The Society of Helical Carbon ヘリカル炭素学会

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シェール・ガスを採掘する水圧破砕による環境への影響

2013-06-12 22:40:33 | 経済


エコノミックニュース 6月12日(水)18時12分配信
 シェール・ガスは水圧破砕法という安価な方法で採取でき、多量の天然ガスを低価格で供給できることから米国内ではその恩恵に与ろうと沸き立っている。しかし、採取方法による環境破壊や健康被害への懸念の声が聞こえてくる。その例として本格的な生産に入っていないドイツとフランスからの意見を紹介する。

 脱原発に舵を切ったドイツはシェール・ガスの開発に意欲的だが、採掘する水圧破砕法によってビールの生産に使用する水が汚染されることをドイツの醸造業者協会は訴えている。また、フランスでは2011年7月、「水圧破砕による非在来型資源(シェール・ガス/オイル)の開発・採掘を禁じる法」が政府によって採択され、実質的にフランスではシェール・ガスの開発はできない。

 問題となっている水圧破砕法とは地下2000~4000メートルにある頁岩層に大量の水を高圧で注入することで亀裂を作り、天然ガスを回収する方法だ。注入する水には亀裂が塞がらないようにプロパントという微細な砂粒が混入され、砂粒の流れをスムーズにする摩擦減少剤、他に界面活性剤、腐食防止剤、スケール防止剤、バクテリア殺菌剤、酸類などが混合されており、水というより粘性のある液体となっている。この中には有害物質も含まれており、どのような成分が調合されているのかは企業秘密で、シェール・ガス開発業者によっても異なる。シェール・ガスはこの水圧破砕法が開発されたことで採掘が可能になった。

 水圧破砕法への懸念として次の3点があげられる。(1)ガスを回収する際のメタンガスによる大気汚染(2)坑井パイプからの使用する薬剤やメタンガスによる地下水汚染(3)高圧水が断層に当たることによる地震発生の可能性

 まず、(1)のメタンガスによる大気汚染を検討して見る。水圧破砕で使用した水は回収され、回収する際にシェール・ガスの成分であるメタンガスが大気に放散されて大気汚染が問題となった。これは生産開始の頃で、米国環境保護局(EPA)は、米大気汚染法を改正し、メタン回収技術を導入することを義務付けた。これによって大気汚染の議論は収束する方向となった。

 (2)地下水汚染問題だが、水圧破砕が行われるのは地下2000メートルで、ここから地下水までは1000メートル以上の距離があり、まず地下水まで届くことはあり得ない。汚染されたと報告のあった地下水を分析したところ水圧破砕に使用された薬剤は検出されなかった。地下水と接触しないことを徹底させるため、EPAはシェール採掘層と地下水層とは1マイル(1.6キロメートル)以上離すことを指導基準としている。メタンガスによる地下水の汚染問題だが、ドキュメンタリー映画「ガスランド」(10年)で水道の蛇口から出た水に火が付いたシーンが放映された。坑井の浅い部分から漏れ出たメタンガスが地下水に浸透した結果であろう。坑井を掘削する際、パイプを継ぎ足しながらパイプの周りをセメントで密閉していくが、このときのセメント充填が十分でなかったり、パイプの継ぎ目が緩く、高圧水やメタンガスが漏れることがある。シェール・ガスの開発当初は、弱小工事業者が多く参入したため工事基準が甘かったかもしれないが、今は厳格な工事が行われており、このようなことは起こり得ない。また使用済みの回収された汚染水はスチール・タンクに一時貯蔵され、再浄化・リサイクル規制されており、周囲を汚染することはまずあり得ない。

 (3)地震の誘発だが、シェール層の水圧破砕で断層に当たると地震が起きる可能性はある。これは、地質調査を精細におこない、やみくもな開発をしない限り防止できる。イギリスでの採掘で水圧破砕時に小さな地震が発生したが、のちの調査で水圧破砕とは関係ないことが分かった。

 欧州では環境汚染への懸念もあってシェール・ガス/オイルの開発が遅れているが、それぞれの国にとってこの資源が自国の経済のみならず、外交戦略としても重要なカギを握ることは間違いない。厳格な管理のもとでシェール・ガス/オイルの生産を進めていくべきだろう。


