丘を越えて~高遠響と申します~

ようおこし!まあ、あがんなはれ。仕事、趣味、子供、短編小説、なんでもありまっせ。好きなモン読んどくなはれ。

羽ばたく鳥   ①  ~脳内妄想劇場・第2弾~   

2005年11月09日 | 作り話
 私はその鳥に足環をつける  小さな細い足にキラキラ光る銀のリング  そして鳥は大空へ放たれる  陽の光にリングをきらめかせながら  鳥は一心不乱に  飛んでいくだろう  まだ見ぬ希望の地へ  いつか目指す地に辿りついた時  その鳥を見た者は気付くだろうか  見知らぬ土地で  見知らぬ誰かがつけたそのリングと  そこに込められた 密やかな祈り    いつかきっとこの地に還っておいで  私のこの . . . 本文を読む

羽ばたく鳥   ②

2005年11月09日 | 作り話
 移籍してからも雅博の芝居への情熱は変わらなかった。ただ、舞台以外の仕事が入るようになった。テレビのエキストラに毛の生えたような端役もあれば、テーマパークでのアトラクションでの小芝居なんていうのもあった。 「なんでも屋だね。」  雅博はそういって笑っていたが、決して満足している訳ではないのはわかっていた。舞台が好きなのだ。牧子にもそれが痛いほど伝わってきた。しかしなかなかチャンスはめぐってこなかっ . . . 本文を読む

羽ばたく鳥   ③

2005年11月09日 | 作り話
 それはあまりにも突然だった。写真誌に雅博の姿が載った。それも「熱愛デート発覚」などという見出しをでかでかつけられた。 相手は牧子ではなく、ベテランの女優だった。初秋の深夜の街を並んで歩く姿が見開きで載っていた。記事の主役は雅博ではなくむしろ相手の女優だ。雅博よりも芸能界では格上で、恋多き女として有名でもある。  こんな記事が世間に出るなんて夢にも考えた事はなかった。牧子は最初あっけにとられたが . . . 本文を読む

羽ばたく鳥   ④

2005年11月09日 | 作り話
 その日は全く何をする気にもならなかった。静まり返った家の中で、何をするでもなくベランダに出てみたり、物置状態のかつての自分の部屋にはいってみたり、本棚の中の埃臭い小説を引っ張り出してみたり、留守番の猫のようにうろうろしていた。そのうちに眠たくなり、母親のベッド(自分の布団は押入れの中だった)にもぐりこんだ。そういえば、昨夜はほとんど寝ていない。牧子はスイッチが切れたように眠り込んだ。夢も見なかっ . . . 本文を読む

羽ばたく鳥   ⑤

2005年11月09日 | 作り話
 翌朝少し早いめに牧子は家を出た。病院にたどり着くと母がちょうど手術室に向かう前だった。点滴をされながらストレッチャーに載せられた母を見ると、急に不安が増した。それを顔に出さないように明るい表情を作って、母に手を振った。 母が連れて行かれた後、年配の看護師に軽く肩をたたかれる。 「大丈夫よ、心配ないから。」  よほどわざとらしい笑顔だったのだろう。雅博のように役者にはとてもなれそうになかった。 . . . 本文を読む