一道はとても温かい気分に浸っていた。ぬるま湯に体を預けているような状態。何も考えずただ浮かんでいる状態。極楽とはまさにこの事、その心地よさに他の事などどうでも良かった。
「温かく、気持ち良い・・・最高だ」
夢のような気がしていた。意識が呆けているのか夢なのか認識出来なかったがただ、ずっと気持ちを体感していたかった。だが、遠くから何者かが近付いてきた。
「・・・」
「何!お前!慶、まさか生き返ったのか?ならこの気持ちを一緒に」
「・・・」
慶は何も言わず、哀れみの目をしていた。
「どうした?生き返ったんだろ?お前!そんな目をするなよ!慶!けぇぇぇい!」
ガバッ!ゴツゥ!ガツッ!
「ッ痛ぅぅ!!」
起き上がろうとしたら額を硬いものにぶつけ、その直後、後頭部も強打した。頭の中がスパークした気がしたが頭を振ってみた。目の前は薄暗くそれで視界一杯に白いものが間近にあった。
「つぅ・・・何だこれは?どう言う事だ?」
冷静になろうと意識してまず、自分の状態を確かめてみた。
「右手、小指、薬指、中指、人差し指、親指・・・動く!左手、小指、薬指、中指、人差し指、親指・・・動く!」
そのような要領で肘、肩、足首、膝、股、首の順で動かしてみる。慶に殴られたため全て動かす毎に痛みが走るが動いた。
視界の下の方が開けていたのでそちらに動いてみた。
「そうか・・・俺は今、寝ている状態なんだな・・・」
体を這わせて少し明るい方に出てみた。見たこともない所であったがモップやタワシやゴム手袋、洗剤が置いてあった。一道が頭を強打したのはシンクであったようだ。
「ここはトイレの用具入れか?」
壁を押してみると開いた。そこは、個室のトイレばかり並んでいた。
「小便器がない。ってここはまさか?」
外に出てみると、ドアに赤い人型マークが描かれていた。
「じょ、女子トイレじゃないか!中に誰もいなかったよな!何で俺はこんなところに?」
頭の中を整理してみる事にした。自分はどこで何をやっていたのか?どこから記憶か途切れているのか?それからここはどこなのか考えるのが現状把握に最も効率的であろう。
「病院に来て、病院の連中や病人達を倒しそれから、慶を・・・」
その時の感触はまだ右手に残っているからそれは悲しいことではあるが夢ではないだろう。
「それから歩き出した時、全身から一気に力が・・・そういえば・・・帯野は?」
周りにはそれらしい人はいない。
「帯野は気を失った俺を女子トイレの中に隠した・・・という所か・・・」
現在地は分からなかったが屋内の造りからここは病院の地下である事は分かった。
「ここにいても仕方ない・・・」
一道は歩き出した。前は広くなっているようであったし、病院内であれば歩いていれば病院内の地図を示した看板が設置されているだろうと思ったのだ。
「俺は一体、どれだけの時間、眠っていたんだろうか?」
地下にある人工の光は常に一定である。それは、時間の経過を感じさせない。数分なのかそれとも数時間なのかそれは体感的には分からない。ただ、傷の感覚、空腹の具合など体内的に考えてみるとそれほどの時間は経ってないように思える。
「全てが終わっていたりしてな・・・」
自嘲気味に言うが、それであっては困る。一道は歩いていって広くなった部屋を見て愕然とした。
「!?」
「ん?君は一道君と言ったかな?今頃、1人で来るなんてどうしたんだい?トイレにでも寄っていたのかな?」
その部屋にいたのは1人の30代ぐらいの男とうつ伏せで倒れている和子であった。
「あなたは・・・」
勇一郎の情報を思い出す。その人物の名は進藤 力也。男に興味がある世間で言うゲイと呼ばれる男らしい。その為か口調は柔らかく独特であった。