シェールガス革命がもたらすもの

輸入していた天然ガスすべての自国での調達が可能になったという「シェールガス革命」。これで余剰となったシェールガスの対日輸出が実現しそうである。自由貿易協定(FTA)を結んでいない日本への輸出は「公的利益に見合う」場合に限られてきたため、米国エネルギー省(DOE)の認可が必要であった。シェールガスの掘削が始まったころから、出資、および技術的な協力を行ってきた住友商事(8053)や三菱商事(8058)などの日本の商社の努力が実を結んだともいえるだろう。

 米国から輸入されるシェールガスの価格は、現在、日本が輸入している天然ガスの3分の2の価格になると試算されている。原子力発電所の稼働停止により天然ガス火力発電が増えている日本にとって朗報である。日本での天然ガス購入価格は日本向け原油平均価格にリンクしているため、米国や欧州の購入価格に比較するとかなりの高値で取引されている。天然ガスの特徴は熱量が大きいことから発電コストが他の燃料に比較し安いことと、CO2排出量が石油や石炭に比べて少ないことだ。

 今、日本に輸入されている天然ガスは貯留された砂岩から自噴する在来型天然ガスである。一方、シェールガスは硬い岩盤を持つ頁岩(シェール)に閉じ込められた非在来型天然ガスで、今世紀の初めに米国を中心に採算のとれる採取が可能になった。また、世界中のどこにでも存在し、資源量として在来型天然ガスの5倍以上とされている。

 頁岩の岩盤に閉じ込められたシェールガスは、地中深く2000から3000メートルにあり、その採掘には技術的な壁があった。2000年代に入り、水平掘削、水圧破砕などの技術が米国で開発され、シェールガスの効率的な採掘が可能になった。

 そのシェールガスの生産には大量の水を地中深部に注入することから地下水や河川の汚染、水圧破砕に伴う地盤沈下、またシェールガスの回収率を高めるために添加する化学物質の人体への影響などが懸念される。

 シェールガスの採取による環境問題はまだ報告されていないが、過去には資源の探鉱・開発、製錬などで環境汚染を引き起こしている事実がある。希望の持てる社会を持続させるためにも同じ過ちを繰り返さないように「シェールガス革命」に留意しなければならない。


水圧破砕法から農村を救え、ルーマニアの神父の闘い
AFP=時事 6月12日(水)15時13分配信

ルーマニア東部ブルラド市で行われたシェールガス採掘に反対する集会で祈りを捧げる正教会ブルラド教区主席司祭バシリー・ライウ神父(2013年5月27日撮影)。

【AFP=時事】正教会の司祭、バシリー・ライウ(Vasile Laiu)神父(50)は、ルーマニア東部の絵のように美しい丘陵をじっと眺めながら、米国各地に点在するシェールガス井と掘削装置が、ここに建設されることがないようにと祈っている。

【図解】シェールガスの採掘工程

 ライウ神父はこの数か月、米エネルギー大手シェブロン(Chevron)がこの田舎の貧しい地方でシェールガスを採掘する計画に対して、最も声高な反対派の1人になっている。黒の法衣を身にまとい「人間、自然、未来の世代を脅かす」計画に反対する何千人もの地元住民による街頭デモに参加してきた。

 石油生産地域に生まれ育ったライウ神父は、自分はエネルギー産業の敵ではないと主張する。しかし多くの人々と同様、議論の的になっている掘削技術、水圧破砕法(フラッキング)に反対しているのだ。

 水圧破砕法とは、砂と化学物質を混合した大量の水を高圧で岩石層に注入して破砕し、ガスを取り出す掘削技術だ。米国のペンシルベニア(Pennsylvania)やコロラド(Colorado)といった州で広く使用されている一方で、同バーモント(Vermont)州や、フランス、ブルガリアなどの国では、大気汚染や水質汚染の可能性があるとして禁止されている。

