2代目ポチは、S少年が学校から帰ってくると、小屋につないだ鎖からはなしてもらえました
ほどなくして3人の姉たちも帰ってきて、「ポチ、ポチ」とよびながらなでまわします
当時の遊びといえば、鬼ごっこや缶けり、ゴム飛び、ケンケン、紙飛行機など
道具はほとんどいらないものばかりでした
でも、近所にはなかまがたくさんいて、みんな泥んこになって遊びました
家のまわりの空き地や草原を、2代目ポチも子どもたちも自由に走りぬけました
2代目ポチは、そんな子どもたちの遊びの中に、あたりまえのようにとけ込んでいました
二軒先の友だちの家に、ポチとおなじような雑種の犬が飼われていました
その名も「タロウ」といい、いかにも勇ましい元気いっぱいの犬でした
子どもたちは毎日のように「タロウ~、タロウ~」と追いかけます
そして、つかまえては、じゃれあってかまうのです
元気なタロウは、道にできた水たまりだって、なんのその
じゃぶじゃぶと音をたてて入って行き、からだに泥水がはねあがるのも、まるでどこ吹く風
まったくお構いなしに、平気で渡っていきました
後から聞けば、「タロウ」とは名ばかりの、正真正銘のメス犬だったとのこと
メス犬とわかっていても「タロウ」と呼んで近所中のみんなでかわいがる
当時はそんな、おおらかな時代だったのかもしれません
それにひきかえ、S少年一家が飼っていた2代目ポチは、まったく弱虫の犬でした
近所にいたメス犬の「タロウ」とは、性格はまるで正反対
道にできた水たまりなどは、濡れないように、できる限りの遠まわりをしてよけていました
そして、家族のだれかが呼べばもどって来られる近所にしか、遊びに行かれません
ろくに遠出も冒険もできない、まったく臆病な犬だったのです
そんな2代目ポチが、その日にかぎっては、呼んでも呼んでも夕方のエサの時間に帰ってきません
自分から遠くに行かれないことは、家族のだれもがわかっていました
自分から遠くに行ったのでないとしたら、だれかに連れて行かれたのでは?
「ひょっとして・・・」 家族の中に不安がよぎります
あの、救い出しに行かれなかった初代ポチ・・・
2代目ポチも、ひょっとしておなじ「野犬狩り」にさらわれたのではないか・・・