「安心しなよ。死んじゃいないよ。確かめたければ声をかけてみればいいんじゃない?」
ソウルドを発動させて、進藤をにらみつけながら和子にジリジリと近付く。
「そんな怖い顔しないでよ。私のことよりも彼女の方を介抱した方がいいんじゃないかな?私だって鬼じゃないから手を出すつもりはないよ」
一道は和子に近付き、声をかけた。
「おい・・・大丈・・・!?」
床は血が広がっていた。嫌な予感がして、彼女をゆっくりと引き起こしてみて一道は絶句した。
「ひ・・・」
『酷い』という言葉さえ出てこなかった。いや、あまりの酷さにそう言う事さえ躊躇わせたのかもしれなかった。一道は顔を顰め、唇をかんだ。
「私は、男女同権主義者だからね~。女であっても差別しないのよね」
遠くで何やら声がしたが一道は構っていなかった。
「武田君・・・生きていたんだ。いたたた・・・私、てっきり魂がおかしくなって死んだんじゃないかって・・・」
「どうして、1人で先に行ったんだ!俺が起きるまで待っていれば良いものを!」
「起そうとしたけど起きなかったんだもん・・・だから・・・」
「だからってよ・・・だからってよ・・・くぅ!」
和子は端整な顔立ちはまるで無く顔は倍ぐらいに膨れ上がり、歯も折れているような状態で、口元は血まみれ、同一人物であるかどうかさえも疑わしいほどの酷い顔であった。どれだけ顔だけを執拗に殴られたのかと考えると胸が張り裂けそうになった。
「いたたた・・・本当、待っていればよかったのかもね・・・」
「俺はお前とは比較にならないほど強いんだぞ・・・それを・・・」
言いかけてやめた。こんな状態になっている彼女を更に責めるような事を言うのは出来なかった。グッと言いたい気持ちを堪え、精一杯無理をして微笑を浮かべこういった。
「後は任せろ。全部、俺に任せろ」
「私は大丈夫・・・って言いたいところだけど、ダメそうね。そうする。後のことお願い」
口元が引きつって痙攣していただろう。それは一道自身、自覚していたがこれ以上どうする事も出来なかった。もし全てが終わったとして元の顔に戻るのは無理かもしれない。そう思うと自分の未熟さを呪うだけであった。
「元気さんから聞いても記憶がないから釈然としなかったけど、今の武田君を見ていると私にとって大事な人だった気が・・・するよ」
何もしてやれなかった自分に抗議するどころかその心を案じて励ましてくれる帯野に涙を流しそうになっていた。
「帯野・・・」
「そんな無理しなくていいのに。武田君は嘘をつ」
「あッ!!」
体が勝手に動いた。地面を強く蹴り、後方に下がる。離れていく和子が見える。彼女の体を支えていたような状態であったから支えを失った彼女は床に倒れていくのがスローモーションで見える。口元は動いておりまだ何か言っているようであった。それから彼女に光がバッと無数の粒状になって広がり突き抜けていった。その広がった光は一気に消えていった。
「な!避けた!?」
スローモーションからスピードが戻り、ガタッと勢い良く和子は倒れた。どうやら進藤がソウルフルを発射したのだろう。それは一道と和子を狙っていた。だが、一道は寸前の所で避けて、その勢いのまま転倒した。
「・・・」
一道は、立ち上がって黙って彼女に向かって手を伸ばしていた。霧状に溢れる和子の魂がその伸ばした手に触れた。それが一道の全身に広がり伝わっていった。
「どうしたの?立ち止まっちゃって・・・まだ完全に死んでいないかもしれないし、うまくやれば死ななくて済むかもしれないよ。ホラ・・・呆然としてないで・・・間に合わなくなるかもしれないよ」
一道はグッと拳を握り、立ち止まっていた。
「・・・」
