◎ギリシャ神話 30 人間の5世代説
★ギリシャ神話では、人類の起源について定説はない
○1番古い考え方は、人類は自然に神々と同じく大地から生まれたというもの
○ヘシオドスの「仕事と日々」によると、人間をつくったのはオリュンポスの神々ということになっている
★5時代の説話(ヘシオドス「仕事と日」 岩波文庫より)
神々も人間も、その起りは1つであったという物語じゃ
オリュンポスの館に住まう神々は、
最初に人間の黄金の種族を作りなされた
これはクロノスがまだ天上に君臨しておられた
クロノスの時代の人間たちで、
心に悩みもなく、労苦も悲歎も知らず、神々と異なることなく暮しておった
惨めな老年も訪れることなく、手足はいつまでも衰えず、
あらゆる災厄を免れて、宴楽に耽っていた
死ぬ時はさながら眠るがごとく、
あらゆる善きものに恵まれ、
豊沃な耕地はひとりでに、溢れるほどの豊かな稔りをもたらし、
人は幸せに満ち足りて
心豊かに、気の向くにまかせて田畑の世話をしておった
(略)
さてオリュンポスに住まいたもう神々は、この種族の絶えた後に、
今度は第二の種族、先のものには遥かに劣る銀の種族をお作りなされたが、
これは姿も心も、黄金の種族とは似もつかぬものであった
子供は百年の間、まったくの頑是ない幼な子のままで家の内に戯れつつ、
優しく気づかう母の膝もとで育てられた
しかしやがて成長を始めて成年に達するや、
おのれの無分別のゆえに、さまざまな禍いをこうむって、短い生涯を終える
互いに無法な暴力を抑えることができず、
不死なる神々を崇めることも、人間にはその住む所に従って守るべき掟である、
神々の聖なる祭壇に生贄を捧げることもしようとはしなかったのだ
さればクロノスの御子ゼウスは、彼らがオリュンポスに住まいます至福の神々に
しかるべき敬意を払わぬのを怒って、この種族を消しておしまいになった
(略)
ついでゼウスは人間の第三の種族、
青銅の種族をお作りになったが、これは銀の種族にはまったく似ておらず、
とねりこの樹から生じたもので、怖るべくかつ力も強く、
悲惨なるアレースの業(戦い)と暴力をこととする種族であった
穀物は口にせず、その心は鋼(はがね)のごとく硬く苛酷で、
傍らに近寄ることもできぬ
その力はあくまで強く、
強靭な肢体には、無敵の強腕が両肩から生えている
扱う武器は青銅製、その住む家も青銅製で、
青銅の農具を用いて田畑を耕す
黒き鉄は未だなかった
彼らは互いに討ちあってたおれ、身も凍る冥王(ハデス)の
かび臭い館へ、名を残すこともなく降(くだ)っていった
(略)
しかるに大地がこの種族をも蔽った後、
クロノスの御子ゼウスは、またも第四の種族を、
豊穣の大地の上にお作りなされた
先代よりも正しくかつ優れた
英雄たちの高貴なる種族で、半神と呼ばれるもの、
広大な地上にあってわれらの世代に先立つ種族であったのじゃ
しかし、この種族も忌わしき戦(いくさ)と怖るべき闘いとによって滅び去った
(略)
さてゼウスは、またも人間の別の種族をお作りなされた
いま生れ住む人間がそれじゃ
(略)
今の世はすなわち鉄の種族の代なのじゃ
昼も夜も労役と苦悩に苛まれ、そのやむ時はないであろうし、
神々は苛酷な心労の種を与えられるであろう、
さまざまな禍いに混って、なにがしかの善きこともあるではあろうが
しかしゼウスはこの人間の種族をも、
子が生れながらにして、こめかみに白髪を生ずるに至れば直ちに滅ぼされるであろう
○すなわち
1 黄金の種族
2 銀の種族
3 青銅の種族
4 英雄たちの種族
5 鉄の種族
★4つの時代(変身物語(上) 岩波文庫より)
黄金の時代が最初に生じたが、そこでは、懲罰者もいず、法律もなしに、おのずから信実と正義が守られていた(中略)
きり立った堀が、都市を囲むこともまだなく、銅でつくられたまっすぐな喇叭(らっぱ)も、角のように曲がった号笛もなく、兜も、剣もなかった。兵士は不要であり、いずこの民も、安全無事に、おだやかで気楽な日々を送っていた
大地そのものも、ひとに仕える義務はなく、鍬で汚されたり、鋤の刃で傷つけられたりすることなしに、おのずから、必要なすべてを与えていた。ひとびとは、ひとりでにできる食べ物に満足して、(中略)
常春の季節がつづくのだった(中略)
サトゥルヌス(クロノス)が奈落の底へ送られ、世界がユピテル(ゼウス)の支配下に服したとき、銀の時代がやって来た