 ルーマニア東部ブルラド(Barlad)市の市長が今年4月、フラッキングに対する抗議集会を禁止した際、ライウ神父は反対派の人々を自分の教会に迎え入れた。神父は「教会は政治には干渉しないが、たとえ1人でも同胞が健康や生命の危険にさらされたならば、介入するのが神父としての私の務めだ」とAFPのインタビューで語った。

■地域経済の救世主か、長期的害をもたらす一時的ブームか

 ブルラド教区で最高位の正教会司祭であるライウ神父は、教区内の村々に奉仕して人生の半分以上を費やしてきた。1989年の共産主義政権崩壊後、新しい資本主義経済の中で、自分の教区の住民たちが職を得るために奮闘し、農民たちが収支をやりくりするのに苦労する様子を目の当たりにしてきた。

 だが2011年にシェブロンがシェールガスの試掘を行うために60万ヘクタールの採掘権を取得して以来、地域は自分たちの未来に関する新たな闘いに巻き込まれた。

 推進派の人々は、シェールガスの採掘によって雇用が創出され、エネルギー価格が大幅に下がり、ルーマニアで最も高い10%の失業率に悩まされているブルラドの経済を大きく押し上げると主張する。

 一方で、環境と公衆衛生に長期的な害を及ぼしかねない「一時的なブーム」として、シェールガスへの熱狂に背を向ける人々もいる。

 米デューク大学(Duke University)による2012年の研究では、フラッキングが地下水の経路を通じて飲料水の井戸を汚染する危険性があることが明らかになっている。

 ライウ神父は、水をめぐる問題を最も懸念している。ブルラド周辺は干害に悩まされているにもかかわらず、業界のデータによると、フラッキングにはガス井1か所当たり最高2万立方メートルもの膨大な量の水が必要になるという。腐食性の塩類や発がん物質、自然放射性元素などが入り混じった廃水の処理問題も、村民たちが果物や野菜を栽培し、家畜を飼育している地域にとってさらに懸念材料となっている。

 シェブロンのサリー・ジョーンズ(Sally Jones)広報担当はAFPの取材に対し「安全性と環境保全については最高の基準に従って活動している」と強調し、同社が「操業している地元地域に積極的に貢献しつつ、ルーマニアの信頼できるパートナーとなるよう尽力している」と述べている。

 だがライウ神父は、村民たちがないがしろにされていると言う。「教区民たちは、事前通知もなしに、試掘設備が畑の中にパイプを沈めているのに気が付いた。その後、(建物の)壁にひびが入っているのを見つけたのだ」

■東欧一の埋蔵量がもたらす富よりも大事なのは命

 ライウ神父の確固たる姿勢に、多くの人々が感銘を受けている。

 ブルラド市の市長や地方議員も属するビクトル・ポンタ(Victor Ponta)首相の中道左派連立政権は当初、シェールガスの採掘権を付与する前政府の決定を激しく非難していた。ポンタ首相は2012年5月に政権に就くと、掘削の一時停止をも命じた。だが、この一時停止命令が12月に失効して以来、ポンタ首相とライバルのトライアン・バセスク(Traian Basescu)大統領は揃って、欧州におけるシェールエネルギーの主要な推進派になっている。

 米国の研究では、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリーの3か国を合わせたシェールガスの埋蔵量は東欧最大の約5380億立方メートルに上ると推計している。

 だが、地元住民の声を伝えていくという、ライウ神父の決心は変わらない。

「数年前、私は4歳の娘を腫瘍で亡くした。医者に原因を尋ねると、彼はこう答えた。『神のみぞ知るですよ、神父様。でも、ここはチェルノブイリ(Chernobyl)にとても近い。それが原因かもしれません』──環境問題が懸念されるとき、私は無関心ではいられない。彼らがわれわれに差し出すどんな金銭よりも、貴重なのは生命です」

シェールガス、世界の天然ガス47%増やす 米エネルギー省

【6月11日 AFP】米エネルギー省エネルギー情報局(Energy Information Administration、EIA)は9日、頁岩(けつがん、シェール)層から採取できる資源によって、世界の原油埋蔵量は11%、天然ガス資源は47%増えるとした報告書を発表した。

