*高木登作・演出 公式サイトはこちら 下北沢「劇」小劇場 31日まで (1,2,3,4)
ブラック企業の社長が、ある目的のために高層マンションの一室を購入した。夫婦仲は冷え切っているのに絶対に離婚しようとしないその妻につづいて、タイトルのとおり複数のカップルが部屋に訪れる。白一色に統一された無機質なベッドルームで、人間の根本的な問題があるときはおぞましいほどビジネスライクに、あるときは悲痛なまでに赤裸々に描かれる。
当日リーフレット掲載の作者の言葉によれば、「本作は以前発表したある作品と同一のテーマを扱っています」とのこと。おそらくこちらの舞台のことと思われる。
作者の言葉は、「自分自身の内なる対話の結果がこれです。共感も共鳴もできなかもしれませんが、面白くはできたと思っています」と続く。
そのとおりであった。高木登の最新作『カップルズ』、おもしろい舞台だ。
実際に起こった事件をベースにしたり、世相を反映した重苦しい題材を取り上げ、正面から取り組む作者の姿勢にはいつも頭がさがるものの、その描写、表現において違和感をもつことが多かった。しかし今回は物語や人物の嗜好の設定は多少極端ではあるものの、作者がひたすらに自分自身と向き合い、対話をしつづけた誠実な姿勢がうかがわれる舞台であった。
題材を外ではなく、自己の内面に求めたことが効を奏したのではなかろうか。
平山寛人がやや特殊な設定で本作の鍵を握る人物を演じている。たいへん不思議な俳優さんで、敢えてこのような演技(あるいは演出家の意図)なのかもしれないが、決して表情豊かに演じる人ではないし、台詞の言い方もどちらかと言えば平板である。にも関わらず、いつもながら変幻自在のみごとな造形だ。彼が自身の秘密を告白したときはさすがに引き、いくら何でも「ありえなさすぎでは?」と混乱した。しかし彼がなぜあのような言動をとっていたのか、周囲の人々が彼を受け入れているのかが次第に納得でき、共感や共鳴とまではいかないものの、彼を含めたカップルたちの心象に寄り添うことが可能ではないかと思わされたのである。
非常に歯切れが悪く、煮え切らない書き方をしているのは、本作が初日を迎えたばかりであることと、高木登が「自分自身の内なる対話の結果」である舞台によって、今度は筆者自身の内なる対話へと否応なく導かれているらしいことへの戸惑いと恐れのためである。
高木登作品の捉え方が微妙に変容する夜となった。これは勝負の一本ではなかろうか。戦う相手は高木であり、筆者自身でもあるのだ。いやさて、これはやっかいなことになったぞ。
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