬のもの、新鮮なものを安く食べられる、
というところがない。
小エビばかりの次は、
野菜ばかりの店へいってみた。
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