 EIAは初めてシェールオイル埋蔵量を評価するとともに、シェールガスの埋蔵量を再評価し、シェール層の埋蔵資源によって世界の原油量は3450億バレル増え、合計3兆3570億バレルになると見積もった。また、シェールガスの埋蔵量は世界の天然ガス埋蔵量の32%に相当する7299兆立方フィートと推計された。

 国別のシェールガス埋蔵量は、中国がトップで推定1115兆立方フィート。中国とアルゼンチン、アルジェリア、米国、カナダ、メキシコのトップ6か国で、採掘可能な世界のシェールガス埋蔵量の60%を占める。

 採掘可能なシェールオイルの埋蔵量トップ5は、ロシア、米国、中国、アルゼンチン、リビアで、世界の63%を占めている。(c)AFP/John Biers

米国、遺伝子組み換え作物への規制を「不必要」と批判

2013-06-12 19:36:45 | 経済


2013年04月02日 14:49 発信地:ワシントンD.C./米国

【4月2日 AFP】世界最大規模の自由貿易圏構築に向けて欧州連合(EU)と米国が準備を進める中、米国は1日、EUが米国の遺伝子組み換え(GM)作物に対して「不必要」な規制を行っているとして非難した。

 米通商代表部(USTR)は、衛生・植物検疫の貿易障壁を軽減させることを目指した報告書の中で、「欧州食品安全機関(European Food Safety Authority、EFSA)が肯定的な評価を下したにもかかわらず」、EUによる規制の結果、新GM品種の承認が遅れていると批判。さらに、EUのGM食品トレーサビリティ&ラベリング規制が「商業的に実行不可能な要求」であると苦言を呈した。

「諸外国の政府は米国の農作物輸出に対して差別的あるいは不当な対策を続けている」と、USTRのデメトリオス・マランティス(Demetrios Marantis)代表代行は語った。

「これらの障壁は、米国の牧場経営者や農家に害を及ぼすのみならず…安全で高品質な米国食品と農作物の入手可能性を世界中の消費者から奪うものだ」(デメトリオス・マランティスUSTR代表代行)

■米EU自由貿易圏交渉、GM作物も対象に

 米国とEUは世界最大の自由貿易圏構築に向けた交渉入りを計画しているが、そこには政治的に慎重な対応が求められる遺伝子組み換え作物の取り扱いも含まれている。

 米国では遺伝子組み換え作物が広く認められているが、EUでは厳しく規制されている。ドイツやフランスを含むEU加盟8か国は、遺伝子組み換え作物を排除する方針だ。

 USTRは、「遺伝子組み換え作物を非遺伝子組み換え作物のそばに植える際の共存要件について、一部のEU加盟国は不必要で負担の大きい要件を定めている」と指摘した。

 先月、匿名を条件に取材に応じたフランス当局高官は、予定されている貿易交渉において、遺伝子組み換え作物が交渉内容に含まれることをフランス政府は望んでいない、と語っていた。

<「混合診療」>先進治療受けられるのは全額自己負担者 所得で不平等生む恐れ

2013-06-12 12:33:51 | がん
 
毎日新聞 6月12日(水)7時53分配信
 ◇政府の「規制改革実施計画」原案

 日本では公的保険の利かない自由診療と保険診療の併用(混合診療)を禁じ、併用すると医療費は保険診療分も含めて全額自己負担となる。国民負担が伴う保険医療は、有効性や安全性がより厳密に確立されている必要があるためだ。ただし、専門家でつくる厚生労働省の「先進医療会議」の審査を条件に、例外的に事実上の混合診療を認める「保険外併用療養費制度」がある。

 保険診療と自由診療が併用できれば、保険診療分は1~3割の負担で済み、まだ保険が適用されない先進的な医療も受けやすくなる。とはいえ、利益を受けるのは自由診療分を全額自己負担できる人に限られる。

 このため、現行制度ではいったん保険診療との併用を認めた自由診療の技術も、あらためて保険適用を検討する。「混合」は一時的なもので、いずれは保険適用し、国民等しく受けられるようにするという原則だ。

