因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

急な坂スタジオ「マンスリー・アート・カフェ」vol.02

2007-01-18 | 舞台番外編
マンスリー・アート・カフェvol02 『いま、こんなことしたいんだよね。』
 地下鉄桜木町駅から小雨のなか野毛坂を登る。暗い道の脇に「急な坂スタジオ」のグリーンの明かりが見えるとほっとした。今夜のゲストスピーカーは、このスタジオのレジデント・アーティストでもある演出家の中野成樹と、彼の恩師である日大芸術学部演劇学科の熊谷保宏。司会進行はSTスポット館長の加藤弓奈。

 登場した中野成樹をみて「あ」と思った。2003年の秋、STスポットでリーディング『ラ・ロンド』が上演されたとき、第7,8景をラップに合わせて台詞が書かれた紙を舞台の壁に次々に貼りながら演じていた、あの男性だ。彼は中野成樹+フランケンズを主宰し、「誤意訳」という独自の手法で翻訳劇を上演しており、本日のテーマは「チェーホフをラップでできないか?」である。
 
 ほとんど打ち合わせなしで始まったトークは、後半チェーホフの『かもめ』をラップ風に書いてみた歌詞?の解説あたりからだんだん核心に迫ってくる。年配の男性から「チェーホフには失礼かもしれないが、この詞はとてもいい。わたしならこれを桑田圭祐か井上陽水に歌わせたい。さらに演歌にしたら最高だ」というご意見がでて、会場は一気に盛り上がった。

 「誤意訳」についての考えを話すとき、中野は慎重に言葉を選びつつ、実に真摯であった。演出との違いは?翻案ではないのか?という質問もあったし、ここが必ず突っ込まれる点だと充分に意識していることがわかる。それをわかった上で迷い、ときには怯えつつ、しかし作品に対する敬意を忘れず(具体的な発言はなかったが、わたしはそれを強く感じた)、心意気をもって舞台を作っていることが伝わってくる。いい意味で「喧嘩腰」の人だなと思った。その意気で行け!

 チェーホフは好きな劇作家だ。しかし言葉の壁、時代や感覚の違いなどがあって、どんな上演であれば正解なのかは結局わからない。どうすれば本場に近づけるかという方向で舞台作りに携わることに違和感を覚えて試行錯誤している中野の感覚は、ある意味でとても真っ当であると思う。このトークライブで勢いがつき、今月末上演の『冬眠』のチケットを申し込んだ。新しい舞台に出会えそうな予感がする。「急な坂スタジオ」でのひとときに感謝。

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