「本当にあなたは今までどうしていたの?彼女がこうなるのを待っていたの?彼女はね。一人で私に戦うって言ったんだよ。弱いくせに身の程もわきまえずにね・・・だからこういう事になった。自業自得。救いようがないよね」
「・・・」
「あなたの事は聞いているよ。好きだったんだってね。彼女の事が・・・だったらずっと最後までいてあげればよかったのに・・・どうして一人でここにやってきたのか私には分からない。あ、彼女はあなたの想いの事は知らなかったんだっけ?それは不幸ねぇ~それにしてもあなたがここに来たと言う事は慶ちゃんはやられたんだね。きっとあなたが殺したんだろうけど・・・」
進藤は一方的に話し続けていた。一方の一道は対照的に黙って何も喋ろうとしなかった。
「・・・」
「どうしたの?悲しくないの?彼女、今、死んだんだよ。だったら今すぐに駆け寄って泣き叫ぶのが彼女の為じゃない?悲しいよ!生き返ってよってね!私なら耐えられないけどな。一人で死んでいるなんてさ。私なら私を好いてくれる人に抱かれたままでいたいな。そうだ。ひょっとしてキスなんかしてみたら息を吹き返すかもしれないよ。奇跡が起きてね」
一道は進藤から何を言われても黙り立ったまま彼女を見つめているだけであった。
「・・・」
「何か言って欲しいけど、放心状態なら仕方ないね。天国で一緒に・・・ん?何か言いたいの?」
和子を見ていた一道がようやく進藤の方を見た。
「あなたはさっき、自分は男女同権主義っておっしゃいましたよね?」
「そうだけど、事実でしょ?それがどうしたって言うの?」
「それ、嘘ですね」
「嘘じゃないよ。普通、男が女性をボコボコにするのは最低だって世間で言うけど、私にとっては関係ない。女であってもボッコボコにしてあげるんだよね。それが男女平等でしょ?」
「だから男女差別だって言うんです」
「だからってどこが?彼女を失って頭がおかしくなったんじゃない?」
「あなた、相手が男だったらここまでしましたか?」
「!!」
正鵠を射た指摘であった。進藤は反論する事が出来なかった。
進藤 力也は女を憎んでいた。彼の家庭は3人姉弟で2人の姉がいる。だから幼い頃は自分も男ではなく女だと3歳ぐらいの時まで思っていたぐらいである。だが、世間で生きていくうちに嫌でも自分が男であると認識させられる事になる。性別は気持ちの持ちようで決まるものであって肉体的なものではないと思っていた。股間に男性器がついていても神様の気まぐれかと思っていた。だからトイレだって平気で女性用を使っていた。子供だから特に不審に思われることもなかった。だが、子供同士裸を見ていればおかしい事に気付く。それから、その認識が決定的となったのは幼稚園の時に何になりたいという先生の問いに
「お姫様!」
と答えて、クラス全員から笑われた。帰ってから母親に自分の性別を聞いてみて
「何を言っているの?力也。おちんちん付いているでしょ。あなたは立派な男の子だよ」
背後から殴られたぐらいの衝撃を覚えた。それでも、自分が女の子であると認めたくなかったので女を意識するようになったが、幼稚園の女の子はそんな彼を気持ち悪いとからかった。それは表に出る事はない陰湿ないじめであった。陰口を叩いたり、仲間はずれにしたり、性別が違うだけでここまでされなければならないのかと進藤は悩み苦しんだ。
「心は同じ女じゃない!どうして私にここまで!」
心底、女を憎んでいった。それから、中学生ぐらいの時に好きな男の子が出来た。スポーツマンであり男らしい性格でありながらも優しい性格。女子から絶大な人気であった。相手もこちらの事をそれほど嫌悪していなかったのもあってより仲が良くなって行った。
