*吉田小夏作・演出 公式サイトはこちら アトリエ春風舎 8日まで
2008年の初演は見逃したが、「優秀新人戯曲賞2010」(ブロンズ新社)掲載の戯曲を読んでおり、繊細で丁寧な筆致、どの登場人物にも温かだが過剰に思い入れをしない描き方が好ましく思えた。青☆組は今年10周年を迎えるにあたり、節目の年の最初の作品として本作を再演した。作者にとっても愛着のある作品とのこと。
主人公の風太郎とその母親以外の俳優がすべて複数の役を兼ねて演じ、60歳の誕生日を迎えた風太郎が幼いときから働き盛りの中年期などを、場所や時間を前後しながら描いていく。やや複雑な生い立ちをもつ風太郎だが、それが人生ぜんたいに深刻な影響を及ぼしているわけではなく、誰の人生にも多少の波風や風雪はあって、困難を必死で乗り越えるというより、淡々と受け入れ、あるときは流されながらただただ生きていく様相が示される。戯曲を読んだときに感じた印象にほとんどたがわない舞台であり、劇作家吉田小夏の確かな筆と演出の手腕が静かに結実したものである。
本作は佐野洋子の絵本『100万回生きたねこ』をモチーフにしているそうだ。誰にも心を開かず、死んでは生き返ることを繰り返したねこが最後に愛する伴侶に巡り合い、人生をまっとうする物語である。同じ絵本をモチーフにした作品として自分の記憶にまっさきに浮かぶのは、ミナモザ主宰瀬戸山美咲の『デコレイティッドカッタ―』で描かれていた、殺人と生まれ変わりを無間地獄のごとく繰り返す少女の痛ましい姿である。ひとつの絵本から、こんなにも違う舞台が生まれるのだなぁ。
欲をいえば、戯曲を読んだ印象そのままの舞台であることに少しものたりなさを感じたが、これはないものねだり、我がままなのだろうか。舞台美術も俳優の造形も手堅くまとまっていて安定感があるのだが、どこかでみるものの予想を越えるものがみたくなるのだ。また細かいことをいえば、風太郎の息子鉄平がいっしょに暮らしている女性が実は・・・という場面がある。しかし冒頭、彼氏を連れて遊びにきた風太郎の娘(鉄平の姉)菜穂の台詞に、弟の家庭に赤ちゃんが生まれるという内容があって、このあたりが気になるのだった。
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