「普通の女子高生の生活がしたい。学校に行きたいです」。東京都内に住む高校2年の女子生徒(16)は悔しそうに話す。
●高校に通えず療養
2011年8月から12年2月の間に、子宮頸(けい)がんワクチンを接種した。以来、痛みや過呼吸、ふらつきなどの症状が消えない。ほとんど高校に通えず、自宅での療養生活は約1年半に及ぶ。
同ワクチンは計3回の接種が決められている。1、2回目の接種直後、腕に痛みを感じ、1週間ほど腕が上がらなかった。でも、ワクチンの説明書には痛みの副反応(副作用)の記載があり、一緒に受けた友人にも同じような症状が出た。
異変が起きたのは3回目の接種後。左腕が紫色に腫れ上がり、激痛で動かすこともできない。痛みは腹や胸など体中に広がり、半年後には頭痛や吐き気、手足のしびれも出始めた。脚に力が入らず、移動時は車椅子が欠かせなくなった。一番つらいのが、肩の痛みだ。矢で射られたような痛みに、失神することもある。「いつ始まるか分からない痛みへの不安で、過呼吸になることもあります。とにかく今は、早く学校に行けるようになりたい」と訴える。
現在、国内で発売されている子宮頸がんワクチンは「サーバリックス」と「ガーダシル」の2種類。10年度から国の助成が始まり、今年4月から小学6年~高校1年の女子は原則無料で接種できるようになった。厚生労働省によると、3月末までに推計328万人が接種した。
●重い報告例358件
しかし接種後、長引く痛みや手足のしびれなどの訴えが相次いだ。09年12月発売のサーバリックスは、今年3月末までに推計約695万回接種され、重い副反応が302件(発生率100万接種当たり43・4例)報告されている。一方、ガーダシルは11年8月の発売後から今年3月末まで推計約168万回接種され、56件(同33・2例)の報告があった。
重い報告例は、接種との因果関係が不明のものも含むが、サーバリックスの場合、ヒブワクチン(237件)、インフルエンザワクチン(121件)など他のワクチンを大きく上回る=別表参照。
被害を訴える親や議員ら約50人は3月25日、「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」(東京都日野市)を結成。厚労省に副反応被害者の追跡調査や、治療体制の整備などを求めてきた。
これまで全国から同会に寄せられた相談は約600件(7月13日現在)。事務局の池田利恵・日野市議(55)は「相談のうち130人から詳細な診療情報を得ている。多くに共通するのが全身の痛みや歩行困難、強い頭痛、倦怠(けんたい)感などの症状。これらはワクチン接種と関連すると思われ、情報をまとめて厚労省に報告したい」と話す。
●異例の「推奨中止」
「慢性的な痛みは医師でも判断できず、適切な情報提供ができる段階にない。今のまま接種を続けてよいのか」
6月14日、ワクチンの安全性や副反応を話し合う厚労省の専門家検討会。座長の桃井真里子・国際医療福祉大副学長は全委員に問いかけた。委員の判断も割れ、議決権のある5人の採決の結果、3対2で「ワクチンの積極的勧奨を一時控える」との方針が決まった。欧州をはじめ約130カ国が子宮頸がんワクチンを承認し、そのメリットが定着する中、「勧奨中止」は異例の対応だ。
今後は、因果関係の解明や治療体制の整備が大きな課題となる。厚労省も、秋までには専門診療が行える拠点病院16カ所を整備し、患者情報の分析や治療体制を作る予定だ。その拠点の一つ、信州大医学部の池田修一・内科学教授は「患者を専門医が診ない限り適切な治療はできない。症状に関する正確なデータを集めて検証し、一刻も早い治療につなげたい」と言う。
「臨床試験は症例数が少なく、まれにしか起きない副反応を見つけ出すのは困難」と話すのは、民間の薬害防止監視団体「薬害オンブズパースン会議」(東京都新宿区)の隈本邦彦・江戸川大教授。今回は接種直後でなく、しばらくしてから痛みなどの症状を訴える人もいる。「国は自発的な報告を待つだけでなく、専用の相談窓口を設けるなど能動的に情報収集する体制作りを急ぐべきだ」と訴える。
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厚労省は一時的に子宮頸がんワクチン接種の推奨を控えることを決めたが、希望すれば従来通り受けることができる。接種するかどうかの判断が個人に委ねられた中、ワクチンとどう向き合えばいいのか。4回にわたり考える。(この連載は細川貴代、田村佳子、小島正美が担当します)=つづく
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◇子宮頸がんワクチン
子宮頸がんは、子宮の入り口部分(子宮頸部)にできるがん。ヒトパピローマウイルス(HPV)と言われるウイルスの感染が原因で起こり、主に性行為で感染する。日本では年間約1万人が子宮頸がんと診断され、2011年には2737人が死亡している。子宮頸がんワクチンは、子宮頸がん全体の50~70%の原因とされる2種類(16型、18型)のHPV感染に予防効果がある。