江戸川区に住んでいたら、この人に投票したのに……。
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「路上禁煙区域」で吸う人の論理
キーパーソンに聞く
江戸川区日台親善議員連盟会長、前の田中けん氏に聞く
日経ビジネスOnLine 2017年2月2日(木)
鈴木 信行
2020年の東京五輪を前に、禁煙問題が社会的な課題となっている。「タバコのない五輪」を掲げるIOC(国際オリンピック委員会)は、五輪会場はもちろん、開催都市の屋内施設の禁煙化を目指しているが、日本及び東京では、一部の自治体が受動喫煙防止の法制化に取り組んでいるものの、罰則規定が弱いなどまだ不十分なのが現実だ。
加えて、多くの非喫煙者は「喫煙問題に関しては、今の日本ではたとえルールを作っても十分に機能するかは不透明」とも考えている。そんな諦めの根拠となっているのが、自治体が定めた「路上禁煙区域」でも意に介せず堂々と吸う喫煙者の存在だ。受動喫煙防止運動の第一人者と共に、路上禁煙区域で吸う人の論理を分析する。
聞き手は鈴木信行
田中 けん(たなか・けん)
1966年1月6日、江戸川区生まれ。新小岩幼稚園卒園、江戸川区立第三松江小学校卒業、 江戸川区立松江第三中学校卒業、東京都立墨田川高校卒業、千葉大学教育学部小学校教員養成課程卒業。1995年江戸川区議会議員に初当選。2015年同選挙に落選。現在、シェアハウスを経営しつつ、介護職員として特別養護老人ホームに勤務。議員への復活当選を目指し充電中。政界におけるアニメ通としても知られ、共著に『100人がしゃべり倒す!「魔法少女まどか☆マギカ」』(宝島社)『「“外国人参政権”で日本がなくなる日』(別冊宝島)。
区議会議員時代から、最重要政策として「受動喫煙防止」と「きれいな空気の実現」を掲げられてきました。この問題に携わるきっかけは何だったのですか。
田中:12歳の時に、81歳の祖父が肺癌で亡くなったことです。祖父は「SHINSEI」というタバコが好きでした。ヘビースモーカーでしたが、あの時、大切な家族に先立たれる悲しみを嫌というほど味わいました。禁煙問題に関しては、よく「吸う個人の自由も尊重せよ」という主張があります。が、喫煙は本人の健康を損なうだけでなく、将来的に家族を悲しませる可能性が高い上、他人の健康と気分をも害する行為であり、近代社会に認められた「個人の自由」をそのまま当てはめるわけにはいきません。人の身体は、その人のためだけにあるわけではないのです。総合的に見て本人と社会全体の利益になるならば、時に本人の意志を無視してでも、その行動を止めさせることが正当化されるパターナリズム(父権的温情主義)の考え方です。喫煙に関する個人の愚行権が制限される根拠がここにあります。
凄いなと思うのは、そうやって議員時代から関連法制度の制定を呼びかける一方で、自ら「行動」されてきたことです。駅前で長年、公共の場でタバコを吸う人々に、声掛け運動を続けられたとか。様々なトラブルに見舞われたと思いますが…
火のついたタバコを投げ付けられる
田中:江戸川区内の各駅前で活動を始めた当初は、「タバコぐらい吸わせろ」とか「他の奴にも言え」などと怒鳴られたり、火のついたタバコを投げつけられたりすることもありました。また区条例の表題は「路上喫煙禁止」ではなく、「歩行喫煙・ポイ捨て禁止条例」なんですね。このため、喫煙を注意すると「俺は歩行喫煙してない、立ち止まって吸ってる」とか「座って吸ってる」などと幼稚な反論を真顔でする人がいました。また「持っています」と言って携帯灰皿を私の目の前に差し出し、暗に「ポイ捨てはしていないので、条例違反をしていません」とアピールしてきた女性もいました。もっとも、そうした屁理屈を言う人はまだかわいい方で、警察沙汰になったこともありましたね。
どんな状況だったのですか。
