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The Sword 第五話 (3)

2010-05-03 18:54:41 | The Sword(長編小説)
ゴールデンウィークに入り、相変わらず素振りは欠かさない。出来れば木やサンドバッグのようなものに打ち込みたいところであるが、近所、迷惑になるので出来ない。
『奴に勝つ!勝たねば!やられる!!金田は必ず現れる!!』
目の前に金田の姿を思い描く。その金田の幻影にひたすら打ち込んでいく。
『はぁ・・・ふぅ・・・』
汗だくで息を切らしている一道に対して、金田の幻影が笑った気がした。
「あああぁぁっ!」
自分自身を鼓舞して、斬りかかった。座り込んで、大きく息をつく。
「こんな事では・・・」
息が整ってから、再び竹刀を握り締め立ち上がって、素振りを繰り返す。基本は面、胴、小手、突き。それから戦いは剣道ではないから、色んな形で斬ってみる。下から振り上げてみたり、斜めから斬ってみたり、足や首や肩を狙ってみたり様々なパターンをコンビネーションとして組み立てていく。しかし、まだまだ甘いと思う。
「くぅ・・・ん?」
太陽が一道の前にやって来て、ほうきを持ってきて素振りを始めた。
「どうした?太陽?」
「いちどー。何か強そうなんだもん!俺も強くなりたい!」
男の子の憧れみたいなものだろう。特に特撮ヒーロー物に手に汗握っている子供達である。竹刀を振るっている姿は格好良く映るのだろう。
「そうか・・・だが、俺は全然弱いぞ」
「ええ?いちどーは強そうだよ。なのに、もっと強い奴がいるの?」
「いるとも・・・数え切れないほどいるだろうな。世界は広いからな。だからこそ、そいつらに勝つためにこうやって練習しているわけだ。強くなりたいのであれば一緒に強くなろうじゃないか?」
「うん!!」
傍から見ればそれは師匠と弟子と言った感じである。
「お!やってるやってる。今日は弟子もいるのか?」
そこへ慶が現れた。今日の午前中は施設で子供達の相手をしてやって、午後はバイトなのだそうだ。施設内でヒーローごっこを行っているようだ。
「師匠?弟子なんか取った覚えは無いぞ」
「どう見ても弟子に見えるけどな。そこのちっこいの」
「何だと!?俺はちっこくないやい!」
「おっとと!」
太陽が箒を振り回す。慶は素早く避けた。もう、金田に斬られた傷はよくなったようで、機敏である。
「慶、俺は全然強くないぞ。だから弟子なんか取っている暇は無いさ」
「お前は十分強いと思うけどな。単に、あの野郎が強すぎるだけなんだよ」
「勝てなければ強くなどない。超えるまでやる」
「その頑張りには脱帽だな」
そう言って竹刀を振るう。それにならって太陽も箒を振るう。すると、今度は掃除機の筒の部分を持った大和が出てきた。
「俺も俺も!」
そのまま素振りを行っているのを慶は見ていた。子供達が脱落したが、一道と慶は振り続けた。ゴールデンウィーク初日はそれで終了した。次の日、早朝。
「ん?」
と、一道が起きて、外に出ると何と慶が短い竹刀を持って立っていた。その竹刀は一道が小学生のときに使っていたものである。
「使わせてもらっていいか?」
「いいぞ。俺は剣道部からもらった奴があるからな。急にどうした?」
「毎日、毎日あんなの見せられたら俺だって動きたくなるさ。男だしな。それに弱くても相手がいた方が練習になるだろ?」
「そうか。ありがたい。少しは足しになってもらわないとな。引いてばかりではたまらんからな」
「なかなかキツイ事を言うな・・・だが、少しでも近づきたいってのはある!マイナスは小さい方が良い」
「お前は飲み込みが早いから案外、プラスに転じるのも早いかもしれないぞ」
「そんな事を言われたぐらいで浮かれる俺じゃねぇよ。いちどー。じゃ始めるか?」
素振りを始めた二人。慶の竹刀は一道の竹刀に比べて数cm短い。子供用など違いがあるからだ。最初のうちは気持ちよく触れていたのに、そのうち手首が痛くなってきて痙攣し始めてきた。
