やっぱり、続け切ることが成功なんです。
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モーツァルトで甘く育て 農園主、笑われても25年
朝日新聞 2018年10月9日15時47分
音楽で果物や名産品を育てるアイデアが広まっている。経営難を脱する切り札としたり、「癒やし」を商品の価値に加えたり。ここちよい職場環境の効果を実感する人もいる。音響効果を疑問視する声もあるなかで、長年、真剣に取り組む生産者たちがいる。
鹿児島県大隅半島。山あいにブドウ畑が広がる「浜田農園」(錦江町)で7月、地元演奏家が奏でるモーツァルトの調べが響いた。ブドウ狩りの始まりを告げるセレモニーだった。
同園では25年ほど前から「音響栽培」を続ける。シーズン中、家族連れら約5千人が訪れる。
「賭けでした」
浜田隆介代表(48)は音響栽培を始めた当時を振り返る。農業大学校1年の時に父が急死。卒業後、実質的な経営者になったが、経営は素人。借金と台風の被害で、経営は苦しかった。
数年後、偶然手にした雑誌に、家畜に音楽を聴かせると肉がうまくなるという特集記事があった。これだと思った。ブドウ棚の上に6個の小型スピーカーを置き、朝8時ごろから日没までモーツァルトを流す。
「ブドウに耳があるのか」。始めて間もないころ、客から笑われた。「ひと手間、心を込めて育てたプラスイメージが加わる」として「クラシックブドウ」として売り出した。
音響栽培を始め、実が甘くなった気がした。10年続けたころには「甘い」「おいしい」という客の声が増えた。借金も返済。農園は父から受け継いだ約7倍、140アールに大きくなった。
正直、音響効果の理論的な裏付けは今も分からない。「続けてきたのは、ただ喜ぶお客の顔をみたいから」と浜田さんはいう。
9月末、ブドウ狩りが終わり、音響栽培のシーズンを終えた。来年、モーツァルトが流れる農園の春が待ち遠しい。
宮崎県都城市の青果卸「都城大同青果」。「室(むろ)」と呼ばれる倉庫が並ぶ。内部でバナナが入った段ボールに、モーツァルトの音楽が降りそそぐ。輸入後5日ほど聴かせる「音響熟成」だ。
きっかけは11年前。老朽化した室を建て替える際、永田共孝相談役(66)が出入りの工事業者から、ライバル会社が音響熟成で甘いバナナをつくっている、と耳打ちされた。
「クラシックを聴いたバナナに思いをはせれば癒やしになる」。そんな消費者目線から始めた。会社にメールで「ユニーク」と好意的な意見がある一方、「クラシックをバカにするな」「おいしくなるはずがない」と批判も寄せられた。
社内実験の結果、音響熟成は、そうでないバナナよりも糖度が高いという結果も出たという。「理屈は分からないが、バナナに癒やしと甘みの付加価値をつけられた」と永田さんは話す。
ふかし芋のような甘い香りが漂う蔵にベートーベンの交響曲「田園」が昼夜、流れる。
鹿児島県薩摩川内市の焼酎の蔵元「田苑酒造」。1991年から、原料のもろみを発酵させるタンクの外側に、音を振動に変える特殊なスピーカーを取りつけた「音楽仕込み」の酒造りに取り組む。
元蔵人で、営業企画室の松元太吾さん(32)は「理屈は分からないが、音楽の振動で発酵が早くなり、味、香りが良くなる。菌の命を感じます」。
かつお節生産量日本一。鹿児島県枕崎市の老舗「金七商店」は、カビをつける高級かつお節「本枯れ節」の熟成過程に音楽を流す「クラシック節」を販売している。
きっかけは11年前、福岡であった実演販売のイベントで、4代目の瀬崎祐介さん(38)が、見学していた子どもから言われたひと言だった。「それ、お好み焼きにかける粉と同じなの?」
かつお節が魚からできることを知らなかった。かつお節ができる過程を多くの人に知ってもらおうと、話題づくりに「クラシック節」を考案した。
かける曲はモーツァルト。カビのきめも細かくなったというが、瀬崎さんは別の効果も実感している。
「曲は心を和ませる。カビつけは、1本ずつかつお節の表面を指先でなでて確かめる。根気のいる作業だが、冷静にできるようになった」
「音楽を聴かせて♪農産物に付加価値を」。熊本市で館内放送などの設備工事を請け負う「ツウートクエンジニアリング」は2007年、音響栽培の分野に新規参入し、音響機器を販売するビジネスを始めた。
「熊本は農業県。地元の地域おこしに一役買いたい」と担当者。阿蘇市の農家と約10年間、効果の実験を繰り返しているという。(大崎浩義)
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批判されても、続け切る。正しいと信じたことを、続け切る。モーツァルトもベートーヴェンも、お役に立てて悦んでいることでしょう。
モーツァルトやベートーヴェンを聴けば、人間も心が和みます。植物だって同じではないでしょうか。それを信じて、特に25年続けられてきた浜田さんには、頭が下がります。
続け切らねば。
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