因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

二月花形歌舞伎第二部『女殺油地獄』

2011-02-17 | 舞台

*近松門左衛門作 齋藤雅文補綴 公式サイトはこちら ル テアトル銀座 25日まで
 『女殺油地獄』(おんなごろしあぶらのじごく)をはじめてみたのは、公演のテレビ中継だった。与兵衛は孝夫時代の片岡仁左衛門であることはたしかなのだが、お吉がどなたであったか。しかもはっきり記憶に残っているのは豊嶋屋油店の殺し場だけである。グロテスクなのに目が離せないのがなぜなのか。やっと実際の上演をみたのは、1998年9月の歌舞伎座だ。与兵衛は仁左衛門、お吉は雀右衛門である。そのあと2001年9月に染五郎と孝太郎で、2009年6月の歌舞伎座で仁左衛門の演じおさめと、機会にめぐまれた。

 今回染五郎の与兵衛は10年ぶりということに驚く。もうそんなに年月が過ぎたのか。歌舞伎座からル テアトル銀座と、劇場は小さめになったけれどもその分集中してみることができた。凄惨な殺しで終演になるのは何とも後味が悪いものだが、そこは仁左衛門であるからこそうっとりしてしまうのであり、染五郎にも同様の印象がある。与兵衛役を仁左衛門から教わったという染五郎、3演めにして役がしっかり手の内に入ったのではないか。今回はお吉殺しのあとの「北の新地の場」、「豊嶋屋逮夜の場」まで上演され、最後の最後まで往生際が悪く、まったく反省のない与兵衛の印象がいよいよ鮮烈になった。残虐行為は自己中心的で更生の余地がない・・・と裁判の判決理由のようなことばが思い浮かぶ。現実にはぜったいにいてほしくないし、関わりたくない人物だ。

 お吉について、パンフレットに染五郎が興味深い発言をしている。「(与兵衛には)お吉に対する恋愛感情はない。そこがこの作品のおもしろさ」「(お吉は)世話焼きで無駄に色気がある」。
 そうなのだ、考えてみると与兵衛に対するお吉の関わり方、接し方はわかりにくい。しっかり者の世話女房、良妻賢母である。お吉にも与兵衛に対する恋愛感情はまったくなくて、困った若者の世話をしかたなく焼いているだけなのだ。「不義になって(金を)貸してくだされ」。与兵衛のこのひとことが、まったく男女の匂いのしない関係を一気に狂わせた。仁左衛門の与兵衛は申し分なく素晴らしい。余人をもって代えがたいとはこのことだろう。その仁左衛門に教わった染五郎による与兵衛の造形は、あまりに自己中心の言動の数々に、現代の理由なき殺人と似た恐怖を感じさせる。

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