因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パラドックス定数 第47項『vitalsigns』

2021-12-27 | 舞台
*サンモールスタジオ提携公演 野木萌葱作・演出 公式サイトはこちら  サンモールスタジオ 28日終了(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29
 パラ定の新作と聞けば即予約してしまうため、公演チラシすらちゃんと読んでいなかった。「水深800メートルの闇の世界。直径3メートルの球体内で交わされる、異質な存在との会話劇」。ここに記されている通り、サンモールスタジオの小さな舞台には、球体を半分に割ったような深海救難艇の一室が作られている。艇長の葉山(西原誠吾)がそこに座り、上手の操縦室には部下の六浦(神農直隆)が見える。

 民間の調査艇から救援依頼があり、葉山と六浦は調査艇とパソコンで連絡を取る。応答もあり、ひどく視界が悪いながら無事に進みそうであったのだが、葉山は調査艇の奇妙な異変を感知する。乗組員は3人だと聞いたが、もう一人いるのではないか。ぞくぞくするような一瞬である。

 潜水艇の操縦、救難ともに確かな技術と強い責任感を持つ葉山と六浦、調査艇から救出された汐入(植村宏司)、鳥浜(小野ゆたか)、堀ノ内(堀靖明)の5人による会話劇である。

 チラシに記された「異質な存在との会話劇」の文言を観劇前に読んでいれば、本作の構造や作者の意図などをもう少し早く理解し、観劇の態勢を立て直すことができたのかもしれない。今回の「異質な存在」がどういうものであったのかがいま一つ腑に落ちないというか、SFと一括りにするのはいささか単純であるが、劇作家野木萌葱にはSFではなく、リアリズムの方向の物語をどうしても期待してしまうのである。調査艇の3人について理解できない葉山が口走った密入国者、テロリスト、新興宗教等々のうち、どれならいいかはわからないが、劇作家の妄想と、現実のさまざまな問題の着地点がほかにあるのではないか。

 まことに中途半端な記事になってしまったが、5人の配役はいずれも適材適所で、台詞の緩急、表情や声の変化など見応え、聴き応えがある。上演前の客席を静かに見守り、開演前そして終演後、簡潔でユーモアのある野木萌葱のスピーチの安定感は今回も健在であった。次回公演の予定はまだ発表されていないが、今度は内容も少しは確認してから観劇に臨もう…いや、やはり丸腰で飛び込んでしまおうか等々、わたしのパラ定へののめり込みは終わりそうにない。
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