因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

さいたまネクスト・シアター 世界最前線の演劇3 『朝のライラック』

2019-07-27 | 舞台

ガンナーム・ガンナーム作 渡辺真帆翻訳 眞鍋卓嗣演出 公式サイトは こちら
 彩の国さいたま芸術劇場NINAGAWA STUDIO 28日終了 
 
作者のガンナームは1955年パレスチナ東部のジェリコに生まれ、難民としてヨルダンで育つ。劇作、演出、俳優、短編小説家として、パレスチナ解放を主題にした創作を続けている。本作は、2015年9月、ダーイッシュ支配下にある町で、婚礼の衣装を纏った若い夫婦が服毒心中をしたという実際の事件をベースに書かれたものとのこと。

 武装組織の支配下にある中東の架空の町テル・カマフに住む夫婦。夫のドゥーハは演劇、妻のライラクは音楽と、ともに芸術教師をしているが、美しいライラクに目を付けたダーイッシュの軍司令官と町の長老から、司令官との結婚か、処刑かという理不尽極まりない選択を迫られる。しかも夫婦の見張りを命ぜられたのは、かつて二人の教え子だった青年であった。2016年に書かれ、日本では2017年12月、国際演劇協会日本センターにより、リーディング上演された作品が、満を持して本式の上演となった。

 眞鍋卓嗣は2017年のリーディング公演でも演出を担当した。今回の上演では、作者のガンナームが2017年に改稿したものを新たに渡辺真帆が翻訳し、それをもとに試行錯誤を経て完成したものであるとのこと。冒頭のシーンは演出家として付加したものであり、人物の背景の設定など、いくつか変更箇所があるそうである。

 リーディング公演を見逃したことは、今となっては残念でならないのだが、いちばん気になるのは、初演ではライラクがキリスト教徒であったところを、今回は夫婦ともにイスラム教徒と改変した点である。異教徒の女性を自分たちの性奴隷として支配下に置こうとすること、夫婦の信仰する神が異なることが舞台にどのような影響を及ぼしていたのかを知りたい。

 先日の『夕食の前に』のように、作り手の非常に強い熱気に圧倒されながら、それを受け止めかねることに困惑するのである。「入っていけない」感覚があり、舞台で起こっていること、舞台の人々の熱量に追いついていけないのだ。作品との相性の問題なのだろうか、今後の課題ではあるが、苦手意識にしてしまわず、まっさらな心で次の舞台に出会えることを願っている。

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