田中:いつものように駅で声掛けをしていた時のことです。喫煙禁止の看板の前で吸っている方がいたので「すみません、ここは禁煙ですよ」と声かけしました。反応がなかったので、近づいて話しかけたところ、その方はいきなり私の顔めがけタバコの煙を吹きかけてきました。
議論じゃなくていきなり実力行使ですか…。
田中:私が「傷害ですよ」と言ったら「傷害なら傷害で訴えてくれ」と反論してきました。そこで私は目の前の駅前交番に駆け込みました。
基本的な疑問ですが、タバコの煙を吹きかけるのも傷害になるんですか。
田中:その点については専門家の間でも意見が分かれるようですが、この時の警察官は加害者を交番に連れて行き、事情聴取をしました。その後、刑事の方も来られて「本部の方へも確認したが、タバコの煙を吹きかけた程度では暴行罪としての立件は難しい。とはいえこのまま無罪放免というわけにはいかないので、本人を警察署に連行して始末書を書かせます」と言ってくれました。
警察も結構真摯に対応してくれるものなんですね。警察に連行されて反省文なんてなかなかのダメージではないですか。
我慢しているのは非喫煙者の方だ
田中:最近は喫煙を巡る社会的環境が変化しつつあるのか、反抗的なこの手のトラブルは随分減りました。路上喫煙を注意すると、素直にタバコの火を消したり、消さないまでも決まり悪そうに歩いて逃げたりしていく方が多くなりました。
それでも、吸うは吸うんですね(笑)。今の日本で受動喫煙防止を進めることがいかに困難か分かります。
田中:今、進んでいる受動喫煙防止の議論の中には、違和感を持つ主張もあります。自分達を「被害者」と位置付け、嫌煙家を攻撃している人たちの主張です。「禁煙ファシズムによってタバコを吸える場所はただでさえ減り続けている。そのうえ受動喫煙防止だなんて、なぜ喫煙者だけが一方的に我慢し続けなければならないのか」という論理ですね。でもこれは大きな誤解で、これまでずっと非喫煙者こそが我慢を強いられてきたのです。
なるほど。
田中:そんな非喫煙者の本音を上手く表現しているのが、アニメ『世界征服~謀略のズヴィズダー~』です。
著作物の引用の5原則を遵守しつつ引用してみましょう。第3話「煙に巻いて去りぬ」より、ヒロイン・星宮ケイトが公共の場でタバコを吸う喫煙者を論破した直後、騒ぎを見ていた群集が発した台詞です。
よく言ってくれました。ちょっとですけど、すっとしました。本当迷惑してたんです。ほら、あの人達に何を言っても逆ギレされるだけだから…。
私達は諦めかけていました。彼らに人の言葉は通じない。彼らはきっと別の星から来た人間なんだと。
出所:『世界征服~謀略のズヴィズダー~』第3話「煙に巻いて去りぬ」
喫煙禁止と書かれた看板の前で吸っている人もいるわけですから、このぐらいのことを思っている人が現実にいてもおかしくない気がします。彼らは一体、何なんですかね。
田中:厳密な分類ではありませんが、私は主に次の4つのタイプに喫煙者を分けています。①そこが路上禁煙区域と気づかず吸っている人、②ニコチン中毒患者、③喫煙場所を見つけることができず、そこで吸ってしまう人、④遵法意識が希薄で、今、自分が吸いたいから吸っている人です。①は注意すると多くは喫煙を止めてくれます。②はケースバイケースですが、病院へ行って治療をすれば問題は解決します。③は本来望ましいとは言えませんが、近くに喫煙所を作ればそこに移動してから喫煙するようになるでしょう。ただし④は、自己中心的で、反抗的かつ時に暴力に及ぶ人もいます。
罰則のある法制度を確立するしかないが…
つまり、①~③までは社会デザインの工夫や、医療及びテクノロジーの進化で解決策を見出せるかもしれないが、④についてはすぐにはどうにもならない、と。
田中:罰則のある法制度を確立し、徹底的に取り締まるしかありません。タバコを違法薬物に指定するとか、一箱2,000円以上に値上げするなども効果的です。
しかしそれにはまだ、時間がかかります。実効性ある法制度が確立するまでは、やはり田中さんのように、声掛けをしていくしかない?