これは、黄金の時代よりは劣っていたが、黄褐色の銅の時代よりは価値がまさっていた
ゼウスは、かつての春の期間を縮め、冬と夏、不順な秋と短い春という4つの季節で1年が終わるようにした(中略)
家に住むことがおこなわれたのも、この時が始めてだった。もっとも、家というのは、洞穴であり、密生した茂みであり、樹皮でつなぎ合わされた小枝であった(中略)
このあと、3番目に、銅の時代の種族が続いた
彼らは、気質がいっそう荒々しく、いっそうためらいもなく残忍な武器を手にとったが、しかし、罪深いというほどではなかったのだ
最後は、固い鉄の時代だ
いっそう質の劣ったこの時代に、たちまち、あらゆる悪行が押し寄せ、恥じらいや、真実や、信義は逃げ去った。そして、それらのかわりに、欺瞞、奸計、陰謀、暴力と、忌まわしい所有欲がやって来た(中略)
豊かな大地は、穀物や、当然与えるべき食糧を求められただけでなく、地中の深い内奥にまで、人間の手がのびた。大地が隠し持っていて、下界の暗がり近くにしまいこんでいた富までが、掘り出されたのだ。そして、その富が、諸悪を誘い出す源となった。今や、有害な鉄と、鉄よりも有害な金が出現していた。この両方を手だてとする戦争も発生し、血まみれの手が、鳴りひびく武器を振りまわした
(中略)
「…大地のひろがる限り、荒々しい『狂乱』が支配している。人間たちは、まるで罪の盟約をとり交わしでもしたように見えるのだ。みんなが、受けるにふさわしい罰を受けねばならぬ。それも、早いほどよいのだ。これが、わたしの決定だ」
神々のなかには、声をあげてゼウスの言葉に賛成し、彼の怒りをいっそうたきつけるものもあったし、同意のうなずきによって、務めを果たすだけのものもあった。が、すべての神々にとって、人類の絶滅は悲しむべきことだった。人間が消えたあとの地上はどんな姿になるのであろう、誰が祭壇に香を供えてくれるであろう、大地をけものらの荒らすままに任せようとのつもりなのか―神々はこうたずねた
これにたいして、大神は、心配はいらぬ、あとのことは自分が考えようと言って、前の人間たちとは違った、驚くべき起源の新種族を生み出すことを約束したのだ
★こうして、次に「大洪水」の物語が続く(次回へ)
★ギリシャ神話では、人類の起源について定説はない
○1番古い考え方は、人類は自然に神々と同じく大地から生まれたというもの
○ヘシオドスの「仕事と日々」によると、人間をつくったのはオリュンポスの神々ということになっている
★5時代の説話(ヘシオドス「仕事と日」 岩波文庫より)
神々も人間も、その起りは1つであったという物語じゃ
オリュンポスの館に住まう神々は、
最初に人間の黄金の種族を作りなされた
これはクロノスがまだ天上に君臨しておられた
クロノスの時代の人間たちで、
心に悩みもなく、労苦も悲歎も知らず、神々と異なることなく暮しておった
惨めな老年も訪れることなく、手足はいつまでも衰えず、
あらゆる災厄を免れて、宴楽に耽っていた
死ぬ時はさながら眠るがごとく、
あらゆる善きものに恵まれ、
豊沃な耕地はひとりでに、溢れるほどの豊かな稔りをもたらし、
人は幸せに満ち足りて
心豊かに、気の向くにまかせて田畑の世話をしておった
(略)
さてオリュンポスに住まいたもう神々は、この種族の絶えた後に、
今度は第二の種族、先のものには遥かに劣る銀の種族をお作りなされたが、
これは姿も心も、黄金の種族とは似もつかぬものであった
子供は百年の間、まったくの頑是ない幼な子のままで家の内に戯れつつ、
優しく気づかう母の膝もとで育てられた
しかしやがて成長を始めて成年に達するや、
おのれの無分別のゆえに、さまざまな禍いをこうむって、短い生涯を終える
互いに無法な暴力を抑えることができず、
不死なる神々を崇めることも、人間にはその住む所に従って守るべき掟である、
神々の聖なる祭壇に生贄を捧げることもしようとはしなかったのだ
さればクロノスの御子ゼウスは、彼らがオリュンポスに住まいます至福の神々に
しかるべき敬意を払わぬのを怒って、この種族を消しておしまいになった
(略)
ついでゼウスは人間の第三の種族、
青銅の種族をお作りになったが、これは銀の種族にはまったく似ておらず、
とねりこの樹から生じたもので、怖るべくかつ力も強く、
悲惨なるアレースの業(戦い)と暴力をこととする種族であった
穀物は口にせず、その心は鋼(はがね)のごとく硬く苛酷で、
