◎飛行機 1 飛行の原理
★飛行機は「鉄のかたまり」ではない
○現代の旅客機はアルミ合金や複合素材を使って、できるだけ軽くて丈夫に作られている
・旅客機の胴体の外板は厚さ1~2mmのアルミ合金(ジュラルミン)が用いられている
・現代の旅客機の胴体は、骨組み(フレームや縦通材(ストリンガー))に外板を貼った「セミモノコック構造」で作られている
○ライト兄弟の「フライヤー号」は骨組構造で、機体にかかる荷重はすべて骨組が受け持つ
○「モノコック構造」は、第1次世界大戦頃の機体構造の主流で、骨組が使われず、機体にかかる荷重はすべて丸い外板が受け持つ
○「セミモノコック構造」は骨組構造と「モノコック構造」の両方の特徴を兼ね備えた構造で、機体にかかる荷重は外板と骨組みの両方で受け持つ
●なぜ揚力が発生するのか
○前方から入った空気を後方へ噴出することで発生する力を推力という
・推力は飛行機を前進させる力
○ジェット旅客機は、エンジンが排気ガスを後方へ噴出することで推力を得て前に進む
○ターボファン・エンジン
①前方から取り入れた空気はファンで加速され、圧縮機に入り圧縮される
②圧縮された空気は燃焼室に入る
③燃焼室でノズルから燃料を噴射して混合気体にし、点火プラグの電気火花で燃焼させ、高温高圧のガスを生む
④高温高圧のガスはタービンを回す
タービンは圧縮機やファンを作動させる
⑤タービンを通った排気ガスが後方へ噴出する
○揚力は飛行機の進行方向に直角に作用する力
○ベルヌイの定理
・ベルヌイの定理は、粘性を無視できる流線が時間的に変化しない定常な流れの場合、圧力エネルギー・運動エネルギー・位置エネルギーの和が一定であることを示す
・ベルヌイの定理によると、空気の流れの速度が大きくなると(すなわち運動エネルギーが大きくなると)圧力は小さくなる
★ベルヌイの定理による揚力発生の間違った説明(「通俗的説明」と呼ぶことにします)
①空気中を翼が運動すると、翼の先端の空気は翼の上面を通るものと、下面を通るものとにわかれる
②上下に分かれた気流は翼の後縁で合流する
③翼の上面はそっているので、上面に沿った気流の移動距離は下面に沿った気流の移動距離より長い
④したがって通過時間が同じなので、移動距離の長い上面の流れは下面の流れより速くなる
⑤ベルヌイの定理によって上面の圧力は小さくなり、下面の圧力は大きくなる
⑥この上下の圧力差から揚力が発生する
★「通俗的説明」のどこが間違っているか
◎「翼の先端で上下に分かれた空気の流れが翼の後縁で同時に合流する」という主張(「同時発着の原理」)は間違っている
◎風洞実験によれば、翼の上面を流れる空気は、翼の下面を流れる空気よりもはるかに早く翼の後縁につく(上面の流れは下面の流れより速い)
・上下の空気の流れは同時に合流しない
上面の流れが下面の流れより速くなるということ自体は間違っていない
ベルヌイの定理それ自体は間違っていない
○ゆえに、なぜ上面の流れが下面の流れより速くなるのかという説明が必要である
★揚力発生の別の説明(おもにデヴィッド・アンダーソン氏によります。「物理的説明」と呼ぶことにします)
①翼が前に進むと空気が下向きに曲げられて、後方に吹き下ろされる
②翼が空気を押し下げる力の空気の反作用で上向きの力(揚力)が発生する
すなわち、翼が空気の流れの向きを下向きに曲げることによって揚力が発生する
◎揚力発生の「通俗的説明」は欠点があるが、それでは揚力発生の「物理的説明」は完璧といえるのだろうか
○空気には粘性がある
○粘性を含む実際の流体の運動をきわめて精確に近似している方程式が「ナヴィエ-ストークス方程式」である
○「ナヴィエ-ストークス方程式」で粘性が0の場合(完全流体)は「オイラー方程式」と呼ばれる
○オイラー方程式からベルヌイの定理が導き出される
★ナヴィエ-ストークス方程式
○ナヴィエ-ストークス方程式は、一般には5個の偏微分方程式からなる連立偏微分方程式である
○「縮まない」流体の場合で、いつの時点でも流体の密度が空間全体で一定であると仮定した場合のナヴィエ-ストークス方程式についての問題が「ミレニアム賞問題」の1つになっている
★ミレニアム賞問題
・2005年5月、パリで開かれたクレイ数学研究所の集会で、7つの未解決問題が「ミレニアム賞」問題として発表された
・1問につき賞金100万ドルがかけられた
・その中には、「ポアンカレ予想」や「リーマン仮説(予想)」が入っている
○ナヴィエ-ストークス方程式が難しいのは、第1に「非線形」の方程式であること
非線形の微分方程式を解くことは難しい
・物理で出てくる基本的な微分方程式は、「線形」であることが多い
・微分方程式が「線形」であれば、たとえば2つの解がわかっていたら、それを足し合わせて無数の解を作り出せる