中学生ぐらいになれば自分の性別を理解し、その後、どうなるのかも少しずつ分かっていく。しかし、若い情熱は理性さえも吹き飛ばす力を持っている。進藤は思い切って告白した。断られるかもしれない。嫌われるかもしれないという事は百も承知であったが自分の気持ちを伝えずにはいられなかった。
「それ、マ、マジか?」
「うん。僕の事、嫌いになった?」
「いや、今、物凄く驚いたけどよ。好かれて悪い気はしないよな。嬉しいよ」
「それじゃ?」
「急にくっつくって事は出来ないけど、今までと同じようにやっていくのはダメか?」
「ううん!全然良い!」
特におかしな関係ではない。ちょっと仲が良い男同士と言った所であり、肉体的関係等もない清らかな付き合いをしていた。それ以上の事は望まなかったし今のままで良いと思っていた。だが、暫くして残酷な事実が告げられる事となる。その相手がしきりにこちらとの接触を断るようになって来たのだ。一緒に帰ろうと言っても用があると言い、遊ぼうと言っても別の付き合いがあるからと・・・
何かがおかしいと察した進藤は相手に問い詰めてみた。すると・・・
「なんていって良いか分からないんだけどよ。お前には本当に悪いと思う」
「何?正直に言ってみてよ」
「じゃぁ・・・好きな女が出来たんだ。だからもうお前とあまり一緒にいられねぇんだよ」
「好きな・・・女・・・そ、それじゃぁ・・・しょうがないよね。ぼく、男だもんね。そりゃ女の子がいいよね」
「・・・。本当にゴメンな」
それで、最後に彼がボソッと口にした言葉が呪いのように頭に深く刻まれる事となった。
「何で、お前、女じゃないんだろうな」
自殺しかけた。でも、死ねず、それからはずっと自分の思いを隠すように生き続けてきた。
それでいて、女を憎んだ。自分を受け入れないような奴らなのにそれでいて平然と女をやっていける。この苦しみを味わい、自分を女にしなかった神様も恨んだ。
だが、彼に転機が訪れる事となる間 要との出会いである。彼に出会って、その年上なのに幼い瞳に取り込まれていった。彼自身も進藤を理解し、受け入れてくれた。彼を愛するほどであった。しかし、日本では戸籍上一生になれない現実。この排他的な世間にやりきれなさを抱いた。だが病院側の研究を使えば女性の体になることも進藤には可能だったかもしれないが進藤は断った。
「嫌いな女にはなりたくない」
と・・・
彼は女になりたいと願いながらも女性を極度に憎むというような矛盾する感情を抱きながらいき続けてきたのだ。それに対して悩み続けていた。今も悩んでいるのだ。
だから、傷ついた和子に寄り添う一道を見てソウルフルを発射したのだろう。自分が一生かかっても経験できないであろう男女の形を見たのだから・・・
「もう良いです。進藤さん、あなた、ここから立ち去ってください。立ちふさがるのであればあなたを斬ります。これは脅しではないですよ」
「去れだって?ふざけるなよぉぉぉぉ!」
進藤がソウルフルを撃つと一道は最小の動作で避けて進藤の方に向かう。と言っても、怪我の為か素早くは無く、進藤は弾を替えてもう一射した。
ドォゥ!
先ほどと同じようにソウルフルの弾が無数の粒となって広がる。武器として利用されるショットガンのようである。一道は接近しながら避ける。ショットガンの特性上、遠くに離れれば離れるほど拡散する為、銃口に近いほど攻撃範囲は狭い。一道は一瞬で理解していた。
外してしまった為に弾を替えようとしたが、焦って弾を落としてしまった。しかし、その次の動きは見事なものでそれほど焦らずソウルドを発動させ、一道に切りかかろうとした。だが、それすら一道はすり抜けた。そして、一道のソウルドが伸びてきた。
『やられる!?そんな!!』
先ほどの一道の言葉がハッタリではなかった事に後悔した。そして全てを諦めようとしたその時であった。
ビュオオオ!
