今から14年前、「戦争プロパガンダ10の法則」という本が、草思社から出た。著者はブリュッセル自由大学の歴史学、歴史批評学の教授アンヌ・モレリ、訳者は永田千奈であった。草思社はすでにない。今アンヌ・モレリは戦時下のようなテロの混乱の中にあるブリュッセルで、何を想い、どのような発信をしているのであろうか。
この本はイギリスのアーサー・ポンソンビー卿が1928年に出版した「戦争の噓」を元に書かれている。
ポンソンビー卿はウィンザー城で生まれたイギリス屈指の家柄の出である。彼は絵に描いたような名門の教育を受け、イギリスの外交の職に就くが、保守党ではなく下院の自由党議員となり世間を驚かした。彼ほどの名流の貴族としては大胆だったのである。しかしポンソンビー卿はイギリスの第一次世界大戦の参戦に反対して労働党に入党し、下院、上院で議員を務め、労働党内閣外務省補佐官、運輸大臣を歴任した。その後野党労働党のリーダーとなった。しかし1940年、労働党が挙国一致内閣に参加すると同時に労働党を脱退した。彼は平和主義者だったのである。
第一次大戦中、イギリス政府は全国民に義憤や恐怖、憎悪を吹き込み、愛国心を煽り志願兵を集めるために噓を作り広めていた。ポンソンビー卿はそれを暴こうとし、イギリスの戦争プロパガンダの基本的メカニズムを考究して、それを10の項目に集約したのである。それが「戦争の噓」である。
しかし、あれほど徹底的な破壊と累々たる死者の上に、立ち上がり、復興したのもつかの間、その10項目は、そのまま第二次世界大戦にも当てはまったのである。再び徹底的な破壊行為と累々たる死体が並び、再び復興し繁栄した人類は、また何度も同じ過ちを繰り返し、繰り返そうとしている。
アンヌ・モレリはその考究を現代の世界の政治システムと紛争、戦争、そして戦争に向かう傾向と政治指導者、国家の現在を重ね合わせたのである。
戦争の噓、国家の噓、政治家たちの噓は現代もそのまま生き続け、普遍的でさえある。それは日本にも、中国にも、北朝鮮にも、アメリカやロシアにも、トルコやフランスやイギリスやドイツにも、そのまま当てはまる不気味さなのである。
政治指導者、国家は言う。ローズヴェルトもそう言い、ヒトラーもゲッベルスもそう言った。
1. われわれは戦争したくない。
2. しかし敵側が一方的に戦争を望んだ。
3. 敵の指導者は悪魔のような人間だ。
4. われわれは領土や覇権のためでなく、偉大な使命のために戦う。
5. われわれも誤って犠牲を出すことがある。しかし敵はわざと残虐行為に及んでいる。
6. 敵は卑劣な平気や戦略を用いている。
7. われわれの受けた被害は小さく、敵にあたえてた被害は甚大。
8. 芸術家や知識人も正義の戦いを支持している。
9. われわれの大義は神聖なものである。
10. この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である。
世界の全ての紛争や戦争に、あるいはその道の過程で、政治指導者たちが咆哮し、国民は全体主義の坩堝と狂気に陥っていくのである。
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