・知られている解から新しい解を作り出すことを「重ねあわせの原理」と呼ぶ
・微分方程式が「線形」であれば「重ねあわせの原理」により無数の解を作り出せるが、「非線形」の微分方程式においては「重ねあわせの原理」が成り立たない
◎現実の流体の運動は「粘性」を無視できないが、「粘性」を取り込んだナヴィエ-ストークス方程式を解くのは困難である
○ベルヌイの定理は「粘性」を考慮していない
○現実の流体の運動は複雑で、未解明の部分も多い
◎なぜ揚力が発生するのかという問題は完全に解明されているのか疑問は残ります
★揚力と推力
◎揚力には推力が必要である
○飛行機が上昇や下降する場合、揚力を大きくして上昇しているのではなく、推力を大きくして上昇している
また、揚力を小さくするのではなく、推力を小さくして下降している
★失速
・飛行機が急激に速度を失うことを「失速」という
・気流が翼の上面にそって流れなくなり剥がれていく(剥離)状態をいう
気流が剥離すると揚力が減少する
・迎え角(翼弦線(翼の前縁と後縁を結んだ線)が空気の流れとなす角度)
・迎え角を大きくしていくと揚力は大きくなる
・ある迎え角(「臨界迎え角」)で最大揚力となり、それ以上迎え角を上げると、気流が剥離し、揚力が減少し失速状態になる
○失速からの回復
・ある程度の高度があれば、適切な回復操作をすれば回復するように設計されている
・パイロットは、機首を水平姿勢より少し下に向け、エンジン出力を増して速度をつけ失速から回復させる
★エンジンがすべて停止したら?
・エンジンがすべて停止しても、そのまま真っ逆さまに落ちることはない
・グライダーのように滑空して、斜めに下降するかたちで飛ぶことはできる
(推力がなくなるから、上昇やそのまま真っすぐ飛び続けることはできない)
飛行機はこの「滑空性能」を持っている
・エンジンが停止した飛行機は、高度の10倍くらいの距離は飛べる
○「ETOPS180ルール」を適用したフライト中にエンジンが故障した場合は、180分以内に最寄りの空港に着陸しなければならない
★鳥にはかなわない
○鳥は翼の迎え角を左右別々に、根元から先端まで異なる角度で微妙に調整し、翼の形状も自在にコントロールし、自由自在に空を飛べる
◎飛行機はいまだに鳥にかなうような翼を持っていない
飛行機はまだまだ進化する余地がある
★飛行機は「鉄のかたまり」ではない
○現代の旅客機はアルミ合金や複合素材を使って、できるだけ軽くて丈夫に作られている
・旅客機の胴体の外板は厚さ1~2mmのアルミ合金(ジュラルミン)が用いられている
・現代の旅客機の胴体は、骨組み(フレームや縦通材(ストリンガー))に外板を貼った「セミモノコック構造」で作られている
○ライト兄弟の「フライヤー号」は骨組構造で、機体にかかる荷重はすべて骨組が受け持つ
○「モノコック構造」は、第1次世界大戦頃の機体構造の主流で、骨組が使われず、機体にかかる荷重はすべて丸い外板が受け持つ
○「セミモノコック構造」は骨組構造と「モノコック構造」の両方の特徴を兼ね備えた構造で、機体にかかる荷重は外板と骨組みの両方で受け持つ
●なぜ揚力が発生するのか
○前方から入った空気を後方へ噴出することで発生する力を推力という
・推力は飛行機を前進させる力
○ジェット旅客機は、エンジンが排気ガスを後方へ噴出することで推力を得て前に進む
○ターボファン・エンジン
①前方から取り入れた空気はファンで加速され、圧縮機に入り圧縮される
②圧縮された空気は燃焼室に入る
③燃焼室でノズルから燃料を噴射して混合気体にし、点火プラグの電気火花で燃焼させ、高温高圧のガスを生む
④高温高圧のガスはタービンを回す
タービンは圧縮機やファンを作動させる
⑤タービンを通った排気ガスが後方へ噴出する
○揚力は飛行機の進行方向に直角に作用する力
○ベルヌイの定理
・ベルヌイの定理は、粘性を無視できる流線が時間的に変化しない定常な流れの場合、圧力エネルギー・運動エネルギー・位置エネルギーの和が一定であることを示す
・ベルヌイの定理によると、空気の流れの速度が大きくなると(すなわち運動エネルギーが大きくなると)圧力は小さくなる
★ベルヌイの定理による揚力発生の間違った説明(「通俗的説明」と呼ぶことにします)
①空気中を翼が運動すると、翼の先端の空気は翼の上面を通るものと、下面を通るものとにわかれる
②上下に分かれた気流は翼の後縁で合流する
③翼の上面はそっているので、上面に沿った気流の移動距離は下面に沿った気流の移動距離より長い
④したがって通過時間が同じなので、移動距離の長い上面の流れは下面の流れより速くなる
⑤ベルヌイの定理によって上面の圧力は小さくなり、下面の圧力は大きくなる
