因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

第40回名作劇場『女よ、気をつけろ!』、『或る夜の出来事』

2015-03-21 | 舞台

*公式サイトはこちら1,2) 川和孝演出 両国・シアターχ 21日で終了
 川和孝企画公演+シアターχ提携公演 日本の近・現代の秀作短編劇100本シリーズ。
 北尾亀男『女よ、気をつけろ!』 大正14年発表
 白髪の講演者が「若き婦人へ」という演題で話しはじめる。話の途中から舞台は二等車の車内になり、座席には中年の婦人と若い男、通路を隔てた隣には初老の紳士がかけている。夜行列車だ。婦人は若い男と次第にうちとけてくる。旅の開放感と夜汽車のロマンティックな雰囲気のせいか、一夜のアバンチュールとほんの軽い気持ちのふるまいがとんでもないことに。
 鳥居與三『或る夜の出来事』大正13年発表
 関西のどこかの町の料亭で、絵描きの男がその友人と話している。絵描きは料亭で働くある女性に執心しており、店から連れ出そうとしているが・・・。

 名作劇場のありがたいところは、上演される演目を中心に、上演される機会の少ない戯曲の解説など、公演パンフレットがとても充実している点である。これを読むと、大正から昭和時代において「戯曲」というものの存在は、いまよりはるかに身近であり、文芸誌にも普通に掲載されていたこと、人々にとっても、戯曲を読む行為がそれほど特殊ではなかったらしいことがわかる。

 しかし今回とりあげた劇作家・北尾亀男と鳥居與三については、情報が非常に少なく、上演された記録になかなかたどり着かないとのこと。従って仮に過去の上演があったとしても、それがどんな印象の舞台だったのか、客席の反応はどうだったのかなどということもわからない。

 たとえどれほど前に書かれた作品であろうと、時代や人物の設定が変わっていようと、今に通じるものがある舞台というものはある。それは舞台の設定を現代にしたり、劇中劇的な趣向にしたりなどの策を弄さずとも、伝わるときには伝わる、わかるものはわかるのではないか。
 戯曲の世界を忠実に、誠実に立ち上がらせ、いま目の前にいる俳優の肉体と肉声で客席に届けることは可能であると思う。

 日本の近代、現代の短編戯曲を掘り起こし、上演を継続する名作劇場の活動はすばらしい。舞台美術、衣裳、小道具なども丁寧に作られていて、頭が下がる思いである。それだけに、舞台からもっと強い何かが伝わってほしいと思うのである。今日性や普遍性を求めているわけではないのだが、せっかく俳優さんが演じるのだから(へんな言い方だけれど)、戯曲の世界にもっと近づきたいではないか。
 『女よ、気をつけろ!』では旅の気分からつい迂闊なふるまいをしてしまう女性を、『或る夜の出来事』ではおめでたい男性を、それぞれ「笑ってもらいたい作品」(演出家の寄稿)とのこと。
 設定のちがいこそあれ、いつの時代であってもこうした男女はいる。自分にしてもいまは笑っていても、いつ笑われるほうになってしまうかわからない。このような感覚が得られれば、数十年前に書かれたまま、あまり知られずにいた戯曲が現代の俳優を得て、現代の観客の前で再生することの意味がより確かになるのではなかろうか。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« モズ企画韓国新人劇作家シリ... | トップ | パルコ劇場『趣味の部屋』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事