武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

001. 鉛筆削り

2018-10-06 | 独言(ひとりごと)

 毎年日本から3~4ダースの鉛筆を仕入れてくる。

 ポルトガルにも専門店にでも行けばいい鉛筆をみつけることはできるのだろうが、別段そういうこともしない。

 ポルトガルのスーパーや露店市にも売ってはいるが、そういうところにはろくな鉛筆がない。

 日本から持ってくると言っても特別なものでもない。

 宮崎の量販店で売られている、あの昔から慣れ親しんだ、深緑色にくっきりと金色のマークと文字の入った「三菱鉛筆9800」というごく普通の鉛筆である。

 HBとBと2Bを1ダースづつ程度。それ程重くもならないし、かさばることもない。

 鉛筆で手紙を書くと失礼になる。と聞いたことがあるが、僕は鉛筆の方がいい。ボールペンはどうも苦手だ。

 鉛筆を毎年それだけ消費するのは、もちろんスケッチに使うからである。

 2Bより濃い4B,5B,6Bも少しは持ってくる。

 使い分けをしようといろんな濃さを持ってくるのだがいざ描きはじめると、BならB,2Bなら2Bで始めから終わりまでやってしまうことが多い。要するに何でもいいのだ。

 スケッチに出かける時は10本位のきれいに削った鉛筆を持って出る。

 鉛筆にはキャップを付けている。もちろんカッターナイフも小さいのを入れている。10本あれば途中で削ることはあまりない。宿であるいは帰宅してから削ればよい。

 最近の子供は鉛筆を削るのが下手だと聞いた。電動の鉛筆削り器を与えられているのだから、下手は当然と言えば当然の事かも知れない。

 僕は子供の頃から鉛筆削りだけは巧かった。また鉛筆を削るのが好きでもあった。それは今も続いている。絵を描くのに飽きたりするとアトリエの隅っこで鉛筆削りを始めたりする。必要な本数以上を削ったりしてしまう。趣味?とまでは言わないが変なところに好みがある。

 中学2年の時だった。僕の隣の席に知恵おくれの女生徒が座った。普通なら養護学級で勉強するところであるが、ご両親の希望で普通のクラスで学んでいた。授業の内容は全く理解できなくて、たまたま事情を知らない新任の教師などが来られて当てられたりすると、真っ赤な顔をして「わかりません」と大きな声で答える、元気で明るいそしてクラスメートからも人気のある女生徒でもあった。

 その彼女には特技があった。鉛筆削りである。僕はそれまで鉛筆削りは得意だと思っていたが、彼女の方が遥かに巧かった。そして休み時間には自分の鉛筆以外にも僕や周りのみんなの筆箱の中までもきれいにやっておいてくれるのである。もちろん頼んだわけではない。

 彼女とクラスが別れた後、僕は鉛筆削りがますます好きになっていた。

 そしてますます上手にもなっていた。彼女からそのコツをしらずしらず学んでいたのだと思う。

 鉛筆削りと簡単に言うが極めるには奥が深い。なにしろ天然木が相手である。一本一本微妙に違う。削り始めると面白い。だからなのか今、鉛筆を大量に消費できる喜びを感じている。

 筆箱の中が整頓されていつも鉛筆がきれいにそろえられているといっても残念ながら字がきれいになるとは限ったことではない。また、残念ながらスケッチが上手になるとも限らない。VIT

 

(この文は 2002年7月号の『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが 2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しづつ移して行こうと思っています。)

 

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