因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

松竹チャンネル「明治座三月花形歌舞伎」出演者座談会

2020-04-14 | 舞台番外編

 松竹チャンネルにおいて、中止になった3月の歌舞伎公演関連の動画が期間限定で無料配信されている。今夜は「明治座三月花形歌舞伎」出演者による座談会の模様を視聴した。出演俳優皆さん着物姿で明治座の舞台に揃っての座談会は、「駒形茂兵衛をつとめる予定でした中村勘九郎です」、「清大工をするつもりでした澤村由次郎です」という自己紹介に始まった。それぞれの作品、自分のお役について語る様子は和やかで楽しいが、同時にこれほどの思い入れを以て稽古を重ねていたことでもあり、心中察するに辛いものがある。

☆『一本刀土俵入』…1931年六代目尾上菊五郎によって初演された長谷川伸の傑作戯曲。歌舞伎にとどまらず、新国劇から女剣劇まで広く上演され、映画やテレビドラマ、歌謡曲もある人気作品だ。まだ一度も観劇したことのないわたしですら、「しがねえ姿の土俵入りでござんす」の台詞だけは知っている。幕間無しで10年の月日が経過する作りになっており、人物それぞれの変化を見せるのが非常に難しいとのこと。当時の雰囲気を出すのに苦心しつつも、お蔦役の中村七之助の「お客さまが最後に“いいものを観たなあ”と思っていただけるものにしたい」という言葉が出演者の気持ちのすべてではないだろうか。おもしろかったのは、出演者が座談会に舞台で身につける小道具などを持ち込み、披露してくれたことだ。七之助は母方祖父の先代中村芝翫使用の湯呑を、勘九郎も祖父(ということは、十七代目中村勘三郎のことだよな)使用の草鞋や褌のみならず、さらに六代目の祖父(ということは六代目尾上菊五郎?!)使用の手拭まで…。父祖が使っていた衣裳を身につけ、小道具に触れることによって「パワーを得られる」のだそう。

☆「車引」「芝翫奴」「近江のお兼」…ここでも坂東巳之助が梅王丸が使う長刀を実際に抜いてみせたり、中村壱太郎が晒しを振って舞を披露したり、どれほど演じたかったか踊りたかったか…。

☆「桜姫東文章」…今回の公演の目玉の演目。上演時間は「休憩無しで4時間」という大作である。片岡仁左衛門と坂東玉三郎の共演で人気を呼んだが、今回は玉三郎が監修をつとめ、仁左衛門も稽古場を訪れたという。出演者の表情や口調には憧れの演目を継承する喜びと高揚感が溢れており、文字通り満を持しての上演、準備万端整って初日を迎えるはずだったという。どの役にも「しどころ」があり、物語の整合性など、現代劇の観念からすれば矛盾やつっこみどころも多々あるが、劇場で体感すれば納得できる作品(片岡亀蔵)というから、これはもう何とかして上演されることを切望する。

 座談会の最後は出演者全員で、中村長三郎(勘九郎次男)が毎日やっているという「手洗いの唄」を振り付きで披露し、「必ず明治座さんに帰ってきます」と挨拶して終了した。実際の舞台に全員が揃い、それぞれ演目の舞台美術前できちんと行われたもの(つまり都度舞台セットを整えたわけである!)だったので、舞台の様子をより強く想像できただけでなく、いつかこれらの演目に会える日に向けて、非常に有効な勉強の機会にもなった。

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