武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

002. 鳥かごとスピーカー

2018-10-06 | 独言(ひとりごと)

 セトゥーバル漁港の西のはずれに一軒のカフェがある。
 地域郵便局がその近くにあるので、手紙を出しに行った帰りなどに時々は寄ってコーヒーを飲む。
 郵便局にはいつも客が多くてたいてい30分程も並んで待たされる。
 足の悪い老人などは気の毒だ。
 せめて番号札を導入するとか、もう少し住人の立場に立った、きめ細かいサービスを考えてもらいたいものだ。
 ついついサービスの行き届いた日本の郵便局と比較してしまう。
 今後、日本の郵便局は民営化して果たしてどう変わってゆくのだろうか。

 気晴らしに今日もそのカフェに立ち寄った。
 テラスがあってそのテラスから港を見ながらコーヒーを飲むのは気持ちがいい。
 がそのテラスで以前カモメから糞を引っかけられたことがある。
 今日はしっかりとパラソルで隠れるところに席を確保したから大丈夫だ。

 カフェの向かいには漁師が網などをなおしておく漁師小屋が立ち並んでいる。
 客の殆どは漁師である。
 狭いカウンターに寄りかかって2~3人の漁師がバガッソ(ワインの絞り粕で作った焼酎)などを飲んでいる。
 まだ午前中だと言うのに。
 カウンターの中では美人の女将さんが一人で忙しく働いている。
 コーヒーは当然ながらセルフサービスで自分でテラスまで運ぶ。

 見晴らしが良くて気持ちの良い筈のテラスが今日はやたらとうるさい。
 ふと見ると小さなスピーカーがテラスに向けて取り付けてあってラジオを流している。
 音が悪いので雑音以外のなにものでもない。
 サービスのつもりだろうが、これはよろしくない。即刻取り外してもらいたいくらいだ。
 以前の様にポンポン船の音、カモメの声、風の音。波の音。それだけのほうがよっぽどいい。

 その小さなスピーカーのすぐ隣に鳥かごがやはり壁に取り付けてある。
 中にはカナリアが一羽いる。
 このカナリア、これだけの騒音と隣りあわせでは、気が狂ってしまうのではないかと心配してしまう。
 やがてラジオはロックに変わった。ロッド・スチュアートに似ているが誰だろう?誰かの新曲だろうか?
 いや待てよ、ブライアン・アダムスか?ブライアン・アダムスの新曲か?

 耳を澄ましてよく聴いてみると、カナリアが一緒に歌っているではないか。
 しかもブライアン・アダムスらしいのとハモッテいる。
 息はぴったり。リズム感もバッチリ!
 「いやー。まいった!」

 こんなことなら、このカナリアの歌、時々は…いや毎日でも聴きに来たいものである。
 郵便局に行く楽しみが一つできた。

 鳥かごとスピーカーそのままに、そのままに! VIT

 

(この文は 2002年9月号の『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが 2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しづつ移して行こうと思っています。)

 

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