因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『ナイゲン』<暴力団版>

2019-10-26 | 舞台

*原作・冨坂友『ナイゲン』屋代秀樹作・演出 公式サイトはこちら 花まる学習会王子小劇場 28日まで1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14

 寡聞にて「ナイゲン」は今回の<暴力団版>が初見である。本作について、遅ればせながら調べてみると、アガリスクエンターテイメント主宰の冨坂友による戯曲で、同劇団で何度も上演された非常に評価の高い作品であること、いくつもの外部団体が、それぞれ自分たちの「版」として上演し、高校や大学の学祭でも上演されている「会議型コメディ」であるとのこと。例えばこちら。詳しいデータ分析を行ったサイトも。

 ちょうど前の週、同じ花まる学習会王子小劇場で、果報プロデュース『ナイゲン』が冨坂自身の演出で上演され(未見!)今回の日本のラジオ公演と合わせて「ナイゲンW観劇企画」となった。ある高校の文化祭についての会議という設定が基本であるらしいので、<暴力団版>とは相当に画期的であり、互いに相手を信頼すればこその思い切った手渡し方(原作者から屋代秀樹への)である。

 暴力団三代目空蝉組は、関東最大組織の藤道会傘下に入ることになった。しかし藤道会会長から唐突に提示された条件は、藤道会と対立する鬼灯会幹部内藤ゲンシロウ(通称ナイゲン。ここにでてくるのか…)を殺せという命令であった。舞台は空蝉会月例会。三代目組長、若頭、本部長を上座に、藤道会から招いた相談役、ほかに初代のころからの生えぬきで筋金入りの極道、ややライトな印象の者まで13人が登場する。

 劇場を細長く使い、客席は左右、正面の三方向から演技エリアを見る形で、誰がナイゲンを殺すか、極道のけじめ、筋はどうなるのか、男たちが喧々諤々の大議論を展開する。13人の俳優それぞれが個性、持ち味の活かされる配役は見事というほかはなく、舎弟たちの肚の探り合いや裏切りに右往左往する堅気の三代目、信用できるのは誰なのか、まさかの急展開による終幕まで90分間を一気呵成に走り抜ける。

 暴力団という特殊組織について、既成のドラマや映画から刷り込まれたイメージのどれでもなく、13人の男たちも「あるある」風の造形はひとつもないと言ってよい。実に見応えのある議論劇であり、堅固に構築された劇世界だ。「仁義と算用と理不尽の飛び交う、ノワール会議劇」(公演チラシより)は、進むにつれ客席の反応も上々、終演後は爽快ですらあった。

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