 ただ、保険適用の対象になれば国が薬価などの公定価格を決める。製薬企業にすれば自由に価格を設定できる自由診療対象のまま保険診療と併用できるほうが利益が出る。すると本来保険が利くはずの薬も自由診療対象のまま残り、保険診療しか受けられない低所得の人は服用できなくなる恐れがある。

TPPアメリカ陰謀説は誤り  混合診療 全面解禁には反対だ

2013-06-12 09:18:22 | 経済


毎日新聞 2011年10月31日 02時31分

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に対する議論が熱をおびてきた。このなかで、根拠に乏しく必要以上に不安をかきたてる反対論を少なからず見聞する。それには懸念を表明せざるをえない。

 「TPPによって日本は一方的な被害国になる」「米国の陰謀だ」と主張する人が多い。しかし、主権国家が日本を含めれば10カ国集まり、相互の複雑な利害を調整する場である。日本だけが一方的に不利益をこうむるはずがない。

 そもそも米国はTPPに日本が参加することを想定していなかった。菅直人首相(当時)が成長戦略の一環として、自らの発案で参加したいと言ったのだ。米国は日本に参加要請していない。

 米国はアジア市場で米国抜きの自由貿易圏が形成されるのをおそれ、TPPによってアジア関与を強めようとしている。数カ国で開放度の非常に高い自由貿易圏を作り、それを広げ、最終的には中国も含めたアジア太平洋経済協力会議(APEC)諸国全体を包み込む狙いだ。

 その過程で、日本の参加は歓迎に違いない。しかし、包括経済協議で数値目標を迫った頃とは違い「日本たたき」する経済的、政治的メリットはもうない。米国のビジネス界、政界は停滞する日本への関心を失っているのが実情だ。

 交渉分野は24もあり、最近の反対論は農業以外に懸念を広げている。

 混合診療解禁、株式会社の病院経営などを要求され、日本の医療制度が崩壊するという論もある。だが、公的医療制度が通商交渉のテーマになった例はなくTPPだけ違う交渉になることは考えられない。

 TPPでは投資家が投資先の政策で被害を受けた場合、その国を訴えることができるという制度(ISDS)が議論される。それを「治外法権」などと攻撃する声がある。

 だが、今後、日本企業はどんどん途上国への展開を加速する。してみれば、外資系企業に対し差別的扱いがあった場合、企業側に対抗手段があることは、全体として日本にメリットが多いと考えるべきだろう。

 また、遺伝子組み換え食品について米国で安全と認定された食品は、食品表示に遺伝子組み換え食品であることを表示する必要はない、というのが米国の態度だ。これを押しつけられるのではないかという懸念があるが、豪州もニュージーランドも米国に反対であり、米国の主張が通ることは考えられない。

 政府の態度表明までに残された時間は少ないが、国民にはまだあまたの懸念がある。不利な情報が仮にあったとしても、隠さず丁寧に説明していくことが理解を得る早道だ。

混合診療 全面解禁には反対だ

毎日新聞 2013年03月04日 02時32分

 政府の規制改革会議や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に関する議論で混合診療が注目されている。混合診療の一部は現在も認められており、必要性に応じて慎重に広げるべきだが、患者の安全や負担の面から全面解禁には反対だ。

 病気で治療を受けると公的医療保険から治療代や薬代が支払われる。どの治療や薬を保険適用とするかは値段も含めて国が決めており、それ以外の自由診療は患者の自己負担となる。混合診療とは保険適用の治療と自由診療を併用することで、この場合は保険適用分も含めてすべて患者が負担しなければならない。重い自己負担を課すことで、実質的に自由診療を制限しているのだ。

 海外で使われているのに国内では未承認の医薬品、先進的な医療技術を用いることに意欲のある医師は少なくない。希望する患者も多いはずだ。自由診療の拡大は製薬企業や医療機器メーカーだけでなく民間保険会社も歓迎するだろう。

