因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

二兎社特別公演 ドラマリーディング2 『立ち止まる人々』

2020-03-29 | 舞台

*永井愛構成・演出 公式サイトはこちら 
 東京都による新型コロナウィルス感染拡大防止のための自粛要請を受け、3月28日、29日に東京芸術劇場シアターイーストで予定されていた公演は中止となったが、本日午後、you tubeで舞台映像が配信された(4月末までの期間限定配信)。今月初めから次々と公演の中止や延期が決まり、東京都のみならず関東一円、東海、関西、九州の一部も同様の「自粛要請」がなされて不安が募るばかりのなか、非常に励まされ、演劇というものに希望の見出せるひと時となる。

 リーディングは以下の順に、それぞれの作品の一部を読み継ぐ形式で行われた。これまで観劇した作品は、blog記事をリンクしておきます。

1、『ら抜きの殺意』…1997年テアトル・エコー初演。自分は2000年夏、東京国際フォーラムでの公演を観劇した。熊倉一雄が出演していた。
2、『新・明暗』…2002年秋、シアタートラム初演。公演中に主演の山本郁子(文学座)の怪我に見舞われたが無事に上演された。痛々しく足を引き摺りながら、懸命にカーテンコールを努めていたすがたが忘れられない。
3、『やわらかい服を着て』…2006年新国立劇場小劇場で初演が吉田栄作の初舞台であった。その後吉田は2011年『シングルマザーズ』にも出演し、東日本大震災後の日本が揺れ動いていた時期に、心強い舞台であった。
4、『こんばんは、父さん』…2012年初演。平幹二朗、佐々木蔵之介、溝端淳平の三人芝居。
5、『鴎外の怪談』…2014年初演。高級官僚、医師、文学者。いくつもの顔を持つ森鴎外の葛藤。
6、『ザ・空気 Ver.2 誰も書いてはならぬ』…2018年初演。政治とジャーナリズムの攻防を描いた話題作。

 実際の上演を観たものについては、はじめのうちはどうしても当時の印象と比較してしまいがちであったが、気がつくと若い俳優方のリーディングに引き込まれていた。観客の前で演じられなくなってさぞ悔しく、悲しかったろうに、「公演中止が発表されても、参加者は誰ひとり腐ることなく稽古に取り組み、どんどん面白くなっている」と公式Twitterに記されていた通りである。

 二十数年に渡る上演作品から伝わるのは、今この世で起こっていることに対して、作者が自分の疑問や困惑、ときに怒りや悲しみまでを客観的に見つめて逃げることなく、問題の大きさや複雑な背景にも諦めず、それらをどうすれば演劇として舞台で描くことができるかを考え続け、作り続けている姿勢と心意気である。そして次には、おそらく各作品初演の際は、それぞれ俳優にあてがきされたであろう役柄が、今回の若い俳優方の熱演によって、新しい世代に継承されていく希望が見えてきたことである。ただ、永井演出の舞台になべて感じられることだが、いささか熱演の度合いが強すぎるかと思われるところもある。今回のリーディングの配信映像のには稽古風景も織り込まれており、そのなかで永井愛は「無意識を意識化した上で無意識に戻すのが演技の一番いい状態」と語っている。それを客席でも確認したいと思うのである。

 読まれている場面のその前、そのあとも聞きたい、観たい!という気持ちが湧いてくるのは致し方ないが、この気持ちを次の舞台まで大切に取っておき、備えて待ちたい。

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