現実逃避 80年代に時間旅行というタイトルで書いていた頃の記事です
親しげに笑いかけてきた人に見覚えはなかった。さっさと用を済ませようとするわたしに、
「どこかでおねえさんと会った気がするんですけど」彼は首を傾げた。
「えーっ、?そうですか」わたしは笑って俯いた。
あまりまっすぐ見つめられるのは苦手だし、ちょっと厭なことを思い出したから。
ずっと昔に会った陰気で、粘着質な男の眼差し。
懸念は無用だった。彼はそれ以上何も追求することなく、さわやかに去っていった。
きっと、自分の記憶違いに気付いたのだろう。まさかナンパでもあるまい。
それならばもっと若い子相手にするだろう。おばさんと呼ばれなくてよかった。(ホッ)
夏の午後だった、門扉に手をかけて庭に入ろうとした時、後ろから声がした。
「ちょっと待って」
若い男が自転車に乗って追いかけてきた。(ついでにわたしも若かった)
「僕のこと知ってるでしょ?どこかで会ってる」
どこから追いかけてきたのか知らないけれど、息が上がって汗ばんだ男の神経質そうな顔に見覚えはなかった。
眼鏡の奥の思いつめたような目の中に、何らかの魂胆を探ったがよくわからない。
大体、僕のこと知ってるでしょ?って何なの?
「さあ・・・知りません」
あまり関わりたくないと思ったし、買い物帰りで荷物が重かった。
「駅でだったかな、S駅の」
「・・・・・・?」
いつも利用する駅の隣駅だった。時々買い物に出かけることはあったけれど、目の前にいる男が視界に入ってきたことはない。
毎朝駅で会う、知らない人だけれど、知っている人々の顔を思い出してもみたが、そのメンバーに男の顔はなかった。
「ここに住んでるんだ」
まずいことに家を知られてしまった。普通ならばそんな男は無視するだけのことなのだ。
90年代に入り、世の中の軽薄さは深まっていた。普通に家から駅に行くまでの間や
コンビニから出てきたところで、この類の男にでくわすことはたまにあったが、もっとみんなカラッとしていた。
共通の入り口から入り、中庭を挟んで一軒の家とアパートがあり、わたしはアパートの一室の住人だった。
部屋を知られたくない。どうやってやり過ごせばよいものやら・・・。
中庭から家の方に進んでやり過ごすか、いやいや、付いて来たら他人の家に入っていくわけにもいかない。
「話がしたいんだ」
「ちょっとここじゃ困るんですけど」
暑さと、困惑でわたしは顔を抑えた。当時、いつもMr.ロンリーとの思い出の指輪をしていた。
細く狡猾そうな男の目がその指輪を捕らえたらしい。
「結婚してるの?」
とっさにわたしは嘘をつくことができず否定した。しまった、肯定すべきだった。
「結婚はしていないけど・・・とても好きな人がいるから」
そんなことを言って通用する相手でないことはわかっていた。一見、大人しそうな勉強ばかりしているような風貌だが、かなり図々しい。
下手な鉄砲数打てば・・・と、手当たり次第に同じようなことを言っているに違いない。
あるいは、性格異常者か・・・何にしても好きになれない目をしていた。
さて、どうしたものか・・・・
仕方ないので、少し歩きながら話をすることにした。どうも男はその界隈の土地勘はないらしいことが歩いているとわかった。
通りを一本変えて、わざとちょっと複雑な住宅街の中を歩いて、駅前の喫茶店にでも捨ててこよう。
しかし、この男、本当に見かけによらず、まるでモテ男みたいな振る舞いで、たった今会ったばかりだというのに
肩に手を回してきたり恋人気取りなのだ。そう、まさに『僕のこと知っているでしょ』状態で、まるで長い付き合いみたいに。
わたしにとってはまるで見知らぬひとだ。触られるのは抵抗がある。大体、この生活圏で、知っている人に見られたらどう説明すりゃいいの。
その頃のわたしはMr.ロンリーとの将来ばかり考えて、他の男なんぞ目にも入らなかった。
わたしにそんなことしていいのはMr.ロンリーだけだ。
「やめて下さい 困りますから」
ここで男は豹変。下手な鉄砲が外れたゆえの怒りか、男はわたしを罵倒し始めた。それもすごい剣幕で。
いやぁ、だけど本当に軟派な男ならば、こんな場合あっさり引き下がってさらりとしているはず。
たかだか触るなと言われたくらいで、ものすごい剣幕と形相。やっぱり性格異常者か。
腹は立つは、気味悪いは、暑いは・・・もう我慢ならぬと、その場に男をうち捨てて踵を返した。
この間わたしは無言だった。かなり頭にきて、腹が立っていたので喧嘩してもよかったが、言葉がでないくらい腹が立っていた。
初めからそうすればよかった。無言の勝利。無言の力を思い知る。男は追ってはこなかった。
冷たいものを買ってきたのがぬるくなってしまった。
変てこな男にちよっぴり傷つけられた収まりのつかない心。
その後、男が自転車を取りに来て、道に迷うのをチラと目撃、いい気味だった。
その昔、「ヤヌスの鏡」('85~'86)というドラマがありました。原作は漫画でした。
漫画はともかく、ドラマは言い方は悪いですけど、ちゃちなお粗末な、わざとらしい、くっさーい作りでした。
それなのになぜか見てしまう・・・魅力がありました。
まじめな主人公の中に宿る、もうひとつの人格が夜の街で暴れまくる?ような話だったような?