 しかし、一般の商品やサービスと医療は違う。消費者の立場である患者より医師の方が圧倒的に専門知識がある「情報の非対称性」、医療が本質的に持つ不確実性を考えねばならない。もしも大事な家族が病気となり、未承認で費用もかかるが効くかもしれない治療法があると医師に言われたら、借金をしても頼みたくなるのが人情ではないか。有効性や安全性の判断は最終的に医師に委ねるしかなく、効果や副作用を後で患者が検証することも容易ではない。

 国内外で承認された薬でさえ不適切な使用で多くの副作用被害を出した例はいくらでもある。市販後に新たな副作用や不具合が確認された薬や医療機器も珍しくない。そのために公的な審査機関で何重ものチェックをしているのだ。

 現在、100種類以上の高度先進医療が混合診療を認められているが、国が指定する医療機関で行われ、有効性や安全性が確認されれば保険適用となり、そうでなければ混合診療から外される。その枠を広げることは検討すべきだが、個々の医師の判断にすべてを任せるのは無謀だ。最高裁も安全面などを考慮し現行制度を認める判決を出している。

 高齢化や医療技術の革新に伴って公的医療費は年々増えている。医療費抑制への圧力が強まる中で混合診療を解禁したら、患者負担の自由診療が広がるのは目に見えている。毎日多数の患者を診察して疲弊している現場の医師にとっても高収益の自由診療は魅力的なはずだ。今でさえ医師不足や医療崩壊が叫ばれているのだ。保険診療しか受けられない患者は医師探しに苦労することになりはしないだろうか。

「混合診療」解禁問題 抗がん剤から事実上の適用範囲拡大へ
フジテレビ系(FNN) 6月11日(火)19時39分配信
政府が、14日に閣議決定する規制改革の実施計画で、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」の解禁問題について、2013年秋をめどに、まず抗がん剤から、事実上の適用範囲を拡大していくことがわかった。
混合診療は現在、一部の先進医療などに例外的に認められているだけだが、FNNが入手した実施計画案によると、「最先端医療迅速評価制度」を推進することにより、先進医療の対象範囲を大幅に拡大するとしている。
そのうえで、2013年秋をめどに、まず、抗がん剤から開始するとして、抗がん剤から混合診療の事実上の適用範囲を拡大していく方向性を打ち出している。

 ◇自由診療拡大の可能性 平等な受診機会、損なう恐れ

 なるほドリ 環太平洋(かんたいへいよう)パートナーシップ協定(TPP)と言えば「農産物輸入自由化」という印象だけど、公的医療保険制度にも影響すると聞いたよ。

 記者 日本医師会など多くの医療関係者は、国民皆保険(こくみんかいほけん)が揺らぎかねないとして日本のTPP交渉参加に反対しています。

 Q どういうこと?

 A 民主党政権は医療保険制度について「TPPの議論の対象外」と説明してきました。しかし、途中で「交渉参加国から個別の2国間懸案(けんあん)事項への対応を求められる可能性は否定できない」と言い始め、医薬品に関しては「規定が置かれる可能性はある」と認めました。

 Q 「可能性」なんだ。

 A 医療保険制度は直接の議題ではないためです。ただ、米通商代表部(USTR)は日本に対し、ほぼ毎年「外国貿易障壁(しょうへき)報告書」で外国営利法人への医療市場開放や医薬品関係の規制撤廃、利益の出る新薬の価格引き上げを迫ってきていて、TPPでも必ず求めてくる、というのが反対派の見立てです。

 Q どうして反対なの?

 A 米国では3000万人の無保険者をなくす医療保険制度改革法が成立しましたが、日本のように国民が等しく受診できる公的医療保険はありません。自在に価格を設定できる自由診療が基本で、民間保険に入って備えます。このため高い掛け金を払える高所得層は最高水準の医療を受けられる半面、民間保険に入れず、病院にさえかかれない人もいます。反対派はTPPで外国の保険会社が参入し、日本の医療が米国のようになるのを警戒しています。

 Q 既に参入していない?