「!?」
一道は一太刀入れようと言うところで身を引いた。
「危ねぇ!危ねぇ!進藤!そんな怪我人相手に何を手間取っているんだ!」
真後ろを振り返ると、勇一郎が戦うから残ると言った相手で藁木 吾朗がいた。その藁木がソウルフルを撃ち、一道を引き離したのであった。藁木の乱入がなければ進藤はやられていただろう。
「お前が持っているのは最新のショットソウルフルだろうが!ササッと片付けないか!」
ショットガンとソウルフルを合わせた造語だろう。
「いや、この少年はこの武器を1発で理解してしまったようで・・・」
「1発で仕留めないからだろうが!だが、俺が着いたからにはもう大丈夫だ」
敵が二人に増えた。傷ついた一道には非常に不利である。
「しかし、ここまで良くやってこられたものだ。普通はあの病人達の話を聞いたら同情して動けなくなるものだがな。と言う事は何も聞かずにここまできたのか?」
「聞きましたよ。あの人たちは自分達の事しか考えていなかった。だから倒したのです」
「ふぅん。ここまでやってきた武田君に私から提言がある」
「どのような?」
「もうやめたらどうだい?」
藁木はここに来て一道を説得してきた。どういう意図があるのか分からなかった。
「やめる?ここまでやってきた事をですか?」
「これ以上続けたところで無意味ではないか?上の連中はこういう言い方辛いと思うが全滅している可能性がある。間さんは強すぎるからな。今、君はひょっとしたら1人になっているかもしれない。そんな状態で更に自己満足を続けてどうする?仮に上手く言って全てを成し遂げたとして君は親友も片思いの相手もいない。何もかも空々しいだけだ。だったらそこまで苦労する必要は無いと思うのだが・・・やめるというのなら私が君を擁護してやってもいい。」
藁木の突然の申し出に藁木の腹の内を読もうとする。
「藁木さん!この少年は既に何十人と斬り殺しているんですよ!そんなの許せるわけないでしょう!私だってあなたがいなければ今、殺されていたのですよ!」
「俺に助けられたお前が意見するな。さぁ・・・良く考えてもらいたいものだね。武田君。私は別に仲間になれといっているのではない。手を引いてくれないかと頼んでいるわけだ」
「自己満足でもやり続けますよ。それがみんなの思いですから・・・それが俺の心に深くあります」
「ふぅん。なるほど・・・考え方を変えよう。今、自分の心の中って言ったね。だったらその彼らに直接尋ねてみてくれないかね?これより先にも沢山の敵は待ち構えている。今の君の状態では生き残れまい。そんな状況なのに自分達の思いの成就の為に続けて欲しいだとか君という少年にここで死んで欲しいと望むのか。私は違うと思うよ。ここで死ぬ事よりも生きて欲しいと思っているはずじゃないかい?私はそう思うよ。みんな、優しい友達なのだろう?君がここで死んだとした時、友達は1人残らずみんな一緒に死ねたって事を喜んでくれるのかい?私は違うと思う。きっと1人だけ生き延びたとしても彼らは君を決して恨みはしないと思うのだが・・・どう思うかい?」
とても藁木は真面目な顔をしてそのように言う。親身になっているという風に見えた。
「そうでしょうね。あなたのおっしゃる通り、みんな優しいから」
「では・・・」
「だが、それは出来ません」
「何故だ?それでも自分の意地を通すのか?」
「違います。彼らは許してくれると思います。けど、アイツは・・・他の誰よりも俺の事が分かる慶だけはその事を許してくれながらもこう言うでしょう」
「らしくねぇな・・・と」
「プッ」
聞いた藁木はビクッと震えた。
「それが理由か・・・残念だな。唯一の君が生き残る方法だったというのに・・・そうだ。何故、私がここまで来て田中 勇一郎さんがここに来ないか気にならないかい?」
先ほどの一道を思う表情が話しながらどんどん醜悪になっていく。
「あなたに殺されたのでしょう」
「正解。しかし興味がなさそうだな。そこまで至った経緯を知りたいもんじゃないかい?」
仲間が殺された事を平然と言う一道に内心驚いているようであった。確かに、そのような辛い事実は認めたくないものであるはずなのに一道は冷静であった。
「興味はありますよ。娘さんとどうなったのか・・・ですが、今、集中しなければならないのは・・・」
「じゃぁ、その娘との話も含めて教えてあげよう」
藁木という男はどうしても話したくて仕方ないようだ。だが、それは一道にとっても好都合だった。傷ついた体を少し休めるというのは非常に大きいところだ。
「アイツは完全な犬死。俺がこうして無傷でここに駆けつけている事からわかるように俺にダメージを負わすことが出来ず、足止めすることさえロクに出来なかったんだからな。そして何とも無様な死に様だった事か・・・五流は所詮、五流」
「ごりゅう?」
耳慣れない言葉に思わず鸚鵡返しに聞いた。
「一、二、三、四、五。その五の流。五流だ。そんな五流の馬鹿がこの俺に楯突く事自体が身の程知らずなんだよ。次元がまるで違うのだからな・・・フフフフ・・・」
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