◎ギリシャ神話 17 オリュンポス12神 4
★オリュンポス12神
・ゼウス
・ヘラ
・ヘパイストス(ゼウスとヘラとの子)
・アレス(ゼウスとヘラとの子)
・ポセイドン
・デメテル
・ヘスティア
・アプロディテ
・アテナ(ゼウスとメティスとの子)
・アポロン(ゼウスとレトとの子)
・アルテミス(ゼウスとレトとの子)
・ヘルメス(ゼウスとマイアとの子)
・ディオニュソス(ゼウスと人間セメレとの子)
◎デメテル(ローマ神話ではケレス 英語名セリーズ)
・豊穣の女神
・穀物および大地の生産物の女神
・エジプトの女神イシスとも同一視された
・ゼウスとの間に娘ペルセポネ(ローマ神話ではプロセルピナ)をもうける
・ペルセポネはコレー(「乙女」「娘」)とも呼ばれる
○デメテル崇拝の中心地はアテナイの北西海岸にあるアッティケー州エレウシスで、デメテルの神殿があった
★冥界の王ハデスによるペルセポネの掠奪と帰還の物語
・ある日ペルセポネはオケアノスの娘たちと、薔薇とサフランと美しいすみれの花を摘みながら、柔らかな草原で戯れていた
ペルセポネはひときわ輝いている見事な水仙の花(ナルキッソス)に驚嘆して、両手を伸ばしてつかもうとした
すると突然大地に裂け目ができて、馬を御したハデスが姿をあらわした
そしていやがる少女をとらえ、黄金の馬車にのせて冥界へ連れさった
母親のデメテルは、娘をたずねて9日にわたり松明を手に持って大地をさまよい歩いた
アンブロシアも食べずネクタルも飲まず、水を浴びることもなかった
10日目になって、太陽神ヘリオスに出会い、誰が娘を連れ去ってしまったのかたずねた
ヘリオスは「娘を父方の叔父の若妻にしてよいと、ゼウスが許したからこそ、ハデスは、大声あげて泣く娘をさらい、馬を駆って暗く霞む冥界へと連れてゆくことができたのです。……」と答えた
デメテルはゼウスもこの誘拐に加担していたことを知ると、ゼウスに腹をたてオリュンポスを去り老婆に身をやつして、人間の住む街と畑を永いあいだめぐり歩いた
ついにデメテルはエレウシスの領主ケレオスの館を訪れることになった
デメテルは道のかたわらにあるパルテニオンの井戸のそばに老婆の姿で座りこんだ
そこにケレオスの娘たちが来て、老婆を目にとめた
湧き出る水を青銅の水差しに汲み、父の館に運ぼうとして、4人そろってやってきたのである。
娘たちはもとより女神と知る由もなかったが、どこのどなたなのですかと老婆に声をかけた
デメテルは偽りの身の上話をして、どこの屋敷を訪ねていけばよいのでしょう。年寄り女にふさわしい仕事を果たしましょう。乳母の役目も、家中の監督も務め、主人の床をととのえ、女たちに仕事を教えもしましょう、と言った
娘たちは母にきいてくるから、ここで待っていて下さいと言って家に帰っていった
こうして、娘たちが戻ってくると、デメテルを父の館へと連れていった
ケレオスの館の広間の柱のかたわらには、娘たちの母親メタネイラが幼い息子デーモポーンを懐に包んで座っていた
女神デメテルは、永いあいだ、口もきかずに、痛む心を抱いて椅子に座っていた
何ごとも口からも発することはなく、笑いもせず、食べ物も飲み物もとらず、娘を恋しがり、座っていた
とうとう、召使のイアンベーがふざけた言葉を女神にあびせると、はじめて女神はほほえみ笑い、心をなごませた
メタネイラは葡萄酒を女神に与えたが、赤く燃える葡萄酒は飲んではならないものだからとことわった
かわりにキュケオーン(ひき割り大麦と水にはっか草を混ぜた飲み物)をつくらせてそれを飲みほした
そこでメタネイラは「どうか私のこの子(デーモポーン)を育てて下さい」とデメテルに頼んだ
女神は「お育ていたしましょう」と香たちこめる懐と不死なる腕の中に子を抱きとった
