因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

きゃべ。第4回公演『小庭のある家』

2011-07-15 | 舞台

*赤星武作・演出 公式サイトはこちら 新宿ゴールデン街劇場 14,15日
 きゃべ。(きゃべまると読む)は日大芸術学部演劇学科在学中に結成され、2007年より年に1回、新宿ゴールデン街劇場を拠点に活動を続けているとのこと。作・演出の赤星武は劇団掘出者公演『チカクニイテトオク』『ハート』、参々々『泣かないで温水』公演の客演が記憶に新しい。
 小劇場においては、出演俳優が所属、客演含め同じような顔ぶれになることが否めないと察する。らくだ工務店(1,2)の舞台がまさにそうではないか。すっかりおなじみのメンバーで、今度はどんな物語になるのだろうとわくわくするが、「似たような顔ぶれだなぁ」と感じ始めると次第に足が遠のく。これまでみた舞台では、俳優赤星武は強く自己主張せず、中心的な役柄ではないが自分の持ち場を正しく把握し、過不足ない演技で劇作家や演出家に信頼されるタイプではないかと思う。その赤星武が作・演出をつとめる舞台は?

 都心からやや離れた町と思われる、題名通り小庭のある家が舞台である。子どもが生まれてまもない夫婦の家に、美大生だった妻の同級生たちが訪れる。子どもがすべてになりたくない妻はガーデニングに凝り、理由はわからないが夫との仲はぎくしゃくしている。同級生は女性ふたりが絵画教室の講師(たしか)で、男性は保育士をしている。

 連れ合いの友人とのつきあいというのは、お互いになかなか微妙なものだと思う。すぐに打ち解けて親しくなれればいいが、相手に共通項や接点がみつけにくかったり、どうにも好感が持てなかったりすることは往々にしてあり、次からは外で会おうとか、旦那さん抜き、女房抜きのほうが気兼ねがなくていいやということになりかねない。お互いが不愉快な思いをせずに家庭も友人も大切にできれはいいと思う。

 いや、そういうことではなくて。

 設定や会話の内容はとくに意表をつくものはなく、同級生たちがガーデニングを手伝ったり、両親と赤ちゃんをスケッチしたり、飲んだり食べたりする。前述のように夫婦仲に少々問題があったり、同級生たちのあいだで元カレと元カノがいたりなどは目新しいものではないのだが、どういうわけか彼らの様子から目が離せないのだ。
 妻は庭先の小さなテーブルに三人分のティーセットを持ってきて、自分はカップだけとって片手でハーブティを飲む。訪れた友だちにコーヒーを出すのはいいが、相手にカップを持たせ、砂糖を入れると聞けばシュガーポットごと手渡す。相手は両手がふさがり、砂糖を入れるにも一苦労で、さらに夫からかかってきた電話に出てとケータイまで持たされる。妻は気が利かないというより、どこかが壊れかけているのではないかと思う。

 終盤、町内会で問題になっている不審者のチラシを夫が持ち帰る。その顔写真はどうみても同級生の男性である。実は保育士をとっくにやめていたり、同級生の夫を「お兄ちゃんお兄ちゃん」と連呼してみたり、夫も彼から慕われることが嫌ではなさそうだったり、劇的展開の芽が急激にみえ始めるのだが、物語はそのまま終わる。

 ものたりないという不完全燃焼感がある。しかしそれをマイナスではなく、好ましいと感じたのはなぜだろうか。思わせぶりだったり、あからさまな描写がないのは、俳優赤星武の印象に近く、劇作家・演出家としても丁寧、慎重に舞台を作る人なのだと思う。
 「頑張れ」と応援するのも楽しいが、静かに見守りたい系の演劇人との出会いも貴重である。二日間だけの公演はちょっと残念だ。次回はもう少し公演日数が長くなること、丁寧で慎重な舞台づくりが新しい一面を見せてくれることを願っている。

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