*河西裕介作・演出 公式サイトは こちら サンモールスタジオ 3月2日で終了
2007年河西裕介が旗揚げした国分寺大人倶楽部は、活動休止期間を経て今年7月の『ラストダンス』を最後に解散することになった。 Straw&Berryは、活動休止中の2013年に河西裕介が旗揚げした新ユニットで、今回で3回めの公演となる。
公演チラシに掲載の妊娠を知った女性のひとりごとがおもしろい。妊娠を心から喜んでいるわけではなく、しかしそれをきっかけに恋人との関係を少しでも好転させたいといういじらしい願いも伝わる。だが「あ、生理きた」。さて彼女はどうなるのか。今回の物語はここからはじまりそうだぞ。
・・・というのは安易な想像であった。女性ふたりと男性ひとりの3人がルームシェアしている家のリビングが舞台である。まず冒頭、加奈子(佐賀モトキ)と千尋(山田佳奈/劇団ロ字ック 1,2,3,4,5,6,7)がキムタクの話をしている。部屋の奥から2階につづく階段が見え、2階の一室からであろう、女性のあえぎ声が小さく聞こえてくる。まさにコトの最中なのだ。だが加奈子と千尋は何となくキスになり、そこへ小田(小西耕一 1,1´,2,3,4)が帰宅し、ふたりを見て多少驚くが、「ちょっと出てくるから、続きやってて」と大人の対応をする。コトが終わったチエ(岩崎緑)が2階から降りてくるが、お相手は別れると決めた恋人なのだ。
恋人や友だちや知りあい、ときには家族がつぎつぎに訪れるので、そもそもこの家を住まいとしているのが誰なのかわからなくなるが、そこもまたおもしろい。チエは、女優を目指しているといっても、堅実に生きる妹に比べると社会人としてはなはだ頼りない。最大の難点は身持ちがよくないことで、バイト先の後輩とくっついたかと思えばすぐに捨てられ、今度は既婚のヴォイストレーナーと不倫のあげく妊娠し、妻に乗りこまれて別れざるを得なくなる。終幕近くまで来て、やっとチラシに記載の「あ、生理きた」を思い出した。チラシの女性と舞台のチエとは、必ずしも同一人物ではないとも言える。男女合わせて9人の出入りをテンポよく描きながら、少しずつ状況は違うが、さまざまな屈託を抱え、思うに任せぬ日々を送る現在の若者たちのある一面をあぶりだす。彼らに温かく寄りそうというより、むしろ冷静で客観的な視点が感じられる。といって男女のあれこれをてんでに描いて終わるわけではなく、最後の最後になって、「こう来るのか!」とまったく先の読めない一瞬を提示して幕を閉じるあたり、なかなか心憎い。いやほんとうに、最後にあの場面ということは、●〇と●〇はどうなるのだろう。
公演の前半には、おまけ演劇の『ボジョレ先生ぬ~ぼ~』という短編が上演された。本編とはまったく関係のない作品で、サークルの合宿の出しもの的というか、大急ぎで作った印象の寸劇風である。俳優たちは本編とはまるで違うキャラクターに扮し、非常に楽しそうである。せっかくなのだから途中で噴き出したりせず、真面目にやってほしいが、あれこれ言うのは野暮であろう。当日リーフレットには「(おまけ演劇は)本編の余韻を著しく損なう恐れがあるので、余韻を楽しみたい方はご覧にならないよう」という注意書きがある。迷ったが、結果的に見てよかった。
本編の終幕が客席に与えるのは「余韻」というより、「予感」である。自分などはつい安易な展開を想像してしまうのだが、本編とまったく関連のない『ボジョレ~』を見たことで気分が一新され、晴れやかに劇場をあとにすることができたのだ。
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