S少年と姉たちは、授業がおわると一目散に家をめざして走りました
「ポチは、ポチは、帰ってきた~?」 みんなで犬小屋にかけよります
見れば、そこには、鎖につながれたポチがいました
ポチは子どもたちに飛びつきたくて、鎖をひきちぎらんばかりの勢いでジャンプしてきます
「ああ~、ポチが、ポチが帰ってきた~!」
「よかった、よかった、ポチが生きて帰ってきた~!!」
となりのお兄ちゃんは、約束してくれたとおり、ポチを野犬狩りから救いだしてくれたのでした
S少年と姉たちは、お兄ちゃんにお礼をいうのも忘れて、無事に帰ってきたポチを夢中で抱きしめ抱きしめました
おそろしい思いで一晩をすごしたポチは、命を助けてもらったことがわかるのか
どんなにきつく抱きしめられても、いやがることもなく、されるがままに抱かれていました
ポチは家族やご近所のお友だちを愛し、そしてみんなに愛されて暮らしていました
**********
2代目ポチがS少年の一家と暮らしていた、昭和30年代の頃
神奈川県川崎市のこのあたりは、どのような風景だったのでしょう
**********
S少年の家は平屋で、かべは板でできていました
近所は空き地や草原だらけといってもいいくらい
まわりに高い建物がないので、数キロ先の小高い山までみえました
そして、中原平和公園のちかくに2011年にできた大手スーパーのある場所には、なんと、釣り堀がありました
釣り堀のよこには細ながいアパートがあり、さらにそのよこには、三角形の池がありました
駅から少しはなれた住宅街にはマーケットがあり、個人商店もたくさんあって、庶民の食卓を支えてくれていました
一般の家庭には、冷蔵庫は、まだほとんどない時代のこと
朝早くから、あさり売りや納豆売りが、路地の奥にまではいって来て、おおきな声で売り歩いていました
その頃の子どもたちは、下校してランドセルを放りだすと、友だちと一緒に、日がおちて暗くなるまであそびました
S少年の家のならびには駄菓子屋があって、一日10円の小遣いは毎日その店にきえました
2代目ポチは、そんな駄菓子はもらえませんでしたが、S少年や姉たちについてあるいて一緒にあそびました
トイレは、近所の空き地などに、気の向くままにしていたのでしょう
散歩は、時々思いだしたように、子どもたちが鎖につないで連れていきました
近所の空き地や道ばたで、人とも犬とも自由に交流をたのしみ、型どおりの散歩はあまりしませんでした
子どもたちが夕飯によばれるまで、2代目ポチも一緒にあそびました
写真は、S少年と2代目ポチのベストショット