その『もう一人の人格』になったときのメイクは、笑いたくなる過去とか、
古くさっというレベルのものではその当時からなかった気がするので、今見たらもっとすごそう。
声もぜんぜん別の人が吹き替えていて、そうだなあ・・・
韓国とか台湾のドラマ(あまり見たことがないけど)を吹き替えでみているみたいな
ちょっと口元と音がずれているみたいな違和感がありましたっけ。
そんなわけでこれ名場面集 http://www.youtube.com/watch?v=jrI3Ewwp-T0&feature=related
今観てみたら、思っていたほどひどくありませんでした。
変身場面 2:41~3:46
わたしが一番印象に残っている場面 4:16~5:37
「僕のことしってるでしょ?」
「もしかして、夜の街で暴れまくってるわたしを見ましたか?」
と、でも言ってみれば逃げ出して行ったかもしれない。ところで、本当に暴れまくっていないよね?わたし。
今ならば、「知るわけないでしょ」と即答だ。
親しげに笑いかけてきた人に見覚えはなかった。さっさと用を済ませようとするわたしに、
「どこかでおねえさんと会った気がするんですけど」彼は首を傾げた。
「えーっ、?そうですか」わたしは笑って俯いた。
あまりまっすぐ見つめられるのは苦手だし、ちょっと厭なことを思い出したから。
ずっと昔に会った陰気で、粘着質な男の眼差し。
懸念は無用だった。彼はそれ以上何も追求することなく、さわやかに去っていった。
きっと、自分の記憶違いに気付いたのだろう。まさかナンパでもあるまい。
それならばもっと若い子相手にするだろう。おばさんと呼ばれなくてよかった。(ホッ)
夏の午後だった、門扉に手をかけて庭に入ろうとした時、後ろから声がした。
「ちょっと待って」
若い男が自転車に乗って追いかけてきた。(ついでにわたしも若かった)
「僕のこと知ってるでしょ?どこかで会ってる」
どこから追いかけてきたのか知らないけれど、息が上がって汗ばんだ男の神経質そうな顔に見覚えはなかった。
眼鏡の奥の思いつめたような目の中に、何らかの魂胆を探ったがよくわからない。
大体、僕のこと知ってるでしょ?って何なの?
