武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

085. アルブフェイラの休日 -Albufeira-

2018-12-15 | 独言(ひとりごと)

 まだ、ポルトガルに住み始める以前、ファロからラゴスへのバスの乗り継ぎのため、ほんの小1時間程たち寄った町がアルブフェイラであった。
 その20数年前に立ち寄って以来、近くは幾度となく通過しても決して立ち寄ることはしなかった。それはどんな旅行ガイドブックにも大きく取り上げられる、ポルトガル屈指のリゾート地だからである。リゾート地というのは僕にとって敬遠の対象語なのだ。

 僕たちの旅はその様なリゾート地とか観光地といったところは極力避けての旅が多い。行楽客などが決して行くことがない、なんでもないひっそりとした古くからの町角といったものが僕のモチーフになってきたからである。

 インターネットを始めて、そして数年前から複数のブッキング・ドット・コムなどという各国ホテル予約サイトからのメールがしょっちゅうパソコンに届く様になった。それを、暇つぶし、遊び半分に眺めていた。これが安いのだ。飛び込みで行く田舎町のペンションよりも安い。オフシーズンになれば、3星、4星のリゾートホテルが信じられないほど安くで泊ることができる。
 2年ほど前から1度試しに泊ってみるのも悪くはないかな、などと思い始めていたのだが、この程出掛けてみることにしたのだ。

1.アルブフェイラのビーチ

 9月下旬ならそれ程混雑はしないだろうし、天気も良さそうだ。
 ビーチに至近距離の3星リゾートホテルが1泊2人ビュッフェ式朝食付きで30ユーロ。それを2泊予約した。
 インターネットで地図を検索。ストリート・ビューで付近の町角を見ることもできる。
 ホテル近くにはなるほど、ネオンがけばけばしくまるで小ラスベガスの雰囲気がある。「失敗したかな」とも思ったがまあ何ごとも経験である。

 セトゥーバルの自宅から約4時間の道のり。
 ホテルにはすんなりと到着。チェックインを済ませ早速、ビーチに出てみる。ひっそりどころか大勢の人たちがパラソルの下で甲羅干し、海で泳いでいる。

 ビーチ沿いに波打ち際を歩いて町まで2キロ。
 町にはアイリッシュパブやピザ屋が目立つ。フィッシュ・アンド・チップスなどと書かれた看板さえもある。イギリス人がこれを見たら落ち着く…のであろうか?

 裏通りに雰囲気が良さそうなアデガがあったのでそこで昼食をとることにした。
 アルガルベ料理のカタプラーナとマグロの煮込み。マグロはそれほど悪くはなかったが、カタプラーナは今まで食べた中で最悪。
 お客のほとんどがイギリスからのリゾート客。英語が飛び交う。イギリス人好みにアレンジされているのであろうか?信じられないカタプラーナであった。

2.これは帰りのポルティマオンで口直しに食べた美味しいカタプラーナ

 ホテルの部屋は安いので期待はしていなかった。
 海とは反対側で古くじめっとした薄暗くかび臭い狭い部屋を覚悟していたが、想像に反して広々として、窓を開けると波が岸壁に砕け散る潮騒の音までが聞こえる程で、海を望むベランダも広く、ガーデンテーブルと2脚の椅子が置かれ、大理石の風呂もゆったり、申し分なかった。
 おまけに小さなコンロと流し台、冷蔵庫。食器棚にはひと通りの食器と鍋までも備えられていて、1~2週間の長期滞在にも便利に考えられている。

3.ビーチからホテルへ戻る道

 ホテル内には何でも揃うコンビ二もあるし、広いプールとは別に屋内プール、卓球台、ビリヤード、パターゴルフ場、子供の遊び場、テニスコートからペタンクまで、そして毎晩野外ステージでは歌謡ショーと滞在客を飽きさせない工夫が随所になされている。まさにこれがリゾートホテルなのである。
 9月下旬だからもう空いているのだろうと思っていたが、百人以上も収容できる広い朝食ホールは連日満員。やはり英語が飛び交う。

 ホテルから町までリムジン・マイクロバスが出ているのでそれで旧市街や港を散策して2日目の午前中を過す。
 午後からは1日、ホテル下のビーチでパラソルと寝椅子を借りて過ごすことにした。快晴である。隣のパラソルにはやはりイギリスからであろう、老夫婦が分厚い細かい文字の本を携えてお互いに喋りあうこともなく読書三昧であった。
 もう既に寒いのかも知れないイギリスと比べれば、水着になって、寝転がって読書三昧。僕の目からみてもここはパラダイスに思えてくる。

 寝椅子とパラソルを借りて1日、2人で10ユーロ。
 でもパラソルを借りればビーチのレストランで食事をとると2割引、飲物は半額。それで元は取ってしまう。

 このビーチのレストランが昨日の街なかのアデガよりかえって安くて美味しかった。カタプラーナなどの凝った料理はなかったけれどイワシとスズキの炭火焼は新鮮でまずまずであった。

4.ホテル下のビーチ

 夕方からは波が大きくなりとても泳げないし、危険そうなので、ホテルに戻りプールで泳ぐことにした。直径25メートルほどもある大きな不定形のプールを老人たちがゆっくりと泳いでいる。僕は北島康介の気分で、老人たちを追い越して1往復を泳いだだけなのに息が上がってしまった。

 老人たち皆がプールから上がったのを見計らってか、2人のカップルがクロールで泳ぎ始めた。ゆったりと泳いでいるが2人とも実にフォームが美しい。しかもいつまでも止めない。20往復もしたであろうか?てっきり若者か中年のカップルだと思って眺めていたのだが、上がったところを見ると、70歳くらいの老婦人であったのに驚いてしまった。男性のほうは見えなかったが…同年代であろう。多分、元水泳選手なのかも知れない。
 寒いイギリスからすれば9月下旬でも泳げる、10月のインディアン・サマーの頃にも晴天下で泳げる。これもパラダイスなのかもしれない。
 ロンドンからならリスボンを経由しなくてもファロ空港にひとっ飛び、空港から30分のアルブフェイラである。

 昔、ストックホルムで暮らしていた頃「バケーションの期間をストックホルムの自宅で過すよりカナリアあたりへリゾートに行った方が安上がりだ。」などとよく話していたのを思い出す。全くその通りなのだ。

 日本人の旅行と言えば見聞を広めるためとか…何かを会得しなければ旅をした値打ちがない。
 或いは百名山を征服する…。とか、新たなる未知の世界を巡る…とか。とにかく、目いっぱい動き回る。

 でも欧米人は違うのだろう。気に入れば毎年、同じところ同じホテルにリゾートにやってくる。それが1週間、或いは2週間。すっかりホテルマンとも顔なじみ。日本人にはとても耐えられない。退屈してしまう。

 今回のアルブフェイラ滞在はたったの2泊3日であったが僕にはそれでちょうど良い。
 しかもあわよくばカラフルな漁船と折り重なったアラブ的な陸屋根の白い町並みでも絵に出来れば…などという下心と密かな期待も持って出掛けたくらいだ。鉛筆と小さなスケッチブックを忍ばせて…。
 やはり僕も勤勉?な、日本人なのだ。でも年に1度くらいは病みつきになりそうだ。
VIT

 

(この文は2010年10月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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