田中:喫煙者への注意は出来る人と出来ない人がいるでしょうし、各自が出来る範囲でやるしかない、と言う他ありません。既にお話した通り、安全な作業ではありませんから。
確かに。喫煙を巡るトラブルは全国的に多発していて、2016年3月には兵庫県加古川市で、75歳の男が、タバコのポイ捨てを注意した6歳の男児の首を絞める暴行事件が発生しました。この手のトラブルが一つでもあると、幼い子供を連れた人などは、路上禁煙区域で吸う人に声掛けすることなど到底できません。
田中:そういう人は交番に行って、警察官に注意してもらう方法があります。駅前ならば駅員に言えば対応してくれます。また、喫煙者の素性が分かれば所属団体に通報するという方法も有効です。禁煙車なのに路上喫煙しているドライバーを見かけますが、タクシー会社、運転手名、ナンバーなどを記録して、国土交通省に連絡すると良いでしょう。以前、江戸川区の紋章を付けているにも関わらず、タバコを吸いながら自転車整理をしていた係員達を注意したことがあります。彼らはなかなか手強くて「何で吸っちゃいけないんだ。誰が決めたんだ。お前が決めたのか」と食って掛かってきて、挙句の果てに「なんだお前は議員だろ。偉そうに。区民に向かって何だ」と逆切れされました。埒が明かないと感じた私は事件があった当日役所へ行き、担当職員に事件の報告をしました。結果、江戸川区駐車駐輪課の課長と江戸川区熟年人材センターの事務局長が調査に乗り出し、「今後勤務態度に改善が見られなければ配置転換を含めて検討する」との返事を受けました。
なるほど本人に言って埒が明かなくても、所属団体に訴えれば解決も早い、と。
田中:「きれいな空気の社会」を実現するには、条例による上からの改革だけでは不十分で、多くの人たちの意識を変えさせるという意味でも、「現場を見たら注意する」という下からの行動が不可欠です。しかし下からの行動にはリスクがある。「各自ができる範囲でやってみましょう」というのはそういう意味です。
吸ってない人間は吸ってる人間を許しているわけじゃない
分かりました。もちろん、非喫煙者の中には「俺は面と向かって路上喫煙を注意する勇気と度胸がある」という気合の入った人もいるでしょうから、そうした人達の参考になるように、最後に再び『世界征服~謀略のズヴィズダー~』から引用しましょう。星宮ケイトが喫煙者を注意する時の台詞です。言葉は多少乱暴ですが、確かにこのぐらい言えば路上喫煙者の心にもあるいは響くかもしれません。
てめえは、飯を食ってる横でウンコの臭いがしたらどう思う? いや、ウンコの臭いはまだ体に害はない。お前の一時の気休めのために毒ガスを吸わされるここの全ての人間は寿命を縮められるんだ。
いいか、周りをよく見てみろ。吸ってない人間は吸ってる人間を許しているわけじゃねえ。吸ってない全ての人間はお前を呪い、お前の死を願っていることを覚えておけ。
出所:『世界征服~謀略のズヴィズダー~』第3話「煙に巻いて去りぬ」
なかなか過激な台詞ですね(笑)。実際に使うと、首を絞められるどころでは済まないような…。
田中:くれぐれも無理は禁物です(笑)。各自、出来る範囲から始めましょう。
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まったくもって、その通り。
非喫煙者は、喫煙者のルール違反を許しているわけではないのです。見て見ぬふりをしてあげているのです。その意味で、イネイブラーに成り下がっていると批判されても、仕方ありません。ルール違反者に逆ギレされて不愉快になるのは、多くの人には嫌なことなのですから。
だからこそ、厳しい罰則を設け、そういうルール違反者を公職に就く人間(たとえば、警察官)が取り締まるしかないのです。
にもかかわらず、行政は甘い。その結果、先進国とは思えない喫煙天国が生まれ、多くの人びとの健康が害されています。ありえないことです。
田中さんのような人に政治の場でもっと活躍できる機会与える気になるように、非喫煙者は自分たちの被害を深刻に考えるべきです。
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