「さあ・・・知りません」
あまり関わりたくないと思ったし、買い物帰りで荷物が重かった。
「駅でだったかな、S駅の」
「・・・・・・?」
いつも利用する駅の隣駅だった。時々買い物に出かけることはあったけれど、目の前にいる男が視界に入ってきたことはない。
毎朝駅で会う、知らない人だけれど、知っている人々の顔を思い出してもみたが、そのメンバーに男の顔はなかった。
「ここに住んでるんだ」
まずいことに家を知られてしまった。普通ならばそんな男は無視するだけのことなのだ。
90年代に入り、世の中の軽薄さは深まっていた。普通に家から駅に行くまでの間や
コンビニから出てきたところで、この類の男にでくわすことはたまにあったが、もっとみんなカラッとしていた。
共通の入り口から入り、中庭を挟んで一軒の家とアパートがあり、わたしはアパートの一室の住人だった。
部屋を知られたくない。どうやってやり過ごせばよいものやら・・・。
中庭から家の方に進んでやり過ごすか、いやいや、付いて来たら他人の家に入っていくわけにもいかない。
「話がしたいんだ」
「ちょっとここじゃ困るんですけど」
暑さと、困惑でわたしは顔を抑えた。当時、いつもMr.ロンリーとの思い出の指輪をしていた。
細く狡猾そうな男の目がその指輪を捕らえたらしい。
「結婚してるの?」
とっさにわたしは嘘をつくことができず否定した。しまった、肯定すべきだった。
「結婚はしていないけど・・・とても好きな人がいるから」
そんなことを言って通用する相手でないことはわかっていた。一見、大人しそうな勉強ばかりしているような風貌だが、かなり図々しい。
下手な鉄砲数打てば・・・と、手当たり次第に同じようなことを言っているに違いない。
あるいは、性格異常者か・・・何にしても好きになれない目をしていた。
さて、どうしたものか・・・・
仕方ないので、少し歩きながら話をすることにした。どうも男はその界隈の土地勘はないらしいことが歩いているとわかった。
通りを一本変えて、わざとちょっと複雑な住宅街の中を歩いて、駅前の喫茶店にでも捨ててこよう。
しかし、この男、本当に見かけによらず、まるでモテ男みたいな振る舞いで、たった今会ったばかりだというのに
肩に手を回してきたり恋人気取りなのだ。そう、まさに『僕のこと知っているでしょ』状態で、まるで長い付き合いみたいに。
わたしにとってはまるで見知らぬひとだ。触られるのは抵抗がある。大体、この生活圏で、知っている人に見られたらどう説明すりゃいいの。
その頃のわたしはMr.ロンリーとの将来ばかり考えて、他の男なんぞ目にも入らなかった。
わたしにそんなことしていいのはMr.ロンリーだけだ。
「やめて下さい 困りますから」
ここで男は豹変。下手な鉄砲が外れたゆえの怒りか、男はわたしを罵倒し始めた。それもすごい剣幕で。
いやぁ、だけど本当に軟派な男ならば、こんな場合あっさり引き下がってさらりとしているはず。
たかだか触るなと言われたくらいで、ものすごい剣幕と形相。やっぱり性格異常者か。
腹は立つは、気味悪いは、暑いは・・・もう我慢ならぬと、その場に男をうち捨てて踵を返した。
この間わたしは無言だった。かなり頭にきて、腹が立っていたので喧嘩してもよかったが、言葉がでないくらい腹が立っていた。
初めからそうすればよかった。無言の勝利。無言の力を思い知る。男は追ってはこなかった。
冷たいものを買ってきたのがぬるくなってしまった。
変てこな男にちよっぴり傷つけられた収まりのつかない心。
その後、男が自転車を取りに来て、道に迷うのをチラと目撃、いい気味だった。
その昔、「ヤヌスの鏡」('85~'86)というドラマがありました。原作は漫画でした。
漫画はともかく、ドラマは言い方は悪いですけど、ちゃちなお粗末な、わざとらしい、くっさーい作りでした。
それなのになぜか見てしまう・・・魅力がありました。
まじめな主人公の中に宿る、もうひとつの人格が夜の街で暴れまくる?ような話だったような?
その『もう一人の人格』になったときのメイクは、笑いたくなる過去とか、
古くさっというレベルのものではその当時からなかった気がするので、今見たらもっとすごそう。
声もぜんぜん別の人が吹き替えていて、そうだなあ・・・
韓国とか台湾のドラマ(あまり見たことがないけど)を吹き替えでみているみたいな
ちょっと口元と音がずれているみたいな違和感がありましたっけ。
そんなわけでこれ名場面集 http://www.youtube.com/watch?v=jrI3Ewwp-T0&feature=related
今観てみたら、思っていたほどひどくありませんでした。
変身場面 2:41~3:46
わたしが一番印象に残っている場面 4:16~5:37
「僕のことしってるでしょ?」
「もしかして、夜の街で暴れまくってるわたしを見ましたか?」
と、でも言ってみれば逃げ出して行ったかもしれない。ところで、本当に暴れまくっていないよね?わたし。
今ならば、「知るわけないでしょ」と即答だ。