デメテルは神から産まれた子ででもあるかのように、アンブロシア(ここでは神々の食べ物ではなく香油)を肌にすりこみ、あまい息を吹きかけて、懐に抱いていた
夜は、デーモポーンを火の中に埋めた
体の死すべき部分を焼いて、不老不死の身にしようとしたからである
こうして女神は、ついにはこの子を不老不死の身と化しおおせるはずだった
ところが愚かにもメタネイラはある晩、女神の所業を見てしまい悲鳴をあげた
デメテルはデーモポーンを火の中から抱きあげると、地面においた
そしてメタネイラにむかって話しかけた
「お前の息子を永久に不老不死なる身と化し、けっして朽ちぬ誉れを授けようとしていたのだ
こうなっては、もはや死と滅びを避けるすべはない
だが、我が膝に乗り、我が腕の中でまどろんだからには、けっして朽ちぬ誉れは彼のものとなるだろう
私こそは誉れ高いデーメーテール、不死なる神々にも死すべき人間にも、このうえない助けとなり、喜びを与える神である
私のために神殿と祭壇を、アクロポリスのそびえたつ壁の麓、カッリコロンの泉を臨む小高い丘の上に造りなさい
祭儀の式は私みずから教えてやろう」
と言うと、女神は老いの皮を脱ぎ捨て、まことの女神の姿をあらわした
あたり一面に美しさが湧きあがり、香にけむる衣は心とろかす匂いをまきちらし、不死なる女神の肌は遠く光を輝かし、黄金なす髪が両肩を包んでいた
そして女神は広間から出ていった
デメテルは大地の上に、人間にとってこのうえなく忌まわしくも辛い1年をつくりだした
デメテルが隠してしまったため、いかなる種子も大地から芽を出さなかった
こうして人間はことごとく飢えに滅ぼされ、オリュンポスの神々も人間が捧げる贈り物と供犠を失ってしまったことだろうが、ゼウスが気づき、神々のもとへ来るよう、金色の翼をもつ虹の女神イーリスをつかわしたが、デメテルは聞きいれようとはしなかった
ゼウスは次々と神々をつかわしたが、我が子をこの眼で見るまでは、と誰も女神の怒りを解くことはできなかった
ゼウスはついに折れて、ヘルメスを冥界へ送り、ハデスを説きふせて、ペルセポネを神々のもとに連れ戻し、母デメテルの眼にふれさせて、怒りを鎮めようとした
ハデスはゼウスの命令を聞きいれて、母神のもとに行くようペルセポネに言った
喜ぶペルセポネに、ハデスはそっと甘いざくろの種を食べさせた
母神は、冥界で何も食べ物を食べていなければ、ずっと私たちのもとで暮らせるだろう
しかしもし食べ物を食べたとすればまた冥界に戻っていかなければならない、と言った
ゼウスは、ペルセポネに、1年の3分の1は冥界で暮らさなければならないが、残りの3分の2は母神や他の神々とともに暮らしてよいと認めた
◎以上の物語は、ほぼ『デーメーテールへの讃歌』(『ホメーロス讃歌』の第2番)(「四つのギリシャ神話」、岩波文庫)と「ギリシア神話(上)」(呉 茂一 著、新潮文庫)によっています
★『ホメーロス讃歌』は「ホメロス」の名がついているが、「ホメロス」作ということではなく、「四つのギリシャ神話」の解説文によれば、おそらく叙事詩を吟ずる職業的な吟誦者の誰かによって作られたものであろう
★「ホメロス」は有名な詩人であるが、「ホメロス」がどんな人物で、出身地はどこか、いつ詩作したのかなど、「ホメロス」自身については確かな伝承がなく、ほとんど不明である
★ペルセポネの死と再生は、穀物の種子の死と再生を象徴している
穀物の種子は、播かれて地下にあり、芽生えて地上に出る
◎ペルセポネが冥界に姿を隠す1年の3分の1の期間は冬の4か月を指すという解釈は、アッティカ地方の農耕事情とはくいちがう
冬は不毛ではなく、5月に刈り取り、6月に脱穀された麦は、10月の種蒔までの4か月間を地下の貯蔵庫に蓄えられる
その間、畑は枯れ果てる
こうして農耕事情からみれば、ペルセポネが姿を隠す4か月とは脱穀から種蒔までの夏の時季に相当する(「四つのギリシャ神話」の解説より)
