大蕪につられはんなり試食かな
三千院でのお参りを終えて参道に出ますと、樽に大きな蕪が大盛りされているいかにも老舗という風情の漬物店がありました。明治34年(1901年)創業の「土井志ば漬本舗」です。京都・大原に千年前から伝わる製法を守りつづけているとのことで、歴史の重み・旨味を感じました。
漬け物はお酒のダイエットつまみ(?)として私の大好物です。京野菜を漬けた漬物を「京漬物」と呼び、中でも「千枚漬け」、「すぐき漬け」、「しば漬け」は「京都三大漬物」とのことです。聞きなれない「すぐき漬け」とは、蕪の一種の「酸茎菜(すぐきな)」を塩漬けしたものです。また、大原は昔から赤紫蘇の産地として有名で、茄子、胡瓜、茗荷などの京野菜を紫蘇の葉と共に漬けた「しば漬け」発祥の地だそうです。
「はんなり漬け大根」というのもありました。初めて出逢う「はんなり」とは京ことばで、上品ではなやかな感じがするさまを表す言葉とのことです。食べ物を形容する場合は、「濃くも薄くもなくその中にほんのり優しい、しかししっかりと上品な味わい」を意味するのだそうです。「しょっぱい」、「からい」、「あまい」と一言では言い表せない趣の深い味なのでしょう。長い食の歴史文化を持つ京都ならではの言葉と思いました。
裏道まで声明朗々朝もみじ
朝日あびもみじ高みへ三千院
漬物屋さんから来迎院に行きました。歩いて5分ほどのところにあり、その途中には江戸時代以前の歴史を感じさせる高い塀が長く続きます。その塀の造りは下から石垣・白壁・瓦屋根という立派なもので、見上げるような高いもみじの木が朝日を浴びながらお寺の中から道にせり出しています。どこからか、声明が朗々と流れてきます。なんとなく、時間が江戸以前に遡り、静けさ、雅、荘厳さを感じられたひと時でした。
来迎院は平安時代初期(9世紀頃)、天台宗の慈覚大師・円仁が声明の修練道場として開山され、天台声明の音律の根源の地と言われています。声明の起源はインドで、奈良・平安時代に中国を経て日本に伝来したとのことです。キリスト教の聖歌とは異なるゆったりとした時の流れと心の安らぎを感じさせてくれます。