「あまり無理をするなよ」
慶の素振りの音を聞き分けた一道がすぐに言った。竹刀は1kgもしない極めて軽いものであるのだが長い為に、思いっきり振ればその分、遠心力が働き、手首や指に負担が掛かる。
「はぁはぁ・・・そうだな。初日から無理をしてよくないか・・・」
慶は竹刀を置き、おもちゃの車に腰掛けた。慶の体は汗だくで、湯気が立っていた。
「それにしても凄いな・・・いちどー。昔はチャンバラごっこで互角だった俺が・・・今じゃ、軽い竹刀を振っただけでバテバテだ」
「初日でそんなに出来たら俺の立場がないだろ?」
一方の一道は汗をかいているが、動くは変わらず、まだまだ余裕があるという風に見えた。少し経つと太陽や大和も合流して素振りをしていた。汗をかいたらシャワーで体を洗って、朝食に臨む。朝食が終わったら、一道は筋トレの為に近くの公園で体を動かした。ベンチに足を置いて腕立て伏せや腹筋など、足の位置を変えることで効果的な負荷を加えられた。
「お母さん、あの人、何やってるんだろ?」
「トレーニングみたいね。危ないからちぃちゃんはやっちゃだめよ」
「はーい」
公園でやっているために子供から視線を浴びる事が多々あった。昼に一度戻って、今度はランニングだ。夕方になるころにはへとへとだった。
「1日中は・・・キツイなぁ・・・」
食事の量は大体決まっているために、ご飯のお替りを1杯半ぐらいすると、ジャーのご飯は無くなってしまい、空腹に耐えるしかなくなった。次の日も同じようにトレーニングを行った。

3連休が終わり、土曜日に1度学校にいく羽目となった。しかし、ゴールデンウィークの中の日と言う事もあって休む人が多く、先生の気も緩んでいるようであった。そんなかったるい授業を終えて、一人筋トレに励み、それから忠志と合流する。
「どこか行ったか?」
「いや、施設にいた」
「そうか・・・3日間は充実していたか?」
「それなりに・・・」
「そういえば、体が引き締まったし、気持ち一回り大きくなったように見えるな。筋肉がついてきた証拠か?」
「それなりに・・・」
「と言う事はさらに強くなったと言う事か?」
「それなりに・・・」
一道は淡々と言う。それが自信の表れのようにも見える。忠志は試合をしたいと思えてきた。怖くもあるが楽しみでもある。
「では、立ち合ってみるか?」
「そうしてくれるとありがたい。今日は前、現れた邪魔者も帰ったしな」
部活終わりに一道の練習風景を見て暫く、黙って見ていて、帰っていったのである。という事で水を差すような人間もいない。二人は、剣道着を着て、対峙した。
「今回も勝たせてもらうぞ」
「前のようには行かないさ」
蹲踞の態勢を取り、試合は開始された。お互いすぐに決着をつけようとせず相手の様子を見ている。
『前と同じぐらいの凄みを感じる。それに体力もつけたと言うのなら相当手ごわい事になる・・・だが、負けるつもりはない!』
一道が冗談から踏み込んできて、忠志は冷静に対処する。それから忠志が出ると今度は一道が対処する。そんな攻防が10秒ぐらい続いた。たった10秒であるが、戦っている本人達からすれば1分、2分という長大な時間に感じられるものだ。
『武田 一道。お前はまた、こちらの集中力が切れてから狙おうなんて考えているのだろう。俺はあの時の俺ではない!!そしてその気に惑わされはしない!』
一道から決定的な打突がないので、待っているのかもしれなかった。小学生の大会の時に、忠志は一道に対して、序盤から攻め続けていた。そのまま押し切れると忠志は信じていたがその油断を一道に突かれ、敗北に至ったのである。だから、待っている状態にある一道に漬け込む余地があると踏んだのだ。
「だぁぁぁぁ!めぇん!」
バチィ!
一道は、ギリギリの所で受けた。忠志とてその攻撃だけで終わらせはしない。
「突きぃ!」
忠志は、突きを放ったが、一道の突き垂れには微妙に逸れ当たらなかった。そこへ、一道が攻撃を入れようとして来た。
「めぇぇん!!」
カッ!
