因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ぼっくすおふぃす・プロデュースVOL.27『ぱ・ど・かとる』

2021-06-18 | 舞台
*神品正子作・演出 公式サイトはこちら 雑遊 20日終了(1,2
 「ぱ・ど・かとる」は「pas de quatre」であり、「4人による踊り」という意味とのこと(当日リーフレットより)。このタイトルの通り、登場人物は女1(市橋朝子)、女2(松木美路子)、女3(松岡洋子)、女4(今村祥佳)の4人(登場順)で、別役実劇のように名前を持たない。舞台にはベンチがふたつ。女性たちはそこに座って、ほとんど客席に向かって話す。少人数のキャストで身体接触の極めて少ない作りはコロナ対策でもあるだろうが、そういった事情を過度に感じさせない演劇的旨みをもたらしている。

 重い病だという女1は、手術を控えて旧友に会いたいと思うが、これといって目立つ生徒ではなく、特別に親しい友だちもいなかったらしい。それでもやや強引に呼び出された女2を皮切りに、同じバレー部のキャプテンだった女3、同窓会の幹事女4が芋づる式に見舞いに来ざるを得なくなる。女1ははじめのうちこそ、わざわざの来訪を喜び、友情に感謝するが、徐々に、あるいは突然に過去のあれこれを蒸し返して相手への(時にはその親にまで)恨みつらみを炸裂させる。

 いったいどちらの言い分が事実なのか、女1の目的は何なのか、そもそもこの人はほんとうに重い病気なのか、あるいは女1はほんとうに存在したのか。

 女1を演じる市橋朝子の造形が際立っていて、簡単にサイコパスと一括りにできないところや、態度を急変させる手つきを見せないところがいっそう不気味だ。ほかの3人も、女1に翻弄されるようでいながら、ふとしたはずみに見せる棘や影、したたかな性根が「この人たちも怪しい」と思わせる。

 この堂々巡りのような歪んだ会話劇をどう収めるのか、固唾をのんで見守った。開幕してみるみるうちに危険な劇世界を構築し、観客をも翻弄、混乱させながらのこの終幕をどう捉えてよいのか、いまだに迷っている。台詞ひと言ひと言をおろそかにしない劇作家の筆力と、丁寧で辛抱強い演出(そのように想像する)、それに応える4人の躍り手を以てすれば、違うところへ観客を連れ出すことが可能だったのではないだろうか。
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