★オリュンポス12神
・ゼウス
・ヘラ
・ヘパイストス(ゼウスとヘラとの子)
・アレス(ゼウスとヘラとの子)
・ポセイドン
・デメテル
・ヘスティア
・アプロディテ
・アテナ(ゼウスとメティスとの子)
・アポロン(ゼウスとレトとの子)
・アルテミス(ゼウスとレトとの子)
・ヘルメス(ゼウスとマイアとの子)
・ディオニュソス(ゼウスと人間セメレとの子)
◎デメテル(ローマ神話ではケレス 英語名セリーズ)
・豊穣の女神
・穀物および大地の生産物の女神
・エジプトの女神イシスとも同一視された
・ゼウスとの間に娘ペルセポネ(ローマ神話ではプロセルピナ)をもうける
・ペルセポネはコレー(「乙女」「娘」)とも呼ばれる
○デメテル崇拝の中心地はアテナイの北西海岸にあるアッティケー州エレウシスで、デメテルの神殿があった
★冥界の王ハデスによるペルセポネの掠奪と帰還の物語
・ある日ペルセポネはオケアノスの娘たちと、薔薇とサフランと美しいすみれの花を摘みながら、柔らかな草原で戯れていた
ペルセポネはひときわ輝いている見事な水仙の花(ナルキッソス)に驚嘆して、両手を伸ばしてつかもうとした
すると突然大地に裂け目ができて、馬を御したハデスが姿をあらわした
そしていやがる少女をとらえ、黄金の馬車にのせて冥界へ連れさった
母親のデメテルは、娘をたずねて9日にわたり松明を手に持って大地をさまよい歩いた
アンブロシアも食べずネクタルも飲まず、水を浴びることもなかった
10日目になって、太陽神ヘリオスに出会い、誰が娘を連れ去ってしまったのかたずねた
ヘリオスは「娘を父方の叔父の若妻にしてよいと、ゼウスが許したからこそ、ハデスは、大声あげて泣く娘をさらい、馬を駆って暗く霞む冥界へと連れてゆくことができたのです。……」と答えた
デメテルはゼウスもこの誘拐に加担していたことを知ると、ゼウスに腹をたてオリュンポスを去り老婆に身をやつして、人間の住む街と畑を永いあいだめぐり歩いた
ついにデメテルはエレウシスの領主ケレオスの館を訪れることになった
デメテルは道のかたわらにあるパルテニオンの井戸のそばに老婆の姿で座りこんだ
そこにケレオスの娘たちが来て、老婆を目にとめた
湧き出る水を青銅の水差しに汲み、父の館に運ぼうとして、4人そろってやってきたのである。
娘たちはもとより女神と知る由もなかったが、どこのどなたなのですかと老婆に声をかけた
デメテルは偽りの身の上話をして、どこの屋敷を訪ねていけばよいのでしょう。年寄り女にふさわしい仕事を果たしましょう。乳母の役目も、家中の監督も務め、主人の床をととのえ、女たちに仕事を教えもしましょう、と言った
娘たちは母にきいてくるから、ここで待っていて下さいと言って家に帰っていった
こうして、娘たちが戻ってくると、デメテルを父の館へと連れていった
ケレオスの館の広間の柱のかたわらには、娘たちの母親メタネイラが幼い息子デーモポーンを懐に包んで座っていた
女神デメテルは、永いあいだ、口もきかずに、痛む心を抱いて椅子に座っていた
何ごとも口からも発することはなく、笑いもせず、食べ物も飲み物もとらず、娘を恋しがり、座っていた
とうとう、召使のイアンベーがふざけた言葉を女神にあびせると、はじめて女神はほほえみ笑い、心をなごませた
メタネイラは葡萄酒を女神に与えたが、赤く燃える葡萄酒は飲んではならないものだからとことわった
かわりにキュケオーン(ひき割り大麦と水にはっか草を混ぜた飲み物)をつくらせてそれを飲みほした
そこでメタネイラは「どうか私のこの子(デーモポーン)を育てて下さい」とデメテルに頼んだ
女神は「お育ていたしましょう」と香たちこめる懐と不死なる腕の中に子を抱きとった
デメテルは神から産まれた子ででもあるかのように、アンブロシア(ここでは神々の食べ物ではなく香油)を肌にすりこみ、あまい息を吹きかけて、懐に抱いていた