「!!小手ぇぇぇ!!」
バシィ!!
ベッ!
何と、忠志は引きながら一道の振るう竹刀を流させて小手を仕掛けた。
「ぬ!」
勢いが奪われた一道の面は忠志の肩に入っていた。しかし、肩は判定部位ではないし、面と言ったのに他の部位を当ててもそれは無効とされる。
「・・・」
勝負を決し、二人は蹲踞の態勢を取って試合場を出た。ちなみに、勝負を決したからと言ってガッツポーズを行うとその勝利は無効となるので静々と出て行くのだ。それは、敗者に対する礼儀と言うものである。
「惜しかったな。あと少しで面が入っていた」
「そうだな。あと少し・・・」
林沢が面を取りながら、冷静に返すが不自然なぐらい笑みがこぼれていた。それほど勝利して嬉しいのだろう。しかし、一道はそれほど悔しそうという気がしなかった。
「今度こそ勝つぞ」
「そう簡単には負けないぜ。武田 一道」
改めて言い直すが少し引っかかる忠志であった。それから、再び練習にある。忠志は一道のリアクションを忘れ、勝利の余韻に浸っており、気分が高揚しているようだ。
『今回は、奴の気に惑わされる事なく、自分の実力で勝てた。俺も、強くなっている!』
今までの大会などの勝利よりも今回の勝利の方が大きく、そして価値があるものだと正しは内心、狂喜乱舞という状態であった。一道は負けた事を気にせず素振りを行っていた。
練習を終えて、にこやかにしている忠志に別れを告げて家路に着いた。

家に帰ってから元気にもらった連絡先に電話をかけてみた。明日はあの元気と犬との約束の日である。連絡先を受け取っておいたので一道は電話を入れた。
「おぅ!いちどー!元気してっか?」
「それはまぁ・・・」
「元気が元気にしてっかって言っているんだぞ。少しは反応しろよ。笑うなり突っ込むなり・・・」
「そうですね。次からは気をつけます」
受話器から大きなため息が聞こえた。
「明日は多摩大駅北口の大画面の前に来れるか?」
「どうかしたんですか?」
「俺は来れるかどうかを聞いたんだよ。お前ら2人?」
「自分はいけますが慶の方は分かりません」
「じゃぁ、午前10時にそこで!じゃぁな!」
電話は一方的に、切られた。慶にそのことを伝えると行けるという事なので二人は次の日になるのを待った。次の日、早朝、剣道の練習を行い、朝食を取ってから一道と慶は多摩大駅へと向かった。
「態々、駅まで呼び出すとは一体、何をするつもりなんだろうか?」
駅に着くが、気持ちが逸り過ぎたのだろう。30分も前に着いてしまった。
「何か場所に関係した事をするのかもしれないな。たとえば・・・ここでポチって犬に出会ったとか・・・」
「それもありうるな・・・」
「それもって事はお前も何か考えているのか?」
「他の剣の使い手を連れて来たりって事もあるんじゃないか?」
「そうだな・・・」
二人が考えていると二人の予想は大いに裏切られた。
「よぉ!」
元気の声を聞いたので振り返ると、そこにはレンズの小さく薄いサングラスをして、白いシャツとその上に黒っぽい上着を着た元気が現れた。今時のちゃらっぽい人という感じである。
「あれ?鉄夫さんは?」
元気は犬を連れてはいなかった。二人の生い立ちを聞くと言うのなら鉄夫の存在は不可欠のはずである。
「いないぞ。それがどうした?」
「?どうしてっすか?折角、色々と話をするんじゃなかったっすか?」
「はぁ?話だぁ?別に今日は何も話す事なんて言ってねぇし」
「!?俺達はあなた達の事とか色々と込み入った事を聞くつもりで出てきたんですよ」
驚きながらも一道は丁寧に返した。
「だから俺がいつ今日は話があるなんて言ったよ?」
「じゃぁ何をするために今日、集まったんすか?」
「遊ぶんだよ」
「はぁ!?」
