因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

NHK Eテレ「にっぽんの芸能」より「徹底解剖!勧進帳」その1

2020-04-10 | 舞台番外編

*番組公式サイトはこちら 古谷敏郎アナウンサーと南野陽子が案内役をつとめる。舞台中継と演劇評論家・渡辺保の解説で、屈指の人気演目である「勧進帳」の魅力を2回にわたって紹介する(2012年6月15日放送)。

 本作は市川宗家の歌舞伎十八番のひとつで、七代目市川團十郎が確立し、現在は「劇聖」と称えられた九代目団十郎のかたちで繰り返し上演されている。人気の秘密は①長唄の名曲が用いられていること、②勇猛果敢な武蔵坊弁慶、頭脳明晰な富樫左衛門、品行方正な源義経という日本人男性の生き方の典型を示しているため。前半のみどころは①勧進帳の読み上げの場、実際は何も書かれていない巻物を勧進帳として必死に(という内心は隠す)読み上げる弁慶、疑ってのぞき込もうとする富樫からすばやく身をかわす弁慶、不安にかられる義経という「三方の気味合」の緊張感、②弁慶と渡辺氏の解説は、具体的なポイントを順番に示しながら核心に迫る。

 番組では2011年7月に行われた新橋演舞場公演の舞台が紹介され、武蔵坊弁慶を演じるのは十二代目市川團十郎である。ごく短いがインタヴュー映像もあり、ほんの数年前まで舞台に立っていた人の不在を思うと胸が詰まる。

 渡辺氏の著作に『勧進帳―日本人論の原像』(ちくま新書)がある。文学座のアトリエ公演で上演されたポーランド演劇『パスポート』(ピエール・ブルジュアッド作 鵜山仁演出)から「勧進帳」を想起したという斬新な導入部にはじまり、本作の誕生からその歴史を、全十九段の詳細な解説に続いて、黒澤明監督の映画「虎の尾を踏む男達」の読み解きから、弁慶、富樫、義経の3人の男の生き方から現代日本人論へと進んでいく。「勧進帳」に留まらず、舞台をより深く味わうための具体的な手法、心構えなどは、さまざまな作品に対して有効であり、むずかしい専門用語を使わず、読みやすい文章に励まされることもあり、読み返す機会が多い。

 前述のように、番組で紹介されるのは2011年7月新橋演舞場の公演で、これは市川海老蔵が例の事件で謹慎後、復帰の舞台である。長唄や台詞が画面に字幕で示されるので大変わかりやすい。5月から3ヶ月間行われる予定だった十三代目市川團十郎白猿襲名披露興行の延期が発表されており、紆余曲折を経て父祖の名を受け継いだ弁慶に会える日を、心静かに待ちたい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 戯曲読み☆谷賢一『福島三部作... | トップ | NHK Eテレ「にっぽんの芸能」... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台番外編」カテゴリの最新記事