*第一部『彦山権現誓助剱』(ひこさんごんげんちかいのすけだち)
*第二部『盟三五大切』(かみかけてさんごたいせつ)
大阪松竹座 公式サイトはこちら 25日まで
「片岡仁左衛門昼夜の仇討」と銘打ち、関西での通し上演は前者が67年ぶり、後者ははじめてとのこと。このところ歌舞伎座さよなら公演や御名残公演で、たくさんの演目もりだくさんの上演が続いていたので、通し狂言をじっくりとみるのは久しぶりだ。いろいろなお料理を少しずつ歩きまわりながら食べるバイキングもおもしろいが、ひとつのお料理がどうやって作られているのかを落ち着いて味わうのも楽しい。
役者の好みはそれぞれだが、片岡仁左衛門のことを嫌だ、好きになれないという人にいまだお目にかかったことがない。熱狂的なファンはもちろんのこと、贔屓役者はいても「仁左衛門さんはべつ」なのだ。みんなが大好き。すっきりとした美しい容姿や声だけでなく、神々しく崇高な精神を感じさせる『道明寺』の管丞相、『仮名手本忠臣蔵』や『寺子屋』では、どの役をやってもピタリとはまり、主役のときは華やかで、脇で支えるときは手堅く、どちらでも客席を楽しませ、幸せな気持ちにさせてくれる。まさに当代きっての花形役者であり、今回2本の仇討ものは、この人の舞台をみる至福をたっぷり味わえる演目である。
第一部。九段めの「毛谷村」はテレビの舞台中継でみた記憶があり、主人公の六助は市川団十郎で、一味斎お幸は中村又五郎であったか。仁左衛門の六助は今回が初役とのことだが、正義感が強く親思いで剣はめっぽう強い素朴な若者を演じてすでに「当たり役」の風格あり。登場する後半から舞台も客席も熱を帯びて、華やいだ雰囲気が満ちてくる。
第二部。劇団青年座やコクーン歌舞伎などで何度かみた演目だ。忠臣蔵の外伝ものであり、○○と名乗っている人物が実は××でという具合に人間関係が複雑で、頭には一応入っているつもりだが、人に説明するにはむずかしい。不運な勘違いやすれ違いが重なって血みどろの惨劇に発展する物語だ。
前者は家族が力を合わせてみごと仇討を果たす場面が爽快であり、後者は主君の仇討をめぐって人生を大きく狂わされた者たちの様相に胸が痛む。いずれも終幕は舞台がからりと明るくなって、出演俳優そろって舞台正面に座り、「まず今日(こんにち)はこれぎり」の口上が清々しく、「ああ、楽しい一日だった」と劇場をあとにした。
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