*谷賢一(DULLーCOLORED-POP)作・演出 詳細は谷賢一のサイトに記載あり 新宿タイニイアリス 4日まで
劇作家がその俳優の個性に当てて戯曲を書くのが「当て書き」だが、出演俳優にやりたい役を決めてもらい、それらが全部登場する台本を書きあげて、上演するのが今回の試みだそう。
出演俳優は10人。「当てられ書き」の成果やいかに。
死のうとしている女がいる(如月萌)。捨て犬と戯れながらわが身の不幸をわめいているところに宇宙人たちが現れる。遠い星雲から人間の不幸せを探しにきたのだそうだ。
当日リーフレットによれば、たとえばヒロインの如月萌は「妊娠一ヶ月半 父親不明」、萱怜子は「宇宙人。普段は地球人の振りをしている」と記されている。俳優にはまったくランダムに「こんな役が演じたい!」ということを第一に決めてもらったのか、「当てられ書き」がどの程度のところまで及んでいるのかはわからない。今回の出演俳優のうち、別の舞台でみたことがあるのは菊池奈緒(elePHANTMoon)と安川結花(アロッタファジャイナ)のだけで、お2人に関しては自分なりに「こんな感じの俳優さん」というイメージがある。安川は所属劇団ではヒロイン専科の印象だが、今回は「アル中のニート作家」という意外な役柄。そのほかの俳優さんはおそらく今回が初めてで、特に男性陣はどの人がこの役ということがなかなかつかめなかった。
俳優が演じたいというバラバラな人物をともかくも関連づけ、1本の舞台になっている。「何が書きたいか」という劇作家の創造活動にとって、もしかしたら最も重要なことを俳優に委ねているわけだ。そう考えると大変な試みだと思う。しかし目の前の舞台は「これこそ当てられ書きの演劇的効果か!?」という確かな手ごたえを伝えるものではなかったと思う。バラバラのキャラクターの人物があれこれ出てきて混乱するパターンは珍しくなく、いつのまにか自分も意識しなくなっており、一夜明けると自分が「当てられ書き」に何を求めていたのかもわからなくなっているのだった。
たとえば女優なら一度は演じてみたい役柄として、マクベス夫人や『欲望という名の電車』のブランチなど、狂っていく、壊れていく女性が挙げられることは容易に想像がつく。しかしその人物単独で作品は成立せず、他の登場人物との関係性があり、物語があって役柄が存在するのだ。今回それぞれの役柄に「○○な××」という記され方がほとんどであることに改めて気づく。物語がないのだから役柄に背景を持たせ、多少説明的になってしまうのであろう。そのため鈴木麻美には「妹」というまことにシンプルな役柄があって、ここにおいてのみ「誰の妹か?」という他者との関係性が示されているのである。では鈴木の「妹」がほかの人物に比べて何か違いがあるかというとそうでもなく、自分はいよいよわからなくなるのだった。
平日のみの公演だがほぼ満席の盛況で活気にあふれ、劇場には谷賢一への期待が漲っている。これからバリバリ活動する元気いっぱいの若手であることは間違いないだろう。俳優も劇作家もいっしょに大暴れした印象の本作だが、ひといき入れて心と筆を鎮め、次回作に向かわれたく。
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