芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

サンクスギビングデー

2015年11月26日 | コラム
             

 もう30年以上も前だろうか。あるファミリーレストランの企画をしていたおり、たまたま「サンクスギビング」デーをイベントと企画のキーワードとしようと思い付いた。それからサンクスギビングデーについて書籍を買って調べ(現在のようにインターネットで簡単に調べられなかった)、私はある大きな感動とともに、アメリカに対して深い失意を抱いた。

 メイフラワー号は1620年11月半ばにプリマスに上陸した。彼等はピルグリム・ファーザーと呼ばれる。辺りの樹を伐りだし、丸太のコモンハウス(集会所)を建てた。その冬は寒さが厳しく、病死、餓死者が続出して移住者の数は半分に減った。このままでは全員が飢え死にしてしまう。    
 そんなとき、彼等は二人連れのインディアンの男に出会い、食糧をわけてもらった。彼等インディアンは酋長を伴い再び彼等の元にやって来た。彼等はインディアンから、その土地に適した新大陸のカボチャやトウモロコシなどの種をわけてもらい、その栽培法も教えてもらった。彼等はまた野生の七面鳥の捕らえ方や鹿を獲る仕掛けなども教わったのである。
 1621年の秋、収穫を迎えた。彼等は恵みをお与えくださった神に感謝し、またインディアンの友を得たことも神に感謝した。彼等は神に感謝するささやかな食事会を開き、インディアンたちも招いて感謝の気持ちを伝えた。
 やがてアメリカは何度か国が分裂する危機を迎えたが、時の大統領はそのたびに、ピルグリム・ファーザーたちの艱難辛苦を想い、また神に恵みを感謝する日をサンクスギビングデーとして制定したり、また改めてナショナル・ホリデーとして制定したり、その日を11月第4木曜日に制定するなどして、その国家的分裂の危機に際し、国民の心を一つにすることに成功した。 
 アメリカに対する失意とは、ビルグリム・ファーザーたちはインディアンに助けてもらい、彼等と何の隔たりも持たずに交流してきたにもかかわらず、やがてアメリカ人たちは、インディアンたちを騙し、その土地を奪い、彼等を追い出し、殺戮していったのである。そしてついにインディアン達を限られた土地に閉じ込めてしまった。いまでもアメリカには根強い人種差別が残っている。

 いま感謝祭・サンクスギビングデーは単なるナショナルホリデーとして、七面鳥料理やパンプキン料理を食べて楽しむだけだが、もう一度ピルグリム・ファーザーたちの苦労を偲び、彼等を救ってくれたインディアンの友人達のことも想い、神に感謝すべきであろう。

            

光陰、馬のごとし ゴールドイーグル

2015年11月26日 | 競馬エッセイ
               

 昭和47年秋、既に一部の週刊誌に「大井の怪物ハイセイコー」の記事が出始めていた。南関東公営の大井、川崎、船橋、浦和の地方競馬は施設も貧弱で、ダートコースしかなく、賞金額も少ない。集まる馬たちにも良血馬は少なく、安馬がほとんどであった。ハイセイコーも決して良血馬とは言い難い。それでも取引価格は破格の1500万円と言われていた。
 ハイセイコーは500キロを優に超える雄大な馬格を誇り、デビュー前の調教が驚異的であったらしい。ハイセイコーとの対戦を回避する馬が多く、予定していた新馬戦が不成立となったほどである。
 彼の初戦は未出走戦6頭立てで、6馬身差のレコード勝ち。続いて16馬身差の大差のぶっちぎり、8馬身差の楽勝で3連勝を飾った。
 寺山はハイセイコーに二度2着したジプシーダンサーという牝馬に、彼らしい物語を仮託していた。
 同世代でハイセイコーに次ぐ存在は、同じく大井のゴールドイーグルとヨウコウザンと見なされていた。このゴールドイーグルの父がカブトシローである。生産地は競走馬の僻地宮崎県である。母馬の血統も三流で、取引価格はたったの70万円だった。 彼の馬体は、420キロ台と小柄で、その黒鹿毛は写真で見た父カブトシローに良く似ていた。
 彼もデビューの新馬戦から鮮やかに逃げ切って3連勝を飾っていた。4戦目は逃げ粘ったものの2着で、5戦目のゴールドジュニアカップで初めてハイセイコーと対戦した。

 私は大井競馬場に出かけた。ハイセイコーの対抗に、伝説のカブトシローの子ゴールドイーグルの馬券を買った。ゴールドイーグルは小さな馬体で果敢に逃げたが、二番手を進んだハイセイコーにアッという間に10馬身の大差をつけられてしまった。またもレコード勝ちである。馬券は当たったが配当はごくわずかであった。ハイセイコーの圧倒的な強さと迫力は感動的で、懸命に逃げ粘って2着を確保した小さなゴールドイーグルは健気であった。
 ハイセイコーはその後2戦を大差で楽勝し、鳴り物入りで中央競馬に転厩した。ハイセイコーの抜けた南関東公営競馬は、ゴールドイーグルとヨウコウザンの一騎打ちの様相を呈した。しかし世の中はハイセイコーのいる中央競馬の話題で沸騰していた。
 重賞・黒潮杯はゴールドイーグルが父そっくりの強引な逃げでヨウコウザンに6馬身の大差をつけて勝った。1番人気に応えたのである。続く羽田杯はヨウコウザンに差されて2着。迎えた東京ダービーは16頭立て。ヨウコウザンと差のない2番人気だったが、逃げて馬群に沈み、最下位の16着に敗れた。勝ったのはヨウコウザンである。ゴールドイーグルの負け様と人気への裏切りは、どこか父カブトシローを彷彿させた。