二人は、この非常時に能天気な事を言っている元気という男が信じられなかった。
「折角のゴールデンウィークなんだ。遊ばなくてどうすんだよ?お前たち若いだろ?」
元気はノリノリと言った様子であったが、二人は呆れていた。
「それじゃ、帰ります。自分はそんな事をしている暇はないんです。金田って人と交える為に1秒でも多く練習を重ねないといけないんです」
「俺も同じっすね。色々と話を聞こうとしていたんすから・・・遊ぶって・・・」
二人が歩き始めたところを元気は肩をつかんだ。
「待てよ!俺はお前達について殆ど知らない。それはお前達だって同じだろ?同じものを持っているからってそれだけで仲間だって言えないだろ?確かに、お前達が言うように話ってのもあるけどよ。話ってなると、頭で考えてするものだから元々考えていた事を話す事もあって相手が本当は何を考えているか分からないだろ?テレビで出てくる政治家みたいによ。日本の為に命を懸けるとか口だけは偉そうな事を言っていて、自己保身ばかりで金の事しか考えてない馬鹿野郎だったりとかさ。だから、体を動かして一緒に遊ぶ事でどんな奴かって事を知る訳だ。言葉のやり取りよりも分かりやすいだろ?」
サングラスを外して、喋る元気は本気に思えた。そして、元気の言っている事も理解できた。
「それは分かりますけど・・・」
「けど、なんだ?」
「遊ぶって言うのは、もう少しお互いの事を知ってからの方が・・・」
「人見知りか?別に、一緒に遊んでいりゃそんな事、気にならねぇだろ?」
元気の説得は必死である。高々、遊びでそこまでする必要があるのかと思う。
「人見知りというより、俺達、金ないんすよ。高校生ですし、小遣いももらえないんで・・・」
「そう言う事か?だったら今日は俺のおごりでいいぜ!俺は社会人だからな。と言っても、あまり高い事はしてやれねぇぞ」
「それでしたら・・・」
「よっしゃ!決まり!じゃぁどうするか?ってお前達、今日話すつもりでいたから何をするかって言っても、決めてねぇか?なら、この兄貴にまっかせなさーい!!」
元気は胸をドンと叩いて、ニッコリと笑っていた。強引な男である。
『今時、自信を表すために胸を叩くか?昔のドラマじゃねぇんだぜ』
『はぁ・・・何だか先が思いやられそうだ・・・』
前途多難だと思いつつ、歩き出した。まず向かったのは駅からちょっと離れた所にあるバッティングセンターである。
「俺がお手本って奴を見せてやろう」
元気は急速が時速120kmのゾーンに入り、お金を入れてバットを握る。
「かかってこーーい!」
クルクルとバットを回しながら待っている。ピッチャーマウンドにある画面がピッチャーを表示し、投球フォームを取ると、穴から弾が飛んできた。
ガコッ!
バットに当たったものの、バットの端に当たったために、バウンドして、左側に飛んでいった。
「ようし!なかなか来ているぞ!どんどんこーーい!」
それから、20球ぐらいあったのだが、元気は8球打ったが、打ったというよりはただ単に当てたというだけだった。前方に飛んだのはゴロだけであった。
「まぁ・・・こんなもんだろ?お前らやってみろ!初めてなら90kmぐらいで」
「いや、ちょっと面白そうなので元気さんと同じ120kmで・・・」
慶がバットをもらって、打つ。すると、4回も当てた。初心者で120kmを狙って当てるのはかなり大変な事である。
「お前、センスいいな。俺、始めこのスピードでやったとき、1回当てるので精一杯だったぞ」
「そんなんすか?多分、マグレかなんかっすよ」
「じゃ、次、いちどー!」
良く知らない人からいちどーというのは少し癪に障るがここは抑えてバットを渡されマウンドに立つ。
カコン!カン!
