因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パルコ劇場『趣味の部屋』

2015-03-25 | 舞台

*古沢良太作 行定勲演出 公式サイトはこちら パルコ劇場
 都会のマンションの一室、水色のジャージの上下を着た男(戸次重幸)が奇妙なストレッチをやっている。それに茶々をいれつつ、中年の男性(中井貴一)はキッチンで何やら料理をこさえている。シェフらしき服装も調理の手つきも玄人はだしだ。そこへ同じく中年の男たちがひとりふたりとやってくる。舞台上手側に直進してガンダムのプラモデル?を一心に作りはじめたり(白井晃)、軽やかなステップで、反対の下手側のコーナーで江戸川乱歩(記憶があいまい)の古本を嬉々としてめくりはじめたり(川平慈英)。
 彼らは昼間はそれぞれ別の場所で仕事をしており、夜になると共同で借りているこの部屋に訪れ、誰の邪魔もされずに「趣味」に没頭しているという。まさに趣味の部屋。タイトルの通りである。

 2013年に初演の大好評に再演を望む声が多く、このたび初演メンバーの男優が揃って再演の運びになったものである。主演の中井貴一がプロデュースし、人気テレビドラマ『相棒』や『リーガル・ハイ』の作者である古沢良太が書き、『Go』や『北の零年』など、重厚で硬質な作品を次々に発表している映画監督の行定勲が演出した。テレビや映画に多く出演する知名度が高く、実力も折り紙付きの俳優が顔を揃える豪華版サスペンスコメディだ。

 この作品のひとつのポイントは、「趣味」というもののとらえ方である。明らかに仕事や勉強ではなく、それによって利益は生れない。いくら腕がよくてもプロではない。アマチュアである。没頭するあまり、場合によっては家族にも理解されず、友だちも離れていくようなこともある。。だからこそすべてを忘れて没頭でき、そうすることで仕事や家庭生活とバランスをとりながら、より豊かで楽しい人生を送ることができる・・・といったところか。
 男たちの趣味は、料理にガンダム、古本収集である。それぞれ没頭するさまがおもしろくて、ほとんど「おたく」の様相なのだが、皆に勧められるままにいろいろなことに手を出しては、「何にも夢中になれない」と悩む戸次は、「趣味とはこうあらねばならない」という一種の幻想、固定概念に縛られている人の正直な気持ちを代表していて、これもおもしろい。

 メンバーのひとりが行方不明になり、この部屋を不審に思った婦人警官(原幹恵)が乗りこんでくるあたりから、物語はどんでん返しにつぐどんでん返しが続く。

 ここから先は舞台をご覧にならない方だけどうぞ・・・。

 もうひとつのポイントは、「演劇」というもののとらえ方であろう。趣味の部屋に集う仲間が解散することで物語が終わったと思わせて、再び戻ってくる男たち。たしかに男たちは料理も古本もガンダムも好きなのだが、彼らのほんとうの趣味は「演劇」であるというのである。ひとりが台本を書き、ひとりひとりがアドリブもまじえながら演技をする。婦人警官は彼らが演劇をやっているとは知らないので、台本があるとはいっても、アクシデントや想定外のハプニングにも柔軟に対応しながらの演技していることになる。「これぞ演劇の醍醐味だ」とご満悦の男たち。最後の最後はもうひとつオチがあるのだが、予測できるものであり、これはもうとくにいいと思われる。

 演劇とは何だろうと、ものすごく根本的なことを考えるのだった。

 そして演劇をみるのではなく、みずからが台本を書いて演じること、演劇をつくる醍醐味とは何だろう。『趣味の部屋』の男たちが言うところの「演劇」は、「演劇」なのだろうか。プロデュースした中井貴一は、演劇をはじめて見る観客に、演劇のおもしろさを知ってもらおうと、脚本を古沢良太、演出を行定勲という映像分野で名の知れた人に依頼したという話である。
 適材適所の配役といい、コメディのなかにサスペンスの要素が次第に色濃くなっていくところなど、観客を飽きさせない工夫が随所に施されている。舞台の人物といっしょに呼吸しながら成り行きを見守る楽しさやわくわくした感覚を味わえるとも言える。

 しかし、演劇は、演劇のおもしろさというのはこういうことなのだろうか。

 もちろん、何をおもしろいと思うかは人それぞれであり、どちらが正しい、まちがっているというものではない。だが『趣味の部屋』は、言うなればよくできたテレビドラマ風の印象であった。逆に2時間ドラマであれば、クローズアップやカットバックなどの手法で、もっとサスペンスの度合いを鋭くすることも可能であり、パルコ劇場のサイズでは俳優ぜんいんが終始テンションたかめの演技をせざるを得ないが、映像ならばもっと抑制して微妙な味わいを深めることもできると思うのだ。

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