⑥この上下の圧力差から揚力が発生する
★「通俗的説明」のどこが間違っているか
◎「翼の先端で上下に分かれた空気の流れが翼の後縁で同時に合流する」という主張(「同時発着の原理」)は間違っている
◎風洞実験によれば、翼の上面を流れる空気は、翼の下面を流れる空気よりもはるかに早く翼の後縁につく(上面の流れは下面の流れより速い)
・上下の空気の流れは同時に合流しない
上面の流れが下面の流れより速くなるということ自体は間違っていない
ベルヌイの定理それ自体は間違っていない
○ゆえに、なぜ上面の流れが下面の流れより速くなるのかという説明が必要である
★揚力発生の別の説明(おもにデヴィッド・アンダーソン氏によります。「物理的説明」と呼ぶことにします)
①翼が前に進むと空気が下向きに曲げられて、後方に吹き下ろされる
②翼が空気を押し下げる力の空気の反作用で上向きの力(揚力)が発生する
すなわち、翼が空気の流れの向きを下向きに曲げることによって揚力が発生する
◎揚力発生の「通俗的説明」は欠点があるが、それでは揚力発生の「物理的説明」は完璧といえるのだろうか
○空気には粘性がある
○粘性を含む実際の流体の運動をきわめて精確に近似している方程式が「ナヴィエ-ストークス方程式」である
○「ナヴィエ-ストークス方程式」で粘性が0の場合(完全流体)は「オイラー方程式」と呼ばれる
○オイラー方程式からベルヌイの定理が導き出される
★ナヴィエ-ストークス方程式
○ナヴィエ-ストークス方程式は、一般には5個の偏微分方程式からなる連立偏微分方程式である
○「縮まない」流体の場合で、いつの時点でも流体の密度が空間全体で一定であると仮定した場合のナヴィエ-ストークス方程式についての問題が「ミレニアム賞問題」の1つになっている
★ミレニアム賞問題
・2005年5月、パリで開かれたクレイ数学研究所の集会で、7つの未解決問題が「ミレニアム賞」問題として発表された
・1問につき賞金100万ドルがかけられた
・その中には、「ポアンカレ予想」や「リーマン仮説(予想)」が入っている
○ナヴィエ-ストークス方程式が難しいのは、第1に「非線形」の方程式であること
非線形の微分方程式を解くことは難しい
・物理で出てくる基本的な微分方程式は、「線形」であることが多い
・微分方程式が「線形」であれば、たとえば2つの解がわかっていたら、それを足し合わせて無数の解を作り出せる
・知られている解から新しい解を作り出すことを「重ねあわせの原理」と呼ぶ
・微分方程式が「線形」であれば「重ねあわせの原理」により無数の解を作り出せるが、「非線形」の微分方程式においては「重ねあわせの原理」が成り立たない
◎現実の流体の運動は「粘性」を無視できないが、「粘性」を取り込んだナヴィエ-ストークス方程式を解くのは困難である
○ベルヌイの定理は「粘性」を考慮していない
○現実の流体の運動は複雑で、未解明の部分も多い
◎なぜ揚力が発生するのかという問題は完全に解明されているのか疑問は残ります
★揚力と推力
◎揚力には推力が必要である
○飛行機が上昇や下降する場合、揚力を大きくして上昇しているのではなく、推力を大きくして上昇している
また、揚力を小さくするのではなく、推力を小さくして下降している
★失速
・飛行機が急激に速度を失うことを「失速」という
・気流が翼の上面にそって流れなくなり剥がれていく(剥離)状態をいう
気流が剥離すると揚力が減少する
・迎え角(翼弦線(翼の前縁と後縁を結んだ線)が空気の流れとなす角度)
・迎え角を大きくしていくと揚力は大きくなる
・ある迎え角(「臨界迎え角」)で最大揚力となり、それ以上迎え角を上げると、気流が剥離し、揚力が減少し失速状態になる
○失速からの回復
・ある程度の高度があれば、適切な回復操作をすれば回復するように設計されている
・パイロットは、機首を水平姿勢より少し下に向け、エンジン出力を増して速度をつけ失速から回復させる
★エンジンがすべて停止したら?
・エンジンがすべて停止しても、そのまま真っ逆さまに落ちることはない
・グライダーのように滑空して、斜めに下降するかたちで飛ぶことはできる
(推力がなくなるから、上昇やそのまま真っすぐ飛び続けることはできない)
飛行機はこの「滑空性能」を持っている
・エンジンが停止した飛行機は、高度の10倍くらいの距離は飛べる
○「ETOPS180ルール」を適用したフライト中にエンジンが故障した場合は、180分以内に最寄りの空港に着陸しなければならない
★鳥にはかなわない
○鳥は翼の迎え角を左右別々に、根元から先端まで異なる角度で微妙に調整し、翼の形状も自在にコントロールし、自由自在に空を飛べる
◎飛行機はいまだに鳥にかなうような翼を持っていない
飛行機はまだまだ進化する余地がある