小気味良い音が何度もする。20球中元気と同じ8発も当て、2球はちゃんと返していた。
「お前、本当に初心者か?野球経験者じゃないのか?」
「未経験ですよ」
「コイツ、剣道部なんで、竹刀とかバットを持つと凄いっすよ」
「じゃぁ俺が本気を出してみるか?」
一道にあんな所を見せられては経験者の名が廃るという事でいい所を見せようとした元気であったがそれから3回もやったが結果は散々であった。8球当たったのが、5球になり、4球になり、2球となった。
「おかしいな?本当はもっと打てるんだけどよ。最近あまり来てないから鈍っているようだな。そうだ。そうに決まっている」
向きになって連続でやったために相当疲れたようだ。バッティングセンターを後にした3人は、次にゲームセンターに向かう。2人は金をすぐ使ってしまうゲームセンターには殆ど来た事がなかった。だから、お金を渡されたもののあまり技術を使うようなゲームは出来ないのでどれをやっていいか困っていた。
「何だよ。ぼーっと突っ立てんなよな。ゲームをやらないってのならあーいうのならどうだ?」
元気が指差したのは、メダルゲームだ。ポーカー、ブラックジャック、麻雀、パチンコ、スロットマシーンなどがあり、一際目立つのが競馬である。大きな画面と連動してミニチュアの馬が走るのだ。
「メダルゲーは腕もあるだろうがそれよりも重要なのが運だ。これならいいだろ?1回で終わりっつー訳でもないしな」
機械に1000円分入れるとジャラジャラとメダルが出てきて、それが予めおいて置いた器の中に入っていく。
「1000円で80枚って事は2人が27枚で1人が26枚か・・・俺が27枚で、お前らじゃんけんして決めろ」
じゃんけんをして一道が27枚を取る。元気はちゃんと計算しているところが案外、神経質なのだという事を知り、何となく面白かった。
「お前らは競馬をやった方がいいじゃないか?他のゲームはすぐに結果が出ちまうから下手な奴はアッという間にメダルを吸い込まれちまう。競馬なら、1ゲーム数分かかるからな」
言われたとおり、競馬ゲームの席に座った。ルールは競馬と同じである。1着の馬を当てる単勝。1着と2着の馬を当てる連勝とがある。ただ、それをゲーム画面に直接触れる事で操作するというのが一道には良く分からなかった。他のゲーム参加者のすばやい動きを見ながら操作を理解していく。
「あれ?賭けられないぞ!」
何度も画面に触れているが、画面の表示は何も変わらない。力一杯押してみるが何も変わらない。
「おかしいな」
「何やってんの?いちどー」
元気が一道の様子を見て聞いてきた。
「画面を押しているのに、賭けられないもので・・・」
「そんな事ないだろ?」
元気が画面に触れると127.6倍という馬に1枚かけた。
「ほら」
「おかしいな」
確かに、元気が言うとおり、賭けることが出来た。
「もしかしていちどー。出走中に賭けようとしたんじゃないの?」
「え?」
「出走中に賭ける事が出来るんならみんな、当たる寸前で賭けるだろ?ハッハッハ!いちどー君やってしまいました!!」
こういう風に指摘されると非常に腹が立つ。元気に見つかったのが運の尽きという所であった。
「ハッハッハ!ところでいちどー君。メダルくれ」
ポーカーをやってすぐにメダルを使い切ってしまったらしくメダルをもらいに来たようだ。と言っても元が、元気の金であるから、拒否する事は出来ず、何枚か取られていった。
それから30分ぐらいすると全員メダルが無くなった。という一道と慶のメダルを元気が全て、使い切ったのだ。結局、自分の金の分は自分で遊んだという形になる。
「よーし!みんな!腹も減ったところだ!飯を食いに行こう!」
謝る事なく笑顔で近寄って来る元気。少々、ムッとするが口に出せる立場ではないと黙っている。そのままゲームセンターを後にして、近くの牛丼屋に入った。
「じゃんじゃん好きなのを選べ!その代わり500円以内だ!それだったら何だって選んでいいぞ!ハッハッハ!」
『500円じゃ、安いセットでおしまいじゃないか・・・』
500円という価格で食べられるものはせいぜいお茶碗1杯のご飯と小さな牛皿とワカメと豆腐ぐらいしか入っていない味噌汁と少量の白菜のお新香と小さな焼き魚というセットだ。男子高校生の食事としては物足りないだろう。それを何も言わずに食べる。
「俺、自腹で卵を追加」
慶は大盛りの牛丼を頼んでその上に、自分で買った半熟卵を乗せて食べていた。
「お!なかなか面白い事やってんじゃねぇか?」
「大盛りだけでも足りないっすから」