傍らに近寄ることもできぬ
その力はあくまで強く、
強靭な肢体には、無敵の強腕が両肩から生えている
扱う武器は青銅製、その住む家も青銅製で、
青銅の農具を用いて田畑を耕す
黒き鉄は未だなかった
彼らは互いに討ちあってたおれ、身も凍る冥王(ハデス)の
かび臭い館へ、名を残すこともなく降(くだ)っていった
(略)
しかるに大地がこの種族をも蔽った後、
クロノスの御子ゼウスは、またも第四の種族を、
豊穣の大地の上にお作りなされた
先代よりも正しくかつ優れた
英雄たちの高貴なる種族で、半神と呼ばれるもの、
広大な地上にあってわれらの世代に先立つ種族であったのじゃ
しかし、この種族も忌わしき戦(いくさ)と怖るべき闘いとによって滅び去った
(略)
さてゼウスは、またも人間の別の種族をお作りなされた
いま生れ住む人間がそれじゃ
(略)
今の世はすなわち鉄の種族の代なのじゃ
昼も夜も労役と苦悩に苛まれ、そのやむ時はないであろうし、
神々は苛酷な心労の種を与えられるであろう、
さまざまな禍いに混って、なにがしかの善きこともあるではあろうが
しかしゼウスはこの人間の種族をも、
子が生れながらにして、こめかみに白髪を生ずるに至れば直ちに滅ぼされるであろう
○すなわち
1 黄金の種族
2 銀の種族
3 青銅の種族
4 英雄たちの種族
5 鉄の種族
★4つの時代(変身物語(上) 岩波文庫より)
黄金の時代が最初に生じたが、そこでは、懲罰者もいず、法律もなしに、おのずから信実と正義が守られていた(中略)
きり立った堀が、都市を囲むこともまだなく、銅でつくられたまっすぐな喇叭(らっぱ)も、角のように曲がった号笛もなく、兜も、剣もなかった。兵士は不要であり、いずこの民も、安全無事に、おだやかで気楽な日々を送っていた
大地そのものも、ひとに仕える義務はなく、鍬で汚されたり、鋤の刃で傷つけられたりすることなしに、おのずから、必要なすべてを与えていた。ひとびとは、ひとりでにできる食べ物に満足して、(中略)
常春の季節がつづくのだった(中略)
サトゥルヌス(クロノス)が奈落の底へ送られ、世界がユピテル(ゼウス)の支配下に服したとき、銀の時代がやって来た
これは、黄金の時代よりは劣っていたが、黄褐色の銅の時代よりは価値がまさっていた
ゼウスは、かつての春の期間を縮め、冬と夏、不順な秋と短い春という4つの季節で1年が終わるようにした(中略)
家に住むことがおこなわれたのも、この時が始めてだった。もっとも、家というのは、洞穴であり、密生した茂みであり、樹皮でつなぎ合わされた小枝であった(中略)
このあと、3番目に、銅の時代の種族が続いた
彼らは、気質がいっそう荒々しく、いっそうためらいもなく残忍な武器を手にとったが、しかし、罪深いというほどではなかったのだ
最後は、固い鉄の時代だ
いっそう質の劣ったこの時代に、たちまち、あらゆる悪行が押し寄せ、恥じらいや、真実や、信義は逃げ去った。そして、それらのかわりに、欺瞞、奸計、陰謀、暴力と、忌まわしい所有欲がやって来た(中略)
豊かな大地は、穀物や、当然与えるべき食糧を求められただけでなく、地中の深い内奥にまで、人間の手がのびた。大地が隠し持っていて、下界の暗がり近くにしまいこんでいた富までが、掘り出されたのだ。そして、その富が、諸悪を誘い出す源となった。今や、有害な鉄と、鉄よりも有害な金が出現していた。この両方を手だてとする戦争も発生し、血まみれの手が、鳴りひびく武器を振りまわした
(中略)
「…大地のひろがる限り、荒々しい『狂乱』が支配している。人間たちは、まるで罪の盟約をとり交わしでもしたように見えるのだ。みんなが、受けるにふさわしい罰を受けねばならぬ。それも、早いほどよいのだ。これが、わたしの決定だ」
神々のなかには、声をあげてゼウスの言葉に賛成し、彼の怒りをいっそうたきつけるものもあったし、同意のうなずきによって、務めを果たすだけのものもあった。が、すべての神々にとって、人類の絶滅は悲しむべきことだった。人間が消えたあとの地上はどんな姿になるのであろう、誰が祭壇に香を供えてくれるであろう、大地をけものらの荒らすままに任せようとのつもりなのか―神々はこうたずねた
これにたいして、大神は、心配はいらぬ、あとのことは自分が考えようと言って、前の人間たちとは違った、驚くべき起源の新種族を生み出すことを約束したのだ
★こうして、次に「大洪水」の物語が続く(次回へ)