因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

Pityman5夜連続配信企画『ぜんぶのあさとよるを~ラブ・イズ・オンライン』

2020-05-18 | 舞台番外編

*山下由脚本・音楽・監修 公式サイトはこちら  
 4月20日にアトリエ春風舎で初日を迎えるはずだったPityman傑作選Ⅲ『ぜんぶのあさとよるを』が上演中止となり、登場人物によるビデオ通話短編が配信されている(5月30日まで→こちら)。Pityman(ピティマン)は、2011年山下由が個人企画として立ち上げ、2013年劇団化された、山下自身の脚本、演出作品を上演する団体である。若手演出家コンクール2013、第8回せんがわ演劇コンクール入賞だけでなく、門真国際映画祭2019舞台映像部門での優秀作品賞、最優秀編集賞受賞という経歴に、山下由作品の特質と魅力の秘密があると思われる。

 第一夜『夜が窓から入り込んでくる』…朝日(小関悠佳)は恋人の月(ノナカモヱリ/ドレスダウンの女)に明日の予定を確認する。風の強い夜だ。誰かが入ってくるような気がする。その人が誰か考えたり、もう会えない人のことを思い出したりする。
 第二夜『まっしろなウユニ塩湖キャンプ』…ボリビアで暮らす二人。朋香(浅井裕子)はシングルマザーだろうか。耕太(小林涼太/ピストーンズ)と、その亡妻の命日にウユニ塩湖へ行こうと相談中だ。そこにはフラミンゴがやってくるらしい。
 第三夜『愛してるといってくれ』…真那(東澤有香)と信哉(丸山港都)は遠距離恋愛中だ。真那は信哉に会いたいが、彼は何だか冷めている。
 第四夜『三点倒立ラブ・オア・デッド』…出会ったばかりの芳男(太田旭紀)とこはる(中島梓織/いいへんじ)の初オンライン電話。「三点倒立ができたら付き合ってください」と言ってしまった。果たして彼は?
 第五夜『思い出しちゃう。ぜんぶのあさとよるを』…疾うに切れた昌(辻響平/かわいいコンビニ店員飯田さん)から電話がかかってきた。真那(東澤)はこれまでのことを思い出す。わたしがほんとうに好きなのは…。

 「この名前はさっきの話に出て来たな」、「この思い出はもしかすると」といった小さな点が、夜を重ねるごとに次第に確かな線になり、第五夜でゆるやかな円になる。第三夜の真那が第五夜にも登場し、これまで少しずつ語られ、何らかのつながりを予感させていた人々の「ぜんぶのあさとよる」を繋ぐ。しかし物語には謎解きや種明かしといった趣向の旨みや劇作家としての手腕の主張ではなく、もっと普遍的な人間の悲しみが描かれている。一生のあいだ、この世界で知り合える人、つながりを持てる人は決して多くないこと、そのつながりすら永遠ではなく、衝突や破綻、自然消滅を繰り返す悲しみだ。ならば人は結局一人なのか?

 とりとめのない会話が、ふいに核心を突く話題に入ったり、かと思うと躱されてしまったり、ちょっとしたひと言や表情の変化に、ふたりの関係の危うさ、心に残ったままの傷、ほんとうの気持ちが感じ取れる。登場人物の相関関係や台詞の一つひとつに至るまで、緻密に構築された会話劇だ。「舞台の映像化」とまとめられるものではなく、オンライン通話という形態を活かし、独立した映像作品として楽しめる秀作だ。再び劇場の扉が開いたときには、ぜひ山下由の作品を客席で体験したい。のみならず舞台と映像の両方の特性を活かした魅力的な作品が生まれる可能性もあり、今回の初山下由、初Pitymanは嬉しい体験であった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« NHK Eテレ「こころの時代アー... | トップ | ネットで観劇☆Pityman『ハミ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台番外編」カテゴリの最新記事