がんばれ、七人の侍!
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わずか7人で難曲に挑む、「日本一の家族」の証明(奏でるコトバ、響くココロ)
朝日新聞 2017年9月13日22時00分
青梅六中吹奏楽部の7人。右端がソプラノ&テナーサックスを担当する早川ひよりさん=東京都青梅市、朝日教之撮影
■青梅市立第六中学校
お前らだけのコンクールじゃない
北海道、東北、東関東、西関東、東京、北陸の6つの支部から小学校、中学校、高校の代表が集まって行われる東日本学校吹奏楽大会。中学、高校部門は30人まで出場でき、小編成の最上位大会にあたる。その中学校の部に今年注目の学校が出場する。
東京代表の青梅市立第六中学校だ。
東京でありながら、夏には小川にホタルが飛び交い、ときどきクマやイノシシも出没する緑豊かな地域に位置している。学区内にはコンビニエンスストアもない。2017年度の全校生徒数は49人。各学年1クラスだ。
そんな青梅六中の吹奏楽部は今年、わずか7人という部員数でコンクールに挑戦し、東京代表の座をつかんだ。1年生2人、2年生2人、3年生3人。そんな青梅六中の奏でた「吹奏楽」が、3倍、4倍の人数で出場した学校以上に評価されたのである。
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青梅六中は今年で3年連続の東日本学校吹奏楽大会出場となる。一昨年は18人、昨年は11人で出場した。今年はついに部員数が一ケタになってしまった。少子化の影響は、東京都内であっても深刻なのだ。
指導にあたっている顧問の田村拓巳は一計を案じ、作曲家の「ジェリー・グラステイル」こと冨田篤(打楽器奏者、指導者としても知られる)に相談した。そして、7人でも十分な響きを持って奏でることができる新曲《AUBADE STREAM(オーバード・ストリーム)》を委嘱した。
7人のうち、2、3年生の5人が楽器の持ち替えをする。フルートはピアノを含む打楽器、B♭クラリネットはE♭クラリネット、ソプラノサックスはテナーサックス、アルトサックスはバリトンサックスを兼ねる。金管楽器はひとつもない。
演奏で部員一人ひとりが負う責任は重い。《AUBADE STREAM》もリズムが複雑で難易度の高い曲だ。それにもかかわらず、青梅六中が質の高い演奏を実現できているのは、同じ地区で幼いころから共に育ち、「名前が書かれていなくても、見れば誰の持ち物かわかる」くらいに気心の知れた部員同士の関係性がある。
音楽室には「日本一の家族」と書かれたはり紙がある。まさに家族のような部活だった。
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ひよりが吹奏楽を始めたのは中学に入ってからだ。1年生で東日本学校吹奏楽大会に出場して銀賞を受賞。昨年の同大会では金賞だった。今年3月に行われた全日本アンサンブルコンテストでも金賞を受けた。そのときは木管八重奏で出場したが、今はそれより少ない7人での活動だ。
「もはやアンサンブル部だな……」
今年度の活動が始まったころ、ひよりはそう思った。入部した当初は部員数が少ないのが当たり前だと思っていたが、他の学校にはもっとたくさんの部員がいて、コンクールに出るにも、メンバー選抜オーディションがあると知って驚いた。
今は3人の最上級生の一人として、また、副部長としてこの小さな吹部を支えている。
ひよりは10月14日に予定されている今年の東日本学校吹奏楽大会に向かって練習をしながら、いつも心にひとつのコトバを抱き続けていた。
「お前らだけのコンクールじゃない」
都中学校吹奏楽コンクールに挑む前の大切な時期に、顧問の田村に言われたコトバだった。
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当時、ひよりには気がかりなことがあった。
自分たち3年生の3人は、幼少から一緒に過ごしてきた仲で、コトバにしなくてもお互いの考えていることはわかる。「中学校最後の年を、東日本学校吹奏楽大会の金賞で飾ろう」。3年生はみんなそう思っていた。
ただ、あまりにお互いをわかりすぎているために、部内で会話をする機会が極端に減っていた。わかっている気になって微妙に気持ちがすれ違い、それが音楽にも現れているような気がしていた。
「このままでいいのかな……」
ひよりが漠然とそう考えているとき、3年生に向かって投げかけられたのが、「お前らだけのコンクールじゃない」という田村のコトバだった。
田村は続けてこう言った。
「東日本学校吹奏楽大会には三出制度(3年連続で出場すると、翌年は出場権がなくなる)があるから、もし今年も出場が決まったら、2年生にとっても最後の東日本大会への挑戦になる。最上級生の3人は、2年生のことを考えたことがあるのか?」
自分たちだけのコンクールじゃないんだ、とひよりは気づいた。ふたりの2年生にとっても今年が最後かもしれないんだ。なのに、私たち3年生のコミュニケーション不足のせいで、部活や演奏にゆがみが出ている。このままではいけない。
「よし、2年生にとっても悔いの残らない、最高のコンクールにしよう!」
ひよりは気持ちを改めた。その日から積極的に後輩たちに話しかけるようにした。3年生がリードするだけではなく、後輩たちの意見にも耳を傾け、誰もが発言できる雰囲気に変えていった。空気が変わると、音楽も変わった。
青梅六中は8月8日の都中学校吹奏楽コンクール東日本部門で金賞を受賞。翌9日の成績発表では東京都代表に選出された。
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小川が流れるのどかな集落に、今日も7人の奏でる楽器の音が響いている。
ひよりは思う。
部員数や迫力では他の学校にかなわない。でも、美しい音色や繊細さ、統一感のある演奏は7人だってできる。聴く人に「やっぱり人数が少ないね」と言われたくない。青梅六中にしかできないサウンドを東日本学校吹奏楽大会で響かせ、最高の賞に輝きたい。
3年生だけのコンクールではないから。
音楽室にある「日本一の家族」のはり紙のとおり、私たち7人と先生、青梅六中吹奏楽部が日本一の家族だということを、音楽で証明しよう。(敬称略)
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オザワ部長 吹奏楽作家。1969年生まれ、神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部文芸専修卒。自らの経験をいかして『みんなのあるある吹奏楽部』シリーズ(新紀元社)を執筆。吹奏楽ファンのための「吹奏楽部」をつくり部長に。
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記事を読んで、貧乏英語塾長、泣いてしまいました。
こんなにすばらしいブラスバンド部が東京にあったことを知ることができたからです。青梅六中の7人の部員もすばらしければ、顧問の先生もすばらしい。この文章を読んだだけで、感動的な音楽が聞こえてくるようです。
東日本学校吹奏楽大会での成功を祈念してやみません。
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