惚けた遊び! 

タタタッ

抜粋 上田岳弘『ニムロツド』 第百六十回芥川賞受賞作 文藝春秋 2019.3

2019年02月16日 | 小説


 僕がいつも感心してしまうのはね、合理的に考えて全く駄目なのに、「いや、いけるかもしれない」というチャレンジ精神によって、「駄目な飛行機」が生み出されていることなんだ。実際、原子力潜水艦はうまくいったわけで、いまも主要な戦力だよね。


 「世界は、どんどんシステマティックになっていくようね。システムを回すための決まりごと(コード)があって、それに適合した生き方をする、というかせざるを得ない。どんな人でも、そのコードを犯さない限りは、多様性(ダイバーシティ)は大事だからと優しく認めてもらえる。それで、コードを犯せば、足きりにあって締め出される。」(田久保紀子)


 「例えばシンガポールではね、月収や学歴が基準を満たしていないと、就労ビザが下りない。能力が足りない人をそもそも締め出している。国家ぐるみで。たかだか人口六百万程度の都市国家の話だからいいかもしれないけど、世界全体がそんなふうに締め出しを始めたら、行く場所がなくなる人が続出するかもしれない」(田久保紀子)


 動物的な、根源的な自然に即した何か。そんなことを考えるのはきっと「自然」という言葉に反応したからだ。意思とはまた別に抗い難い流れがあって、人間の意思でやったとされることも、人間も所詮は自然の一部だから、より大きな枠組みでは、やはりそれに従っているだけなのか。


「人生じゃないみたい?」


 「個であることをやめた? どうして?」
 「生産性が低いからさ。生産性を最大限に高めるために彼らは個をほどき、どろどろと一つに溶け合ってしまった。個をほどいてしまえば、一人ひとりのことは顧みずに、全体のことだけを考えればいいからね。より強く高く長く生き続けたいという欲望を最大限達成できるからね。」


 「情報技術で個の意識を共有し、倫理をアップデートしてしまえば、その個を超越した価値基準に体の形状をあわせることへの躊躇いなんてなくなるし、体のあり方を変えるなんて造作もないことだ。


 ……もともと僕にとっての塔はさ、小説なんだと思っていたんだ。


 僕が言葉を紡いでいくことで、人々の精神に何かを書き込む。遺伝子に誰かが書いたコードみたいに、ビットコインのソースコードみたいに、僕が誰かの心に文字を通じて何かを記載することで、それが世界を支える力になる。そう思っていた。でもそうではなかった。


 通常の通貨と違い、「ソースコードと哲学で出来ている」仮想通貨は実体がない分ハッキングされるとひとたまりもない。





*平成三十一年二月十六日抜粋終了。
*望むらくは、採掘の場面の実描写がほしかった。リアルさが確保されてないように感じた。
*物語はこれから始まるところで、突然終わってしまった。何なの、これって。単なる背景描写なんだろうか。
*要するに、スケッチなのか。現代都会人の頭の中の。つまり、素材を充分に展開しきれていないようだ。



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