 その後ゴールドイーグルは 脚部不安から 長期休養に入り、ヨウコウザンはレース中に骨折して死んだ。地方競馬ファンは「あゝヨウコウ惨!」と悲しんだものである。 しかし世の中は、ハイセイコーの日本ダービーの敗戦を悲しみ、彼が秋の菊花賞で雪辱を果たすかどうかを論じ始めていた。そんな中、ゴールドイーグルは名古屋・中京・笠松を舞台とする東海公営競馬に転厩していった。
 その後再起したゴールドイーグルは、6戦5勝2着1回という好成績で東海公営競馬のチャンピオンホースとなった。70万円の馬は既に6千万円の収得賞金を稼いでいた。
 脚部不安で1年9ヶ月を棒に振った後、中央競馬の栗東の名調教師・伊藤雄二厩舎への転厩が発表された。ゴールドイーグルは、あの伝説のカブトシローの子として初めて注目を集めたのである。あのハイセイコーは引退し、既にいない。
 彼は2戦目の重賞マイラーズCで良血の一流馬を相手に鮮烈な逃げを見せ、シンザン産駒で2つの日本レコードを出した芦毛の快速馬シルバーランドの2着となった。その強引で豊かなスピードに、多くの古くからの競馬ファンは伝説のカブトシローを重ねたのである。しかし彼はこのレースで脚を痛め、再び長期休養に入ってしまった。
 十ヶ月後の彼の再起はもっと鮮烈であった。大阪杯を楽に逃げ切り、続くマイラーズCも6馬身差の大差で逃げ切った。この二戦で破った相手は後の天皇賞馬ホクトボーイやクラウンピラード等である。
 ゴールドイーグルは天皇賞で14頭立ての3番人気となった。1番人気になれなかったのは仕方がない。あの貴公子と呼ばれたテンポイントや、長距離のスペシャリスト菊花賞馬グリーングラスがいたからである。勝ったのはテンポイントであった。ゴールドイーグルは逃げに逃げたが直線で一杯になり、馬群に沈んだ。最下位の14着で、その姿は父に似ていた。レース中に脚の骨にヒビが入っていたのである。
 引退して種牡馬になったゴールドイーグルは、三流血統のため産駒は極めて少ない。それでも地方競馬でそこそこに走ったゴールドシナノ、ゴールドニセイを出した。だが彼は種牡馬を数年で廃用となった。その後の行方は誰も知らない。


            (この一文は2006年5月9日に書かれたものです。)

放送法と政治介入

2015年11月26日 | コラム

 映画監督の是枝裕和さんのブログがいい。彼はBPOのメンバーでもあるから、よく放送法を読み込んでいる。とても勉強になる。
 自民党がNHKの幹部を呼びつけて事情を聞いたことについて、BPOが「政権党の圧力そのもの」と批判したことについて、安倍首相は「予算を承認する責任がある国会議員が事実を曲げているかどうかを議論するのは当然」と言った。当然すべき国会でのTPPの報告すらしない奴が…。
 放送法の4条は放送事業者に対して政治的な公平性や事実を曲げないことなどを求めている。その第1条で「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と定めているが、その放送法を審議していた1950年の衆院電気通信委員会で、当時の綱島毅電波監理庁長官が「この条文はそもそも放送事業者ではなく、政府に対して向けられたものである」と答弁している。
 第1条は放送局を縛ることを意図としたものではなく、放送局に対して「政治に介入されることなく、不偏不党や真実を貫く権利を保障」している条文だった。また、不偏不党や真実といった条件は、放送局自らが「『自律』的に担保すべきものである」ことも同条文は謳っている。
 それを前提に、政治的公平性や事実を曲げないことを求めている第4条は、これらの条件も放送局が自律的に担保すべき基準と考えるのが自然で、同じ法律の第1条で政治の介入を禁止しながら、第4条で政治が介入してもよいと解釈することには無理がある。
 そもそも日本国憲法21条は表現の自由や検閲の禁止を定めている。まず憲法21条が大前提として存在し、その下で放送法が第1条で権力の介入の禁止や放送局の自律的な不偏不党性や真実性の追求する権利を定めている。さらに第4条で第1条で示した不偏不党性や真実性の具体的な要素として、政治的公平性や事実を曲げないことなどを挙げているのである。
 安倍や高市総務相の頭の中は、憲法21条と放送法の1条と4条があたかも同列・並列であるかのような認識なのだ。さすが憲法無視の輩である。憲法21条と放送法1条の存在を無視し、全く独立した法律の条文として放送法4条を出し、放送局には「政治的な公平性」や「事実を曲げないこと」が求められるとし、これに違反した場合は行政が介入できると強弁した。自民党=政権党の介入は予算を審議する立場上当然とした。
 先ず憲法は他の法律より上位法であり、憲法で保障された基本的権利の下位法として放送法がある。放送法の1条を前提に第4条がある。
 やはり安倍自民党は憲法無視の政権なのである。