 A がん保険の入院給付金や保険適用外の自由診療部分をカバーする商品は一部認められていても、国が決めた価格に基づき公的保険で支払われる保険診療部分には参入できません。日本は保険診療と自由診療をセットでする「混合診療」を禁じていますが、米側は利益を上げられる自由診療部分を日本で広げることを狙い、混合診療の解禁を求めています。

 Q で、どうなりそう?
 A TPPには規制に損害賠償請求をできる規定が設けられそうで、一部を緩和(かんわ)すれば残った規制が次々訴訟対象となるのではと懸念されています。ただ、高額な料金の自由診療が普及すれば、同時に行われる保険診療も増えて、保険料と税で賄う公的医療費も跳ね上がるとみられています。公的医療費の抑制(よくせい)を課題とする日本政府にとっては簡単に譲れず、経済特区での部分開放が落としどころとなる可能性もあります。もっとも、自民党政権はTPPにどう対処するのか明確にしておらず、TPPに参加しないこともあり得ます。


<規制改革原案>「混合診療」今秋に拡大 まず抗がん剤

2013-06-12 03:05:28 | がん


毎日新聞 6月12日(水)2時30分配信

 政府が14日に閣議決定する「規制改革実施計画」の原案が明らかになった。治療行為の一部に例外的に保険外診療を認める「保険外併用療養費制度」を拡大するよう厚生労働省に要求。新技術が同制度の対象になる「先進医療」かどうかの審査を迅速化するため、外部機関などによる専門評価体制の創設も打ち出した。現行制度の対象拡大で保険診療と保険外診療を組み合わせた「混合診療」の将来的な全面解禁につなげる狙いがある。

 計画は「本年秋をめどにまず抗がん剤から開始する」と実施時期も明記した。

 日本では公的保険外の自由診療と保険診療の併用(混合診療)を禁じており、併用を認めるのは例外という位置付けだ。認定の際は、技術の有効性や安全性の証明を医療機関が担い、年間の審査件数は約40件。期間も1件に6~7カ月かかり、これまでに認められたのは約100技術にとどまっている。

 これに対し、外部の評価機関を活用すれば審査の迅速化、効率化が見込める。計画は「最先端医療迅速評価制度(先進医療ハイウエー構想)」(仮称)を掲げる。抗がん剤は次々と新薬が出るため、自由診療の併用が迅速に認められるようになれば、抗がん剤の新薬を使いやすくなる。

 計画は規制改革を「経済再生の阻害要因を除去し、民需主導の経済成長を実現するために不可欠」と位置付け、規制改革会議が5日に安倍晋三首相に答申した項目をすべて採用したうえで、「先進医療の大幅拡大」などを追加した。内閣府は各項目の実施状況を年度末ごとに点検し、結果を規制改革会議に報告するとともに、公表する。

 ただ、首相が「全面解禁」方針を打ち出した一般用医薬品のインターネット販売は、副作用リスクの高い一部の市販薬の扱いを巡って調整が続いており、実施計画の最終案が固まっていない。【宮島寛】

 ◇解説 所得で不平等生む恐れ

 日本では公的保険の利かない自由診療と保険診療の併用(混合診療)を禁じ、併用すると医療費は保険診療分も含めて全額自己負担となる。国民負担が伴う保険医療は、有効性や安全性がより厳密に確立されている必要があるためだ。ただし、専門家でつくる厚生労働省の「先進医療会議」の審査を条件に、例外的に事実上の混合診療を認める「保険外併用療養費制度」がある。

 保険診療と自由診療が併用できれば、保険診療分は1~3割の負担で済み、まだ保険が適用されない先進的な医療も受けやすくなる。とはいえ、利益を受けるのは自由診療分を全額自己負担できる人に限られる。

 このため、現行制度ではいったん保険診療との併用を認めた自由診療の技術も、あらためて保険適用を検討する。「混合」は一時的なもので、いずれは保険適用し、国民等しく受けられるようにするという原則だ。

 ただ、保険適用の対象になれば国が薬価などの公定価格を決める。製薬企業にすれば自由に価格を設定できる自由診療対象のまま保険診療と併用できるほうが利益が出る。すると本来保険が利くはずの薬も自由診療対象のまま残り、保険診療しか受けられない低所得の人は服用できなくなる恐れがある。