夜は、デーモポーンを火の中に埋めた
体の死すべき部分を焼いて、不老不死の身にしようとしたからである
こうして女神は、ついにはこの子を不老不死の身と化しおおせるはずだった
ところが愚かにもメタネイラはある晩、女神の所業を見てしまい悲鳴をあげた
デメテルはデーモポーンを火の中から抱きあげると、地面においた
そしてメタネイラにむかって話しかけた
「お前の息子を永久に不老不死なる身と化し、けっして朽ちぬ誉れを授けようとしていたのだ
こうなっては、もはや死と滅びを避けるすべはない
だが、我が膝に乗り、我が腕の中でまどろんだからには、けっして朽ちぬ誉れは彼のものとなるだろう
私こそは誉れ高いデーメーテール、不死なる神々にも死すべき人間にも、このうえない助けとなり、喜びを与える神である
私のために神殿と祭壇を、アクロポリスのそびえたつ壁の麓、カッリコロンの泉を臨む小高い丘の上に造りなさい
祭儀の式は私みずから教えてやろう」
と言うと、女神は老いの皮を脱ぎ捨て、まことの女神の姿をあらわした
あたり一面に美しさが湧きあがり、香にけむる衣は心とろかす匂いをまきちらし、不死なる女神の肌は遠く光を輝かし、黄金なす髪が両肩を包んでいた
そして女神は広間から出ていった
デメテルは大地の上に、人間にとってこのうえなく忌まわしくも辛い1年をつくりだした
デメテルが隠してしまったため、いかなる種子も大地から芽を出さなかった
こうして人間はことごとく飢えに滅ぼされ、オリュンポスの神々も人間が捧げる贈り物と供犠を失ってしまったことだろうが、ゼウスが気づき、神々のもとへ来るよう、金色の翼をもつ虹の女神イーリスをつかわしたが、デメテルは聞きいれようとはしなかった
ゼウスは次々と神々をつかわしたが、我が子をこの眼で見るまでは、と誰も女神の怒りを解くことはできなかった
ゼウスはついに折れて、ヘルメスを冥界へ送り、ハデスを説きふせて、ペルセポネを神々のもとに連れ戻し、母デメテルの眼にふれさせて、怒りを鎮めようとした
ハデスはゼウスの命令を聞きいれて、母神のもとに行くようペルセポネに言った
喜ぶペルセポネに、ハデスはそっと甘いざくろの種を食べさせた
母神は、冥界で何も食べ物を食べていなければ、ずっと私たちのもとで暮らせるだろう
しかしもし食べ物を食べたとすればまた冥界に戻っていかなければならない、と言った
ゼウスは、ペルセポネに、1年の3分の1は冥界で暮らさなければならないが、残りの3分の2は母神や他の神々とともに暮らしてよいと認めた
◎以上の物語は、ほぼ『デーメーテールへの讃歌』(『ホメーロス讃歌』の第2番)(「四つのギリシャ神話」、岩波文庫)と「ギリシア神話(上)」(呉 茂一 著、新潮文庫)によっています
★『ホメーロス讃歌』は「ホメロス」の名がついているが、「ホメロス」作ということではなく、「四つのギリシャ神話」の解説文によれば、おそらく叙事詩を吟ずる職業的な吟誦者の誰かによって作られたものであろう
★「ホメロス」は有名な詩人であるが、「ホメロス」がどんな人物で、出身地はどこか、いつ詩作したのかなど、「ホメロス」自身については確かな伝承がなく、ほとんど不明である
★ペルセポネの死と再生は、穀物の種子の死と再生を象徴している
穀物の種子は、播かれて地下にあり、芽生えて地上に出る
◎ペルセポネが冥界に姿を隠す1年の3分の1の期間は冬の4か月を指すという解釈は、アッティカ地方の農耕事情とはくいちがう
冬は不毛ではなく、5月に刈り取り、6月に脱穀された麦は、10月の種蒔までの4か月間を地下の貯蔵庫に蓄えられる
その間、畑は枯れ果てる
こうして農耕事情からみれば、ペルセポネが姿を隠す4か月とは脱穀から種蒔までの夏の時季に相当する(「四つのギリシャ神話」の解説より)