軽い昼食を済ませて今度はビリヤード場に入ってみた。薄暗くて始めてくる一道や慶にはその独特の雰囲気に戸惑った。チラチラと周囲を見て何か落ち着かない。
「ナインボールと言って1から順番に9まで入れていくゲームだ。それで9番を入れたら勝ち。他のボールを8つ入れても9番を入れられたら負けだ。細かいルールはやりながら言っておくぜ」
そう言って元気はキューを取り、玉を並べ打った。かなり強めに打ったので6番が跳ね返って落ちた。それから続けざまも2番、3番とルールを説明しながら入れていった。
「どうだ?分かったか?」
「はい」
「まぁ、ビリヤードは奥深くあるが、楽しみぐらいなら別に難しい物ではない。たた単に己がしっかりと手に持つ棒状のキューで玉をポケットという名の穴にぶち込むというものだ」
ところどころ言葉を強調し、こちらの顔を見ながらニヤリと笑う元気、間違いなく狙って言っているに違いなかった。
「フフッ」
あまりの事に、一道が思わず笑ってしまった。
「お!いちどーが笑った?一体どこが面白かったんだがなぁ?」
『この人・・・完全に下ネタを狙っていたくせに、見え見えの嘘を・・・』
白を切る元気に苛立つ一道、と思わぬところから声がかかった。
「コイツ、こう見えても下ネタが好きなんすよ」
「慶!」
「何でそこで下ネタが出るか分からないが、いちどーは下ネタが好きなんだ。へぇ・・・真面目一辺倒に見えるいちどー君が、下ネタ好きね・・・いい事聞いちゃった~。メモしておこっと」
ニヤニヤしながら右手で左手の手帳を書くような動きをする。だが、元気はメモ帳もペンも持っていないから書いている振りである。余計な事をという風に慶を見る一道。慶は知らん顔をしていた。そして、それはゲーム中に起こった。
「やっべ!!」
元気が打った玉はポケットと玉が一直線に並んでいる絶好の状態になってしまった。渋い顔をしながら元気は、ポケットの後ろでしゃがんで顎をポケットの近くにおいた。
「ようし!これならイケる」
狙いを良く定める必要もなく、白い玉に当てようと思ったときであった。
「・・・」
元気は聞こえない何か口パクをしたようであった
「ああ!?」
手元が狂い、ボールは完全に逸れてしまい、何も当たらなかった。
「ハイ!ファール!俺の番!しかも好きなところに置いていい!」
そのまま、サッと元気は良い位置に玉を置いて、8番を落とす。力加減をちゃんとしていたので9番もそのままの位置で落とし、今回も勝った。
「アンタ、頭おかしいんじゃないか?」
「はて?何の事かな?」
「とぼけないで下さいよ。あなたが・・・って言った事を俺は知っているんですよ!」
一道も口パクをする。それは放送禁止用語である3文字の女性の体の一部であった。
「何を言っているのか俺にはわからないな~もっと大きな声で口に出してもらわないと俺にはわからないよ~。」
近くに客がいるのに、そんな事を言えるわけがなかった。
「アンタ、そこまでして勝ちたいんですか?」
「アナタガ、何ヲ言ッテイルノカ、私ニハ分カリマセーン」
両手を挙げて、外国人がやるかのように分からないポーズをとる。それがまた腹立たしかった。
「Let‘s go! next game」
そんなどうしようもないゲームが数回やっていた。元気は外人喋りが気に入ったのか終了時間まで続けていた。
「慶、お前が訳分からない事を吹き込むからこうなったんだぞ」
「いや、そんな事を言っても事実だからなぁ~」
「くそぉ・・・」


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2 コメント

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がんばって (髭人)
2010-05-04 21:14:58
どういった内容か分かりませんが気落ちする事なくやる気になれることが出来てよかったですね~
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すげぇ内定もらったwww (無職の帝王)
2010-05-04 16:05:10

春に就職できなかったけど、ここに永久就職しちまおっかな?(笑)
昨日もチュッチュしてただけなのに、5万も頂いちゃった件www
こうなりゃこのまま100万ぐらい荒稼ぎしてやるぜぃ!!\(゜∀゜\)

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