私はその鳥に足環をつける
小さな細い足にキラキラ光る銀のリング
そして鳥は大空へ放たれる
陽の光にリングをきらめかせながら
鳥は一心不乱に
飛んでいくだろう
まだ見ぬ希望の地へ
いつか目指す地に辿りついた時
その鳥を見た者は気付くだろうか
見知らぬ土地で
見知らぬ誰かがつけたそのリングと
そこに込められた 密やかな祈り
いつかきっとこの地に還っておいで
私のこの . . . 本文を読む
移籍してからも雅博の芝居への情熱は変わらなかった。ただ、舞台以外の仕事が入るようになった。テレビのエキストラに毛の生えたような端役もあれば、テーマパークでのアトラクションでの小芝居なんていうのもあった。
「なんでも屋だね。」
雅博はそういって笑っていたが、決して満足している訳ではないのはわかっていた。舞台が好きなのだ。牧子にもそれが痛いほど伝わってきた。しかしなかなかチャンスはめぐってこなかっ . . . 本文を読む
それはあまりにも突然だった。写真誌に雅博の姿が載った。それも「熱愛デート発覚」などという見出しをでかでかつけられた。
相手は牧子ではなく、ベテランの女優だった。初秋の深夜の街を並んで歩く姿が見開きで載っていた。記事の主役は雅博ではなくむしろ相手の女優だ。雅博よりも芸能界では格上で、恋多き女として有名でもある。
こんな記事が世間に出るなんて夢にも考えた事はなかった。牧子は最初あっけにとられたが . . . 本文を読む
その日は全く何をする気にもならなかった。静まり返った家の中で、何をするでもなくベランダに出てみたり、物置状態のかつての自分の部屋にはいってみたり、本棚の中の埃臭い小説を引っ張り出してみたり、留守番の猫のようにうろうろしていた。そのうちに眠たくなり、母親のベッド(自分の布団は押入れの中だった)にもぐりこんだ。そういえば、昨夜はほとんど寝ていない。牧子はスイッチが切れたように眠り込んだ。夢も見なかっ . . . 本文を読む
翌朝少し早いめに牧子は家を出た。病院にたどり着くと母がちょうど手術室に向かう前だった。点滴をされながらストレッチャーに載せられた母を見ると、急に不安が増した。それを顔に出さないように明るい表情を作って、母に手を振った。
母が連れて行かれた後、年配の看護師に軽く肩をたたかれる。
「大丈夫よ、心配ないから。」
よほどわざとらしい笑顔だったのだろう。雅博のように役者にはとてもなれそうになかった。
. . . 本文を読む